抄録
本研究では,特許の権利化過程における技術的範囲の変動量を支配する主な因子が,進歩性等欠如の拒絶理由に対する補正による構成要件の追加であるものと考え,更にこの補正による技術的範囲の変動量は,出願前に行った先行技術調査の度合いに応じた出願人の意思決定傾向(先行調査重点型,引例差別化型)に支配されるものと考えた。そして,この意思決定傾向が,実際に出願する際の特許明細書の定量的指標に依拠し,それにより技術的範囲の変動量を予測できるものと考えた。この技術的範囲の変動量について説明するための因果モデルを提案した。この因果モデルにおいて,目的変数を,特許発明の技術的範囲の変動量を規定するXCLD(予測改変格成分数)とし,説明変数を,クレーム数,総格成分数,サブクレームにおける総格成分数の増加割合,クレーム比率,クレーム化グループ比率とし,出願人の意思決定傾向を表示するためのパラメータとしてredocを提案し,実際の特許案件をサンプルとして,ロジスティック回帰分析モデルによる分析を行うことにより,上述した説明変数が,目的変数をそれぞれ有効に支配する点について検証することができた。さらに,本研究では,提案した因果モデルを利用したシミュレーション方法の提案を行ったところ,特にモンテカルロ法を利用したXCLD予測においてより有用性を見出すことができた。