抄録
約30年という非常に長い臨床経過を有した耳下腺腫瘍が悪性変化を示すとともに, 偶然発見された胃癌と同時発生的に重複した興味ある1症例を報告する。
患者は76歳, 男性で, 1986年に右後頬部の自発痛を主訴に当科を受診した。右頬部から耳下腺部に巨大な腫瘤があり, 顔面神経麻痺症状がみられた。入院待ちの間に, 突然の吐血で発見された胃癌のため胃亜全摘出術を受けた後, 耳下腺腫瘍切除術を施行したが, 術後3か月で悪液質のため死亡した。耳下腺腫瘍の病理組織学的診断は, 分化の悪い (高悪性型の) 粘表皮腫であったが, 多形性腺腫内癌との鑑別診断に苦慮した。