抄録
がん研究領域において顕著な進展を遂げた細胞外小胞の研究が,精神医学の分野でも注目を集めている。特に,エクソソームと称される細胞間コミュニケーションに不可欠な細胞外小胞は,多様な生物学的物質を内包しており,それらの生体における役割が明らかにされている。脳由来のエクソソームは末梢血からの抽出が可能であり,これを「脳リキッドバイオプシー」とよび,精神医学領域における診断的価値について広く議論されている。自閉スペクトラム症においては,脳内外の免疫細胞の活性化が報告されているが,その背景病理は依然として不明である。本稿では,エクソソームが示す血液脳関門の高い透過性を踏まえ,これらの粒子が脳内外の免疫細胞に働きかけ,脳内外において同様の免疫応答を引き起こす可能性について考察する。さらに,脳実質よりも血液脳関門が脆弱な領域に位置する脳境界マクロファージが,脳内外の免疫応答にどのように関与しうるのかについても説明する。