抄録
森林の CO2 吸収源としての機能評価に関わる問題や,森林と陸水の生態系をつなぐ水系の窒素汚染の問題など,最近の環境問題の多くについて,生態系が人為的,外的刺激に対してどのように反応するかについての予測が求められることが多い.こうした問題を解くためには,森林生態系が物質の流れという視点で見たときに,決して閉じた空間ではなくて,つねに生態系外部からの物質の流入に曝され,外部への物質を流出させる系である認識が必要である.また,そうであるがゆえに生態系内での物質の形態や分布は,空間的に非均質であり,その蓄積は常に変動しているという捉え方,またその結果,森林生態系という,ある広さを持った空間を物質が移動しているという捉え方が必要となってくる.少なくとも年周期より短い時間スケールで変動するような現象を理解するためには,森林生態系では物質を輸送する媒体として水や空気の動態を把握する必要がある.水文過程が森林生態系の物質循環に及ぼす影響に関して,特に窒素循環に焦点を当てて解説する.