The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Study Report
Thoughts of patient’s family from the diagnosis of chronic respiratory disease to the start of home oxygen therapy
Rika Tonami Miyuki SatoKeiko Kobayashi
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 121-126

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要旨

本研究では,慢性呼吸器疾患患者の家族5名に対し在宅酸素療法を受ける患者と共に生活を送る中での思いを明らかにすることを目的に,半構成的面接法による調査を行った.調査の結果,慢性呼吸器疾患患者の家族は,これまでの生活や職業から病気の診断に対して「自業自得」「仕方がない」という思いを持っていた.また,患者が在宅酸素療法を行っているにも関わらず呼吸苦が悪化していくことに対して,戸惑い模索しながらも呼吸苦を持つ患者を受け止めていた.医療者は患者が慢性呼吸器疾患と診断がされた時から,今後,患者に起こりうる症状の変化や終末期ケアに対しての患者の意思を患者だけでなく家族に対しても日頃の関わりの中で確認していく必要性が示唆された.

緒言

全世界では慢性呼吸器疾患(chronic respiratory disease; CRD)により,毎年,300万人以上の人が亡くなっている1.CRDの中でも慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)は,日本において予防可能な疾患として重点的な予防策を講じることが推奨されており,「健康日本21(第二次)」でCOPDの予防について提言を行っている2.CRDは急性増悪を起こすことで呼吸不全となり,さらに慢性呼吸不全の状態では在宅酸素療法(home oxygen therapy; HOT)が積極的に進められる.HOTは患者にとって重要な治療ではあるが,その反面,生活の制限を強いられることにもなる.全国の呼吸器系患者会への患者アンケートによると,HOTを使用している患者は1週間のうちの外出の頻度を「1~2日」と回答した者が全体の35%という結果3からも,患者の社会的参加が少ないことがうかがえる.また疾患の進行に加え,生活の制限などによって患者が抑うつ状態や不安になることもある4.WashioのCOPD患者の家族に対して行った研究において,患者の家族介護者の半数以上が抑うつ状態であった5ことから,患者だけでなく家族の生活も制限されていることが考えられる.また仲沢のCRD患者の家族への援助の検討においても,家族の介護に対する相談や支持が重要6であることを示唆している.これらの研究からは,CRD患者への関わりとして患者だけでなく家族も医療者からの支援を必要としていることがうかがえるが,家族への支援の方向性については明確にされていない.

日本では介護が必要となった時,主な介護は家族が担うことが多く介護者の約7割近くが家族という7現状を踏まえると,HOTを行うCRD患者の家族に対して支援を行うことは,患者の急性増悪時や終末期を見据えた在宅での生活を継続する上で重要であると考える.Gabriel らの重症COPD患者の家族に対して疾患が及ぼした影響についての研究では,家族は患者の症状の悪化に関連した苦痛,経済的重圧などの影響を受けていたと報告8している.また,非侵襲性陽圧換気法やHOTが必要な患者の家族は,治療の導入の際に支援を必要としているという報告9からも,HOT導入前からCRD患者だけでなく家族への支援は重要であると考える.しかし,HOT患者の家族に注目し,その思いを明らかにした研究はほとんど見当たらない.

以上により,本研究の目的はCRD患者の病気の診断からHOTの導入後における家族の思いを明らかにすることである.この思いを明らかにすることで,病気の診断を受けHOTの導入が検討されている,もしくは導入後の患者の家族と関わる上での支援への示唆に繋がると考えた.

対象と方法

用語の定義:CRD患者;CRDの診断を受け,在宅で生活を送っている患者.患者自身の性別や年齢は限定しなかった.本研究ではHOT使用者が多いCOPD,間質性肺炎とした.

家族;患者の家族で,患者にとってのキーパーソンであり主家族介護者.

研究参加者(以下,参加者):CRDの診断を受け,今後,HOTの導入が予定もしくは導入後の患者の家族のうち,患者のキーパーソンであり主介護者となる家族.主家族介護者の続柄・性別・同居・別居は問わないこととした.今回の研究では,患者と共に生活を送る中での家族の思いに注目をしたため,患者の病期は限定しなかった.リクルート方法は,HOT患者会の会員の家族に依頼文および返信用のハガキを送付し返信のあった家族と,A病院に所属する慢性呼吸器疾患看護認定看護師から紹介のあった患者の家族に協力を依頼した.

データ収集方法:CRD患者の家族に対し,インタビューガイドを用いた半構成的面接法にて患者が病気の診断を受けた時やHOTの導入に至るまでに加え,導入後の生活を送る中での思いを自由に語ってもらった.インタビューは参加者に対し1回行った.インタビューに際し,参加者に同意を得た上でICレコーダーへの録音とメモを取った.

調査期間:2018年7月~2019年7月

分析方法:ICレコーダーに録音した面接内容を全て逐語録に起こした.次に逐語録に起こされたデータを語り手の思いを読み解きながら,病気の診断を受けた時やHOTの導入後,もしくは導入予定のCRD患者と共に生活を送る中での思いの意味を崩さないよう,参加者の思い(感情)に注目し,参加者の語りをそのままをコードとした.参加者のデータ毎に分析を進め,コードとした語りの内容を比較検討し差異性や類似性を検討しながら,サブカテゴリ化,カテゴリ化した.分析過程において客観性と妥当性を保つために専門家のスーパーバイズを受けた.

倫理的配慮:本研究は,福井大学医学系倫理審査委員会の承認を得て,内容を遵守し実施した(承認番号 20170195).参加者には,口頭あるいは書面にて研究の主旨及び研究方法を説明した.また,調査結果は研究以外で用いることは無いこと,情報は鍵のかかるところで厳重に保管し,研究終了後は規定の期間保存した後,速やかにシュレッダーにかけ廃棄すること,施設や個人が特定されないように配慮すること,研究への参加協力は自由意志であること,研究への参加協力の拒否による不利益は生じないこと,参加者のプライバシー保護を厳守することを説明し研究同意書への署名を依頼した.

結果

1. 研究参加者の背景

参加者へのインタビューの平均時間は50.0分(SD 20.3),対象となったCRD患者の家族は5名であった.参加者の平均年齢は65.2歳(SD 3.3),性別は男性1名,女性4名であり,続柄は患者の配偶者2名,患者の子ども3名であった.居住形態としては,5名中4名が同居で,1名が別居であったが患者の近隣に居住していた.CRD患者の平均年齢は81.8歳(SD 7.4),5名中3名がCOPD,2名が間質性肺炎であった.CRD患者のHOT使用歴は,未使用者および導入後1年が各1名,導入後4年が3名で,介護保険のサービス利用者は3名,サービスを利用していない者は2名であったが,うち1名に関しては利用を検討中であった.

2. CRD患者の家族の思い(表1

分析の結果,CRD患者の病気の診断からHOT導入後の患者と共に生活を送る家族の思いとして193のコードが抽出され,そのコードから26サブカテゴリにまとめ,最終的には9のカテゴリに整理した.以後,カテゴリを【 】,サブカテゴリを『 』,語りを「 」で示し,語りの補足を( )とする.

表1 慢性呼吸器疾患患者の病気の診断から在宅酸素療法導入後の家族の思い

カテゴリサブカテゴリ(コード数)
これまでの生活や体調から発症をやむを得ないと受け止めるこれまでの生活から発症を当然のように受け止める(15)
病気の診断を受ける前から呼吸器症状の変化を感じる(1)
呼吸苦のある本人を支えることを憂う在宅酸素療法導入後の生活や気持ちの変化を憂慮する(12)
生活の場面で呼吸状態の悪化に戸惑う(20)
呼吸苦に対応できないことを危惧する(9)
呼吸を楽にする方法を模索する(7)
日々の生活の中で本人を支える方法を模索する生活の中で家族として出来ることを模索する(17)
体調に応じた食事を試行錯誤する(10)
介護サービスを利用し急性増悪の回避に期待する(12)
病気に対して理解のない周囲や施設に苛立つ病状を理解してもらえないことにやるせなさを感じる(8)
在宅酸素療法の受入れ体制が整わないことに憤る(2)
患者会に期待を寄せる生活を便利にする情報に満足する(2)
患者会への参加に満足する(1)
共に生活を支えてくれる家族や周囲に感謝する自分が出来ないことをフォローしてくれる家族や周囲に感謝する(6)
身内から病気の話を聞き症状を理解する(4)
医療者に信頼を寄せる医療者に信頼を寄せる(6)
不確かな今後への不安を抱く今後の見通しがないことに対し不安を抱く(15)
本人の意思を確認できないジレンマを感じる(5)
急変時に延命処置が判断できないことを感じる(2)
呼吸苦と共に生きる本人を受け止める呼吸状態の悪化から在宅酸素療法の導入を覚悟する(7)
呼吸苦を冷静に受け止める(7)
呼吸苦のない頃を懐かしむ(3)
病気と向き合う本人を受け止める(8)
呼吸苦を他人事のように感じていたことに気づく(4)
家族として病気を知ることの重要性を自覚する(6)
症状や診断から「死」を悟る(4)

1) 【これまでの生活や体調から発症をやむを得ないと受け止める】

このカテゴリは,『これまでの生活から発症を当然のように受け止める』『病気の診断を受ける前から呼吸器症状の変化を感じる』で構成された.家族は「何度か,大きい声で怒鳴ったことあるんです.外で(タバコ)吸ったりとか ~中略~ 洗濯もん干して,2階のそこから,パッと何気なく下見たら,そこ(庭)で吸ってたり,道で吸ってたり;A氏」や「建築業やってたの. ~中略~ ほんなんしてたら,それが今きてるんやって.(粉塵が)肺にきてしもたんや.マスクせなんだで;D氏」と患者のこれまでの生活を振り返り病気の原因について理解し納得していた.

2) 【呼吸苦のある本人を支えることを憂う】

このカテゴリは『在宅酸素療法導入後の生活や気持ちの変化を憂慮する』『生活の場面で呼吸状態の悪化に戸惑う』『呼吸苦に対応できないことを危惧する』『呼吸を楽にする方法を模索する』で構成された.家族は「たぶん実家に居た時は,弟の所によく電話あったっていってたので.でもHOT導入して実家に居たのは3週間くらいなんですって.その間に(病院)2回入ってるんやって.ほっでこれもう(独居は)アカンって;E氏」とHOT導入後,独居生活に戻ることで患者が不安を募らせたり,以前はHOTをしながらも外出していた患者が呼吸苦を理由に外出を拒否するようになったりと,生活の中で呼吸器症状が悪化することに不安を感じていた.

3) 【日々の生活の中で本人を支える方法を模索する】

このカテゴリは,『生活の中で家族ができることを模索する』『体調に応じた食事を試行錯誤する』『介護サービスを利用し急性増悪の回避に期待する』で構成された.家族は患者の肺の状態の悪化を知り,患者の体調に応じた食事を試行錯誤していた.また,「介護保険使ってます.だってお風呂入るのに長いことかかると風邪ひくと私,一番困りますので;A氏」と自宅での入浴では脱衣所と浴室での寒暖差に加え,更衣に時間が掛かり体調を崩し急性増悪を起こすことを避けるため,介護サービスとして入浴介助を利用していた.

4) 【病気に対して理解のない周囲や施設に苛立つ】

このカテゴリは『病状を理解してもらえないことにやるせなさを感じる』『在宅酸素の受入れ体制が整わないことに憤る』で構成された.家族は,「あの歩かれるもんで支援2なんですよ.支援の方ですね,軽い方ですね.支援しかあたってないんですよ;A氏」と患者の生活の大変さを理解してもらえないこと,「行くとこ行っては,業者さんに電話して(旅館に酸素)置いて行ってもらうんやけど,それが面倒くさいやろ.嫌って言う旅館もあるし.(酸素)嫌って言う所もある;C氏」とHOTの使用を快く思っていない宿泊施設に対しての不満や憤りを感じていた.

5) 【患者会に期待を寄せる】

このカテゴリは,『患者会の生活を便利にする情報に満足する』『患者会への参加に満足』の患者会の会員の家族の思いで構成された.家族は「参加して眼鏡なんかのしてる人いて,あのそれ(眼鏡のカニューレ)あつらえたんですのでぇ ~中略~ あれ,この線(カニューレ)がなくて,楽そうなんやろって.思ったのがあれで.で,(本人に)聞きに言った;A氏」との語りから患者会に参加することで,新しい情報を得ることを期待していた.

6) 【共に生活を支えてくれる家族や周囲に感謝する】

このカテゴリは,『自分が出来ないことをフォローしてくれる家族や周囲に感謝する』『身内から病気の話を聞き症状を理解する』で構成された.家族は「薬の配薬は家の娘がしてくれる.下の子の仕事みたいな;E氏」と生活の中で他の家族がフォローしてくれることへの感謝が語られた.

7) 【医療者に信頼を寄せる】

このカテゴリは,『医療者に信頼を寄せる』の1つのサブカテゴリで構成された.家族は「夜(訪問看護師に)電話するでしょ.こういう熱があってて.電話するとアドバイスをいただいて ~中略~ 今度は(病院の)看護師さんから電話あって「こんな電話あったんですけども今はどうですか?」って,電話あります.で,あれ(心配)やったら,お昼往診に伺いますって;A氏」と,緊急時に訪問看護師に連絡した後,必ず主治医からの対応があることで医療者に対し信頼を寄せていた.

8) 【不確かな今後への不安を抱く】

このカテゴリは,『見通しがないことに対し不安を抱く』『本人の意思を確認出来ないジレンマを感じる』『急変時に延命処置が判断できないことを感じる』で構成された.家族は,患者の急変時に「病気になると,今聞いたら余計にしんどくなるんじゃないか.ね,結局は最期はどうしたいんかなって言うのを探りながらって言うか,はっきりと聞けていないのが現状で.でも,元気なうちにって言うじゃないですか.それは何かね,元気なのに今そんなこと聞いてどうするんやろ?って言うのとか;E氏」と本人に急変時の対応の意思の確認が出来ていないことへの不安を抱えていた.

9) 【呼吸苦と共に生きる本人を受け止める】

このカテゴリは,『呼吸状態の悪化から在宅酸素療法の導入を覚悟する』『呼吸苦を冷静に受け止める』『呼吸苦のない頃を懐かしむ』『病気と向き合う本人を受け止める』『呼吸苦を他人事のように感じていたことに気づく』『家族として病気を知ることの重要性を自覚する』『症状や診断から「死」を悟る』で構成された.家族は呼吸苦に対して,「私はいつも見てるから,案外と呑気で,そんなに気にならない方です;A氏」など呼吸苦に対して冷静に受け止め,特別な思いを持って対応をしているようではなかった.その中でも家族は患者会に参加することで「ああやって見ると,皆辛そうではなさそう,とは私らもやっぱり思いましたけどねぇ.ほんとパッと見ただけで,分かりませんからねぇ.えっと,私らもそうやったやろうしね,患者会行っても皆やっぱり;A氏」などのように,家族自身が他人事のように感じていたことに気づいていた.

考察

本研究のCRD患者の病気の診断からHOTの導入後,共に生活を送る家族の語りから呼吸器疾患特有の家族の思いを中心に考察を進めていく.

1. 病気・呼吸苦に対する家族の思い

家族は患者の疾患が『明らかな原因による発症』であることから,やむを得ないと受け止めていた.これはCOPDの最重要因子はタバコの煙であり患者の90%に喫煙歴があること10,間質性肺炎の原因として,じん肺,薬剤性など原因が明らかなものと原因不明のものがある11ことに加え,肺がんを含む肺疾患に関しては喫煙が原因として認識されていることからもCRDの診断に対して家族は「自業自得」や「職業上仕方がなかった」と受け止めていることが考えられた.

CRD患者は,HOTをしながらも呼吸苦を訴えていた.その患者の訴える呼吸苦に対し家族は,ゆっくり落ち着いて呼吸をすることで症状が軽減することを経験的に認識し「(自分は)案外,気にならない方」や「(呼吸苦は)じっとしていれば楽になる」と冷静に捉えていた.この呼吸苦への対処方法(ゆっくり落ち着いて呼吸をする,口すぼめ呼吸をする)は,コーンの危機・障害受容のプロセスの‘適応’の段階12でありCRDの症状として受け止めていることが考えられた.危機・障害受容のプロセスでは‘適応’の段階に至るまで,‘ショック’や‘回復への期待’の段階を踏む12が,本研究においては,これらの段階に該当する発言は見られなかった.これは,本研究の参加者となった家族はCRDの診断に対し「喫煙が止められなかったから自業自得」「職業上仕方がない」という思いから,これらの‘ショック’‘回復への期待’の段階を経ることがなかったと考える.一方で家族は疾患の進行に伴った「呼吸困難感の悪化」に加え「以前は持てたものが持てなくなった」「食事を摂るだけで息切れがする」「(以前と比べて)出かけなくなった」といった,患者がこれまで当たり前のように行えていたことが,徐々にできなくなってきたことを目の当たりにすることでHOTの導入前では『HOTの導入を覚悟』し,HOT導入後も『呼吸状態の悪化に戸惑う』ことが多くなっていた.このような患者の変化から家族はHOTを使用している中での患者の呼吸苦の訴えに対し,戸惑うと共に自身の無力感を感じていた.この段階は危機・障害受容のプロセスの中の‘悲嘆’の段階12と捉えることができ,家族はこの相反する‘悲嘆’と‘適応’の間で心理的に揺れながら患者と共に療養生活を送っていることが推察される.また,家族は生活の中で呼吸苦の訴えに対し戸惑うことが多くなったこと,患者の友人が患者を「元気そう」という言動や患者会の参加者に対して「元気そうと感じていた自分」を振り返り,自分自身が『呼吸苦を他人事のように感じていたことに気づく』きっかけとなっていた.COPD特有の症状として労作時呼吸困難や慢性の咳・痰10であり,間質性肺炎の主要症状は乾性咳嗽と労作時呼吸困難11であるため症状が出現しても加齢に伴った仕方のないものと認識され,家族である自分自身も日常の症状として捉えていたことに気づいていた.家族は徐々に変化していく患者に対し,戸惑いと共に冷静に捉え【呼吸苦と共に生きる患者本人を受け止め】ていたと考える.

2. 在宅酸素療法を行う患者の家族の思い

家族は,HOTに対する社会の認知の低さや理解のなさに対して苛立ちを感じていた.特に介護保険に対しては,家族が考えている以上に「介護度が低い」「(患者が)楽になる生活にして欲しい」と感じていた.2015年にHOT患者を対象として行われた調査3において,介護度が低めに認定されがちであること,介護サービスの利用によって介護状況が「改善された」と感じている一方で,「変わらない」との回答も同程度あることが報告されている.この調査の対象者は患者本人ではあるが,患者と共に生活を送っている家族も同じ思いを持っていることが推察される.また,HOTをしながらも酸素業者や宿泊施設の協力の下,様々な場所に出かけることが可能であるにも関わらず,未だHOTに関して社会的に認知がされていないことが明らかとなった.さらにHOT導入中の患者の施設入所に関しても,医療者の常駐や患者自身によるHOTの管理が可能であるかどうかが重要となるため,施設への入所の際にも大きな障害となり家族は「これからの見通しがたたない」と感じていた.

本研究に参加した家族は,患者が呼吸器疾患の診断を受けた際,病気の原因が喫煙や職業性によること,加えて呼吸器の症状から発症をやむを得ないと受け止めていた.この思いは特にCOPD患者の家族で顕著であった.しかし次第に悪化する呼吸状態や,医師からの診断を受けて患者の在宅での生活を維持するために家族として出来ることや,介護サービス利用により急性増悪の回避を模索していた.その中で患者の呼吸苦や在宅酸素に対して体制が整わないことに苛立ちを感じながらも,患者会に参加し患者の生活を支える上での有益な情報を得ることに期待をしていた.また,共に患者の生活を支えてくれる家族や周囲,医療者に対して感謝し,家族は病気と共に生きる本人を受け止めていた.しかし,家族は患者が酸素を付けていることで施設への入所が困難になっていることなど,今後に対して不安を持っていた.本研究の結果から,医療者はCRDの診断時から,今後,患者に起こりうる症状の変化や終末期のケアに関して,危機・障害受容の段階を考慮した上で,患者の意思を患者だけでなく家族に対しても関わりの中で確認していくことに加え,社会全体がHOTに対しての理解を促進する取組みを行っていく必要性があることが示唆された.

備考

本研究は,JSPS科研費(課題番号:17K12110)の助成を受けて行った.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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