抄録
本研究の目的は先進工業国の科学技術活動のマクロ統計を素材に、これらの国に共通な科学技術活動の構造を明らかにし、その構造を用いて各国の近年の動向を示し、最後に各国の総合科学技術力を表す指標を開発することである。科学技術庁の「科学技術指標」を見て、例えば各国の研究開発費や研究者数の動向を比較すれば我が国の研究開発活動の動向の特徴を知ることができる。しかし、「それでは我が国の研究開発は全体としてどうなのか」という質問には十分に答えることができない。そのような問いに答えようとするのが本研究である。そして、定義の違い等による統計の比較可能性の制約の下で本研究は当初の目的を達成したと考える。 具体的に、本研究では、まず因子分析を用いて先進工業国に共通な科学技術活動は2因子構造であり、「科学-技術」因子と「入力-出力」因子からなること、その構造を用いて各国の科学技術活動の動向を明示した。さらに総合科学技術力指標を開発して各国の近年の動向を示した。その過程で科学技術統計が示す定義とは異なる実態の意味を明らかにし、ともすれば常識的に解釈することの危険性を示した。 さらに因子分析と主成分分析の結果を統合して、先進工業国の科学技術活動はその規模の大きさを示す次元、科学対技術の性格を示す次元、入力対出力という過程を示す次元の3次元で構成される枠組みによって表されることを示した。以上の結果は、個別の科学技術指標の分析と共に我が国の科学技術活動の理解を深めることに貢献すると期待される。