感染症学雑誌
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モルジブ旅行者から分離された神奈川現象陰性株O3: K6によると思われる腸炎ビブリオ感染症
本田 俊一後藤 郁夫峰松 一郎池田 長繁浅野 信夫石橋 正憲木下 喜雄西渕 光昭本田 武司三輪谷 俊夫
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1987 年 61 巻 9 号 p. 1070-1078

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抄録
1985年の1年間で, 海外旅行者下痢患者1, 393名について検便した結果, 94名よりV. parakaemolyticusを検出した. 検出率は毒素原性大腸菌を除き, Salmonella属菌に次いで高く, 6.7%であった. 推定感染国別検出率では, 韓国, モルジブ, フィリピン, 台湾, タイの順に高かった. モルジブ由来下痢患者は51名で, そのうち12名よりV. parakaemolyticusを検出し, 下痢原因菌としては最も検出率が高かった. そのうち11例は神奈川現象陰性で, 常法に従ったELISAで耐熱性溶血毒の産生は認められず, 遺伝子解析によっても耐熱性溶血毒遺伝子が認められないことが確認された. これらの血清型は全てO3: K6であった. 生化学性状, 薬剤感受性共, 通常の神奈川現象陽性株との間に顕著な差は認められなかった. 家兎結紮腸管ループ試験では, 5×104/ml以上の生菌投与で陽性であり下痢原性が認められた. 以上より本事例は, 神奈川現象陰性V. parakaemolyticus O3: K6による感染症と推定された. 下痢患者は年間を通じてみられたが, 本菌分離例は5, 6, 7月の初夏に集中し, 臨床症状は, モルジブ滞在中に激しい水様便で発症し, 半数に腹痛がみられたが, 発熱を訴えた患者はいなかった. 原因食は現地での生鮮魚介類と推定され, 本菌がモルジブ固有で環境との関連性が示唆された.
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© 日本感染症学会
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