国連が「持続可能な開発目標」(SDGs) を設定してから大きな進展もなく数年が経過した.失効年までであれ,それ以降であれ,これらの目標を何らかの体制的変革なしに達成することはできるのだろうか.また,どのような体制を整えれば(失効年までに間に合わなくともそれ以降には) それらの目標を達成しうるのだろうか.これらは実践的に見て重要な疑問である.一方,哲学的に見て重要な次の疑問も忘れてはならない.すなわち,SDGsはそもそも正当化できる目標なのか,という疑問である.もしこの疑問を傍に追いやれば,SDGsは硬直した教義と化すだろう.本稿は,基本権,批判的経済地理学,ならびに市場社会主義に関する諸文献をもとに,これらの疑問に答えていく.具体的には,本稿は次の三点を主張する.第一に,SDGsには基本権を根拠に正当化できる目標が含まれるが,経済成長に関する目標については訂正が必要である.第二に,現行の経済システムはSDGsの達成を妨げるような内在的メカニズムを有している.第三に,SDGsを達成するには,おそらく体制的変革が必要である.