日本消化器内視鏡学会雑誌
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慢性胃炎の"萎縮傾斜"に関する病理組織学的研究
原田 元
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1982 年 24 巻 5 号 p. 703-714

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抄録
萎縮性胃炎の拡がり("拡散")現象に際して,胃粘膜のどの部位において,萎縮性変化がもっとも著しいのかという課題を設定した.そして,胃底腺―幽門腺境界(以下腺境界と略す)に注目しながら,胃内各部位における萎縮性変化の強度について病理組織学的に検討した.この胃内各部位における萎縮性変化の強弱を,慢性胃炎の"萎縮傾斜。という概念でとらえることにした.そしてまず,上部消化管に局在性病変を認めない胃粘膜に対し,内視鏡的コンゴーレッド法を施行して,変色境界部を確認し,段階的生検(11点生検)を行い,組織学的に検討した.その結果,胃腺の萎縮は幽門前庭部にもっとも強く,口側にゆくにしたがってそれが軽度となっていることを確認した.しかし,細胞浸潤は腺境界にほぼ一致して,もっとも強かった.また,小彎側では,大彎側よりも腺の萎縮,細胞浸潤および腸上皮化生が強い傾向があった. 次に,組織学的検討を点から線への解析へと進めるため,小彎側に限局性病変を認めない剖検胃および全摘胃について小彎側のスイス・ロール法による標本を作製して,病理組織学的検索を行った.その結果,腺の萎縮,細胞浸潤およびびらんは腺境界にほぼ一致してもっとも強度であった.すなわち,剖検胃および全摘胃の腺の萎縮,細胞浸潤およびびらんの傾斜は,腺境界部でピークを示した.なお,噴門腺―胃底腺境界は,組織学的にはその周囲とほとんど変化を認めず,腺境界に比し萎縮性変化は強くなかった. 本研究の結果,萎縮性胃炎の進展に際し,まず,びらんとそれに伴った細胞浸潤がおこり,その修復,再生等の機転を通して最後には腺の萎縮が出現することが示唆された.
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© 社団法人日本消化器内視鏡学会
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