抄録
マメノミドリヒメヨコバイの多発条件下では,時にアルファルファやクローバに葉が紅葉したように変色する症状が発生する。この原因に関連して,ラジノクローバを供試植物とし,マメノミドリヒメヨコバイに葉柄部を24時間摂食させたのち,14CO2の同化を行なわせ,同化産物の移行状態を調べた結果,それらの中には葉に十分な14Cの取込みがありながら,根への移行が少ない個体があることがわかった。これは吸害によって同化産物の移行が妨げられた結果と考えられた。
葉柄部の吸害により同化産物の移行が妨げられていると思われる上記の材料について,葉柄各部における14Cの分布を調べた結果,対照非摂食区のものとほぼ同様,葉の近くに多く,葉柄基部にいくに従い徐々に減少し,吸害部から急に減少するというような現象はみられなかった。しかし対照非摂食区のものに比較して,葉柄各部の14Cは少なかった。
このヨコバイは篩部に好んで口針を挿入する習性があるが,吸害を受けた篩部の植物組織学的な観察では,機械的な組織の破壊や閉そくはほとんど見られなかったが,流動性の唾液が組織にかなり広く拡散しており,数日後には組織の細胞に異常が生ずることが認められた。これはこのヨコバイの唾液物質によって同化産物の移行を阻害するような,何らかの生理的な障害が篩部に起こったものと考えられた。