日本消化器内視鏡学会雑誌
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ERCP後膵炎発生率の低減を目的としたearlyとprimary precutの無作為化比較試験
河上 洋
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2020 年 62 巻 10 号 p. 2330

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【背景と目的】通常,PrecutはERCP後膵炎(PEP)の危険因子の1つである選択的胆管挿管困難例に対して施行される.近年,primary precutの有用性が報告されているが,これまで報告は少ない.今回はprimary precutの安全性と有用性を評価する目的に研究を計画した.

【方法】very early precut群(A群:パピロトームを用いたwire-guided cannulationにより胆管挿管を2回試行しても困難であった群)とprimary precut群(B群:direct precut群)を単施設で無作為化比較試験(RCT)を行った.術者はエキスパートが行い,主要評価項目はPEPの発生率とした.

【結果】303例をA:B群=152:151に割付した.背景やERCPの適応に有意差はなかった.PEP発生率はA:B群=5.2:0.67%(P=0.04),高アミラーゼ血症はA:B群=12.5:2.6%(P=0.01)とB群で有意に低く,選択的胆管挿管時間はA:B群=13.8±2.2:7.2±1.7分(P=0.001)とB群で有意に短時間であった.最終胆管挿管率はA:B群=98:98.6%(P=0.001)と両群に有意差はなかった.

【結語】エキスパートの内視鏡医によるprimary precutはPEPの発生頻度は低かった.

《解説》

本研究 1のprecutの方法はニードルナイフを用いたprecut sphincterotomy(PS法)(=precut fistulotomy,infundibulotomy)であり,膵管ステントの留置や非ステロイド系抗炎症剤の投与は行われていない.除外例は十二指腸乳頭部腫瘍,膵炎,傍乳頭憩室,結石嵌頓,胃切除後例,などであった.

Primary precutはvery early precutよりもPEP発生率が低く,胆管挿管に要する時間も短時間であった.PEPの内訳はA群で8例(軽症6,中等症2),B群で軽症1例であった.A群で胆管挿管が可能となった例は96例(63.1%)であった(膵管誤挿管1回は49例).56例(36.9%)が挿管不能(2回ともに膵管誤挿管40例,膵管挿管も不能16例)であった.この56例のうち45例がA群としてvery early precutが施行されており,B群は140例がprimary precutを施行されていた.十二指腸乳頭部の形態 2による検討も行われており,PS法は切開しやすいType Ⅲ(突出,口側隆起腫大,下垂乳頭例)がもっとも良い適応であり,一方で切開しにくいType Ⅱ(小乳頭,平坦例)は不向きであったと報告されている.

PrecutはこれまでPEPを始め有害事象の危険因子として報告されてきた.しかし,precutを施行するまでの十二指腸乳頭部あるいは主膵管や膵管分枝への刺激が交絡因子として問題であった.近年,通常挿管法とearly precutを比較した質の高いRCTが相次いで報告されている.これらはprecutへの移行時間は5~12分,膵管誤挿管は2~4回の設定で行われている.その結果の多くは,PEPは低率で,胆管挿管が高率となる,と報告されている.さらに,本研究では(very)earlyよりもprimary precutの有用性にまで言及した.すなわち,十二指腸乳頭開口部への刺激が少ないことがPEPを低減させるのに最も重要であると言える結果である.

本研究の限界は,単施設でPS法をエキスパート1名のみが施行していること,PS法を導入出来なかった具体的な理由が記載されていないこと,PS法が不適のことが多いと思われる小乳頭や平坦乳頭例を組み入れていることである.それにも関わらず有害事象が少なかったことは驚くべきことであるが,エキスパートが施行した結果であるからと言えよう.なお,十二指腸乳頭部の形態別分類でType Ⅳの分類が判然としない点やITT解析が行われていないことも限界と言える. 今後,追試を含め,他のprecut法やトレイニーに関する比較検討も考慮するべきであろう.

文 献
 
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