The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Symposium
To expand the scope of activities from the standpoint of a medical social worker
Rika SuematsuMiho HiroishiTomoyuki IkeuchiMami TsudaHatsumi NakayamaKatsuyuki IchikiTakeo JimiTetsuya KawanoTohru Tsuda
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 52-57

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要旨

医療ソーシャルワーカー(medical social worker: MSW)は個人をとりまく社会環境の改善を図るために,多職種との連携や医療と介護の連携,地域連携により,利用できる社会資源の活用などの情報提供を行い,自宅内から近隣,そして地域社会へと安心して活動範囲が広がるよう支援する.活動範囲を広げるには,患者自身の「こころの健康」や「セルフマネジメント」も重要と思われる.心理的・精神的に不安定となれば当然,身体活動性も低下する.呼吸困難感の訴えに耳を傾け,共感することで信頼や安心感を築き,運動を促すこともできる.また,多面的なセルフマネジメント教育を行うことで行動変容を来し,活動範囲が広がることにも繋がる.そこで当院では,MSWも身体活動性を高めるべく,リラクセーション,音楽療法,アロマセラピーなどの代替療法を利用し,こころの支援を続けているが,MSWの立場でも活動範囲を広げるための一翼を担えると考えている.

はじめに

霧ヶ丘つだ病院は,一般病床38床,地域包括ケア病床31床の病院であるがCOPDを含む呼吸器疾患の患者が95%を占め,入院における呼吸リハビリテーションや外来型呼吸リハビリテーションに取り組んでいる.また,ケアプランステーション,訪問看護ステーションとの連携により,呼吸リハビリテーションの継続を目的に,在宅での訪問リハビリを行い,呼吸器疾患の急性期から慢性期,在宅療養まで,切れ目ないケアを心がけている.

COPD患者では,不安は呼吸困難感をさらに増強させる悪循環を生じ,適応障害やうつ病へと移行する1.抑うつの合併は,患者のQOLを著しく損ねるほか,適切な治療の継続や周囲との関わりが妨げられることなどから生命予後にも悪影響を及ぼす1.思考,感情,行動,身体感覚が相互に影響する負の連鎖が存在するのを正の連鎖に移行させるために認知行動療法が必要となる1

そこで当院では,COPD患者に対し,多職種連携による呼吸リハビリテーションに取り組んでいる.呼吸リハビリテーションでは,禁煙,疾患と治療の理解,増悪の予防などの教育や指導を行い,運動耐容能の上昇や身体活動性の向上を図り,自己効力感の獲得や行動変容をめざすようサポートしているが,この自己効力感を高めることがCOPD患者にとって非常に大切である.自己効力感を高めるには,セルフマネジメントが重要であり,「医学的管理を行う」「普段の活動や役割を保つ」「感情の変化に対処する」の3つの課題と,「問題解決」「意思決定」「資源の活用」「患者―医療者のパートナーシップの形成」「行動を開始する」の5つのセルフマネジメントスキルが必要となる.尚,セルフマネジメント能力は,呼吸困難感だけでなく,病気に対する認識,不安,抑うつ,希望などの心理的要因,社会的孤立,社会的役割の喪失,ソーシャルサポート,ヘルスリテラシーなどの社会的要因,生きる意味,スピリチュアリティなどの実存的要因など多くの要因が影響しており,患者を包括的に支援していくことが重要といわれている1

呼吸リハビリテーション教室

当院ではセルフマネジメントのひとつの手段として,入院での呼吸リハビリテーション教室を開催し,在宅に向け入院時から,運動療法のみならず,病気に対する理解と自己管理の指導,栄養指導,薬物療法などについても,院内すべてのスタッフが参画している.院長が話す呼吸器のしくみ,疾患の理解からはじまり,看護部長の酸素療法や非常に大切なリビングウィル,慢性呼吸器疾患認定看護師の急性増悪の見極めや吸入指導など多岐に渡る.また,院内だけでなく,呼吸ケアプロバイダーも加わり,在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)について学んでもらう(表1).

表1 呼吸リハビリテーション教室 セルフマネジメント,担当職種とレクチャーの内容

院長呼吸器の仕組み・病気を理解しましょう・禁煙
理学療法士呼吸訓練・運動療法・体力を有効に使おう
薬剤師薬との付き合い方と正しい理解
看護部長酸素療法・リビングウィル・人生会議
慢性呼吸器疾患認定看護師急性増悪の見極めと病院への連絡・吸入薬の使い方
管理栄養士呼吸と栄養
医療ソーシャルワーカー心の健康とストレス・禁煙・旅行・福祉サービスの紹介
ケアマネジャー介護保険
検査技師肺機能検査・ピークフロー・睡眠PSG検査
在宅呼吸ケアプロバイダー在宅酸素など

MSWも参加者に合わせた,禁煙の話,利用できる福祉サービス,旅行,そして心の健康とストレスについてレクチャーを担当している(表2).なかでも呼吸器機能障害とそれに伴う助成制度は,地域ごとに行政で制度がかなり異なることを説明し,その患者がどの行政下にいるのかチェックするとこも大事なことである.パルスオキシメータやネブライザーの補助制度があるという情報提供も必要になってくるが,どちらもセルフマネジメントツールとしてはとても大切である.酸素飽和度の低下を確認しながら休憩のタイミングをとる,通常と違えば早めの受診に踏み切るきっかけにもなる.在宅生活の指標には欠かせないものである.

表2 MSW担当 呼吸リハビリテーション教室,MSW担当レクチャーの内容

酸素を使っていても旅行も可能
公害対策など
禁煙
タバコが及ぼす身体への影響
能動喫煙と受動喫煙と三次喫煙
服用しているお薬への影響
いつやめても遅くないこと
身体障害者手帳
呼吸器機能障害と助成制度
パルスオキシメータとネブライザー
介護保険
患者会
心の健康とストレスの話
ストレス対処法
会話の勧め
ユーモア
病んでも心は前向きに(生きがい療法)

必要な人に必要な制度情報を繋ぐ

経済的不安は精神的な不安を引き起こす.精神的不安を抱えたCOPD患者の活動が低下する症例は多い1.そのためにも,経済的負担軽減に役立つ情報提供や活動範囲を広げるために利用できる社会資源の提供が必要である.身体障害者手帳と等級に応じたサービス,障害支援区分と障害福祉サービス,難病における医療費助成制度,介護保険・医療保険で利用できるサービス,そしてフォーマル・インフォーマルなど社会資源などについての説明は,通常MSWが担うが,COPD患者を診察する医師,看護師,理学療法士は,どういった制度があるかをおおむね理解しておく必要がある2

外来型呼吸リハビリテーション

外来型呼吸リハビリテーションは2003年より開始している.1クールを3ヶ月,12回のメニューで構成し,1クールの終了時は,体力測定によりどれくらいの改善があったかなどのフィードバックを理学療法士が行い,その結果をもって検討会が開かれる.表3は,毎回クールごとに理学療法士がスケジュールを立て,患者へ配布しているものである.外来の教室では,当院に在籍の4人の慢性呼吸器疾患認定看護師がその時期のトピックスに沿ったレクチャーや吸入指導を,栄養士は簡単に作れる栄養価の高い調理を患者と共に行い試食するスタイルで,食事に興味を持ってもらえるよう工夫をしている.臨床美術の資格指導者による臨床美術や臨床心理士,公認心理士によるレクレーションも人気のプログラムである.MSWも,心身の問題を抱えることの多いCOPD患者のストレスコントロールを目的に,代替療法のリラクセーション,ヨガ゙,音楽療法,アロマセラピーを担当している.担当する代替療法のうちの3つについて紹介する.

表3 外来呼吸リハビリテーション教室の1例,外来呼吸リハビリテーション教室の1クールのメニュー1例

メニュー
第1回
(10/1)
予備日
第2回
(10/8)
ボッチャ
第3回
(10/15)
リラクセーション
『心と身体の癒し~写経~』
第4回
(10/22)
クリニカルアート
『色のアラベスク』
第5回
(10/29)
認知症予防
頭と体を使ったレクリエーション♪
第6回
(11/5)
口腔体操
第7回
(11/12)
呼吸と栄養
第8回
(11/19)
インフルエンザ
第9回
(11/26)
ボッチャ
第10回
(12/3)
アロマセラピー
『足浴で心もからだも温かく♡』
第11回
(12/10)
音楽療法
『年末は歌って動いて免疫アップ‼』
第12回
(12/17)
吸入指導
第13回
(12/24)
座談会

(1) リラクセーション

リラクセーションは,自身のストレッサー(ストレスの原因)とその原因によって起こるストレス症状について話し合い,自身のストレスレベルを確認する.その後,呼吸法に注目したリラクセーション・エクササイズ3,ツボ押しエクササイズ4,考えと感情のエクササイズ5,リンパ流しのエクササイズといったさまざまなエクササイズや呼吸筋ストレッチ体操6,情動呼吸に働きかける写経や椅子坐禅,禅語を使った朗読セラピー7などをランダムに行っている.疾患や在宅酸素以外にもストレスの原因はさまざまであるが,慢性呼吸不全患者同士が集い,話し合う時間は,心の器にたまったものを外へ出すことのできるとても貴重な時間である(図1).

図1 リラクセーション,代替療法のリラクセーションの写真と内容

(2) 音楽療法

音楽の力を活用して,回復,改善に導き,社会復帰の援助やQOLの向上を目指す音楽療法は,鎮静効果と活性効果の両側面が期待でき,ホメオスターシスを保つことができるといわれている8,9.COPD 患者の閉ざされた心を開くきっかけや,カタルシス機能から抑圧された感情の発散に役立つ8,9様子をしばしば経験している.図2は現在のプログラムの一例であるが,季節にちなんだ曲や参加者の時代背景を把握したうえで選曲している.すると元気だったあの頃を思い出し,思い出話や苦労話などを聞くことができる.COPD患者に好まれる,「ヤッホー」の掛け声やののばし朗読やのばし歌,一息朗読などで腹式呼吸の練習も行っている.音楽は身体運動を促すので,リズムに乗り,歌うことで運動療法にも発展している.

図2 音楽療法,代替療法の音楽療法の写真とプログラム1例

(3) アロマセラピー

COPD患者に一番好まれているアロマセラピーは,ヨーロッパ,アメリカなど世界各地の医療現場でも悪性腫瘍患者の不安の緩和,慢性疾患患者のストレス解消,睡眠改善,疼痛軽減,医療従事者の健康促進などに活用されている10,11

アロマセラピーで使用する精油は植物の花,葉,果皮,樹皮,樹脂,根,種子などから抽出された揮発性の芳香物質で,数十から数百の有機化合物(芳香成分)で構成されており,それぞれの芳香成分は異なる分子構造を持ち,香りや作用に個性を与えている.成分同士が作用を高めあうシナジー効果,ある成分が他の成分の毒性を弱めるクエンチング効果を持つものもあるため,ブレンドする理由がそこにある.

ここで,慢性呼吸不全患者に有効な精油について一部を紹介する.自律神経のうち副交感神経を活発にして,血管を拡張させ,心身の緊張をほぐすとともに血流をよくし,体温を上昇させるオレンジスイートは,心拍変動性(HF値)を増加させ,リラックス効果も認められているので12,パニックに陥りやすく,うつ傾向になる慢性呼吸不全患者にも効果的と言える.ペパーミントは代謝亢進作用のある精油のひとつで,リフレッシュ効果も高く,不安を感じたときの気分の切り替えに役に立つ.気分の落ち込み,無気力,思考力の低下,不眠,倦怠感,食欲不振などの症状が現れるうつ状態には,代謝を促し身体の活動量をあげてくれるレモンやユーカリ,ローズマリーなども使用しているが,ユーカリは,慢性疲労症候群にも有効である.誤嚥などの嚥下機能の低下には,ブラックペッパーを,排痰を促すためにユーカリ,ティートリー,ローズマリーも利用している.咳止めには,サイプレスやペパーミント,スイートマジョラムを使う.特に呼吸器疾患であるからといって,使用を控えなければならない精油はないと考えるが,精油によっては,使用にあたっていくつかの留意点があるのはいうまでもない.

図3は,タバコに縛られていた人生を送っていた高齢COPD患者にとても好評のアロマセラピーの様子である.COPD患者には,足浴をはじめ感染症予防や排痰のための吸入法や,肩こりや呼吸筋疲労の改善目的で温湿布なども行っている.セルフやパートナーを組んで,ハンドトリートメントを行ったり,他にも作業療法のように,好みの香りや期待される効果を基準に精油を選び,エアーフレッシュナー,ルームフレグランスを作ったりもする.また,お盆に近いクールではお香を作り,12月にはクリスマス・アロマキャンドルを作って自宅に持ち帰って楽しんでもらっている.このように作業をすることで夢中になるため,ほとんどの患者から「日頃の息苦しさを感じなかった」との感想を得ている.

図3 アロマセラピー,代替療法のアロマセラピーの写真

まとめ

「何かアミューズメント的な要素を」「楽しいと思えることを」ということを基本に行ってきた外来型呼吸リハビリテーションであるが,感情を吐き出す機会や情緒的支援の場にもなり,患者同士が経験を共有する話し合いの場にもなる.その中で呼吸困難感に耳を傾け,共感することもできる.こういったことが心の安定を促し,身体活動性の向上へつながるのではないかと考えている.

厚生労働省が普及啓発のために「アドバンス・ケア・プランニング」について「もしものときの人生会議」という提言があるが,いよいよ悪くなった時に慌てて話し合っても,息苦しさの中で本当の自分の心のうちが反映できるか疑問である.福井県オレンジホームケアクリニックの紅谷浩之先生が発言された中に「結論を急がず,話し合うプロセスが大切.死ぬ時どうしたいかだけでなく,普段から大事にしていることや好きなものについて話していれば,最期までその人らしく過ごせる」という言葉がある13.COPD患者と向き合い,代替療法などを通して関わりながら筆者もその人らしい生活を過ごすことを大事に考えている.

呼吸リハビリテーションによって活動範囲が広がり,そのなかで話題にあがる,そして自ら望む人生について考えるきっかけになることがあるのではないかと思う.また,エンドオブ・ライフケアで活用できるコミュニケーションスキルはMSWの専門的援助技術と通ずるものがある.患者の物語を聴くことのできるMSWが,人生会議においても一翼を担えるのではないかと考えている.

これからも,その人がその人らしく生きていゆく「希望の生活」獲得のために,われわれMSWもポジティブな気持ちをもって呼吸リハビリテーションに携わり,自宅内から近隣,そして地域社会への活動範囲が広がるよう,そしてCOPD患者が季節を感じることができるような生活ができるように支援を続けてゆきたいと思っている.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会編:非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021第1版,メディカルレビュー社,東京,2021.
  • 2)  3学会合同呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル作成ワーキンググループ編:2章14節 社会資源の活用.呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル,2022.
  • 3)  今井 功:できる人のストレス活用法,出版文化社,東京,2006.
  • 4)  兵頭 明:経路・ツボの教科書,新星出版社,東京,2016.
  • 5)  小林展子:ストレス対処実践法—認知療法によるアプローチ—改訂版,チーム医療,東京,2004.
  • 6)  本間生夫:心身の調節と呼吸.心身健科 5: 1-7, 2009.
  • 7)  山口謡司:心とカラダを整えるおとなのための1分音読,自由国民社,東京,2017.
  • 8)  高橋多喜子:補完・代替医療 音楽療法,金芳堂,京都,2006.
  • 9)  坂東 浩:音楽療法.日本統合医療学会編,統合医療 基礎と臨床,ロータス企画,東京,2005,228-232.
  • 10)  日本アロマセラピー学会編:アロマセラピー標準テキスト,丸善,東京,2008,1-11.
  • 11)  蒲原聖可:米国における統合医療の現状.日本統合医療学会編,統合医療 基礎と臨床,ロータス企画,東京,2005,100-104.
  • 12)  松永慶子,李 由営,朴 範鎮,他:オレンジスイートのにおいが要介護高齢者の就眠前不安にもたらす生理学的影響.アロマテラピー誌 13: 47-54, 2013.
  • 13)  日本経済新聞:終末期,家族で話し合いを ポスター炎上で新たな動き,2019年12月16日.https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53394890W9A211C1CR0000/. Accessed: 8 March 2021.
 
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