抄録
レーザー・ドップラー法にて前庭部,胃体下部,上部の各小彎側と大彎側の計6点での粘膜血流量の測定をおこない,胃角部の慢性胃潰瘍患者36例の治癒過程における背景胃粘膜の血行動態を検討した.胃病変を認めえない健常者26例を正常対照群とした.(1)正常胃の粘膜血流分布は,小彎側よりも大彎側の方が,また,前庭部よりは胃体下部,上部の方が血流量は多かった.(2)潰瘍全体をまとめて検討した場合,各ステージ別の潰瘍群と正常群の間には,前庭部小彎側S-1瘢痕期以外特に差はなかった.(3)しかし,潰瘍群を初発群と再発群に分けて検討すると,初発群では治癒期・S-1瘢痕期の全治癒過程にて背景粘膜血流量は,潰瘍周辺の前庭部と胃体下部を中心に正常群と再発群よりも有意に増加しており,また,S-1瘢痕期になっても治癒期よりさらに増加していた.一方,再発群では,治癒過程においてこのような血流増加はなく,一部では正常群より低下していた. 以上,潰瘍治癒過程における背景粘膜血流量の無増加が,潰瘍の再発に関与する要因の一つであることが示唆された.