抄録
脳波は精神疾患の刻々と変化する神経活動異常の検出や評価に最適で,臨床と基礎研究の知見の融合をめざすトランスレーショナルリサーチのツールとしても近年注目を集めている。最近のニューラルオシレーション研究を含め,精神疾患における脳波研究は歴史が古く,統合失調症を中心としたさまざまな精神疾患でそのバイオマーカーとなりうる神経生理学的知見が多く蓄積されてきた。しかしながら,統合失調症の異種性を考慮した研究が十分に行われていないため,その診断や治療を目的とした応用には至っていない。本稿では,現状の課題を踏まえながら,筆者らが2020年に立ち上げた国内の臨床脳波多施設共同研究の意義や実際の取り組みについて紹介する。近年では,各参画施設がその特色を活かした研究を行う体制を作ることで,疾患横断的な脳波データの収集が行われている。また,全施設共通の計測環境整備やデータベース管理を行うことで,均一で質の高いデータ収集が進んでおり,さらに,分野の垣根を超えた解析チームによってより高度な解析環境も整ってきた。今後,この共同研究体制を通して,臨床応用を見据えた精神疾患の神経生理学研究が推進されることが期待される。