抄録
物質循環に関する環境問題を扱う際,物質の動きを時空間的な広がりを持って解析することが不可欠であり,物質循環の時空間的な広がりの把握,すなわち広域評価が求められている.広域評価では,まず,測定手法による制約が存在する.測定手法は,それぞれの手法特有の利点および欠点を有し,対象とする時空間スケールが限定される.どのスケールを目的とするかによって,手法を選ぶことが求められる.対象とする時空間スケールにより,測定手法だけでなく対象となるみかけの要因も変化する.広域レベルでは,すべての現象や要因を測定することは不可能であるため,対象とするスケールの下位レベルで行われた測定結果をスケールアップに使用する際,この点に特に注意する必要
がある.測定手法による違い,測定における誤差,時空間の変動,使用するデータの代表性といった要因は,広域評価の推定結果の信ぴょう性を左右する.その結果,生じる不確実性については,誤差伝搬の法則,可能な最大値・最小値の範囲,モンテカルロシミュレーションなどによって定量化をすることが可能である.変動幅には,平均値だけでは得られない情報が多く含まれており,今後の研究の発展へ結びつく可能性がある.広域評価の必要性が増している今,研究分野間の連携を深め,結果の解釈方法,使用方法に不確実性を定量的に含め,解析に反映していくことが,広域評価の結果の精緻化,ならびに,モニタリング手法の改善,新たな研究対象の発掘につながる研究リンクのカギとなるのではないかと考えられる.