抄録
びまん性汎細気管支炎 (DPB) の特徴の一つとしてムコイド型緑膿菌の気道内長期定着があげられる. 本研究はDPBにおける緑膿菌アルギネートの意義を明確にする目的に行われ以下の成績を得た. 1.気道内におけるムコイド型菌の存在は, 周辺にアルギネートを多量に産生している. このアルギネートが抗原となり生体側にこれに対する抗アルギネート抗体が産生され, そのIgG抗体価は緑膿菌陽性のDPB症例 (13例) では健常者 (11例), DPB緑膿菌陰性例 (14例) に比し有意に高値であった (p<0.01). 2.マウスを用いた実験成績から, アルギネート免疫マウスに緑膿菌PT1252株を噴霧させた結果, 感染直後に末梢気道周辺に著明なリンパ球集積が発現した. この変化は免疫マウスに特徴的であり気道末梢部におけるアルギネートを抗原とした抗原抗体反応とみなされた. さらに反復感染を施行した結果, これらリンパ球集積は持続し肉芽腫様変化がみられ, これに伴う気道の変形狭窄かつ内腔への好中球浸潤がみられた. この所見はヒトDPBにみられる組織所見と極めて類似していた. さらに血清中免疫複合体量はヒトDPBにおいて, その病像活動性に比例にして高値が示され, 活動性が低い群では低値であった (p<0.01). さらに気道内好中球浸潤はこれら免疫複合体により誘導されていることが考えられた.
以上によりDPBにおける感染病態の発現はムコイド型緑膿菌の気道内長期定着によるアルギネートを介した免疫反応とこれにもとづく免疫複合体に依存するものと解され, アルギネートがDPBの病態形成に重要な役割を呈することが示された.