抄録
胃結核症は稀で,診断の困難な疾患であり,報告例の多くは胃癌または胃潰瘍の診断のもとに胃切除術が行なわれ,術後に病理学的検索から胃結核症と診断されてきた.著者らは他臓器には結核病変が認められない患者の胃に,潰瘍を認め,直視下生検により,病理組織学的にラングハンス巨細胞を含む類上皮細胞結節を認めたため,弧立性の胃結核症と診断し得た症例を経験した.抗結核剤投与による内科的治療を行ない,内視鏡的に治療開始2カ月後には,潰瘍の改善を認め,7カ月後には潰瘍は癈痕化した.調べ得た範囲では組織学的に胃結核症として診断の確かなものは本邦では129例を数えるに過ぎない.また開腹せず内視鏡検査により本症と診断し得た例は1975年の第1例以来15例であり,このうち抗結核薬のみで保存的に治療したものは9例に過ぎない.本症の内視鏡的所見について検討し,直視下生検の重要性と抗結核剤の効果について報告する.