抄録
十二指腸潰瘍の外科治療に対し,広範囲胃切,幹迷切兼幽門形成術などに加えて,選択的近位迷切神経切断術(以下,選近迷切と略す)が,わが国でも徐々に普及されてきた.選近迷切は,幹迷切にくらべ,好ましくない副作用も少なく,より合理的な術式と考えられるが,再発などの問題も含め,その術後病態生理的な面は意外と解明されていないように思われる.その1つに,選近迷切と胃血流量の問題がある.本研究では,宮本らによって導入された経内視鏡的水素ガスクリアランス法を用い,実験的に犬を用い,選近迷切の胃粘膜下血流量におよぼす影響を麻酔下で経時的に1カ月間観察した.選近迷切直後,胃血流量とくに,体部の血流量は34%減少するが,術後7日目にはすでに術前値に回復し,術後14日目,21日目では,逆に,前庭部,体部とも一過性に増加した.しかし,術後28日目には,再び各血流量はいずれも術前値にもどった.接合部では,この一過性の上昇は認められなかった.以上の結果より,選近迷切の胃血流量におよぼす影響は軽度で,短期間に消失するものと考えられた.