The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Association between hospital associated disability and need for care prevention after hospital discharge in critical illness patients
Ayato ShinoharaYuki Iida Tomoyuki MorisawaKota YamauchiKengo ObataRyo KozuYusuke KawaiShigeaki InoueOsamu Nishida
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2023 Volume 32 Issue 1 Pages 84-90

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要旨

【目的】重症患者における入院関連能力障害(HAD)と退院後の介護予防の必要性との関連を調査することである.

【対象と方法】2021年9月から2022年3月にICUにて48時間以上の人工呼吸管理を施行した20歳以上の患者を対象とする前向き観察研究である.HADの有無の2群で背景因子,退院3ヵ月後の転帰と生活状況等について比較した.生活状況の調査は基本チェックリストを用いて郵送にて行った.また,多重ロジスティック回帰分析を用いてHAD発生に関与する因子を抽出した.

【結果】65例が解析対象者となった.HADは21例に発生した.HAD群で退院3ヵ月後の運動機能低下とフレイルの割合が有意に高かった.また,HAD発生の関連因子としてICU退室時の握力とFunctional Status Score for the ICU合計が抽出された.

【結論】HAD群で退院3ヵ月後にフレイルを呈した症例が多かった.

緒言

近年,高齢者では急性期病院への入院による身体機能や動作能力のレベル低下について数多くの報告がある.この現象は入院関連能力障害(hospital associated disability; HAD)と呼ばれ,入院後に発生した日常生活動作(activities of daily living; ADL)の自立度の低下と定義されている1.身体機能に異常のない高齢者でも入院に伴いADLに変化をきたし,急性期病院の入院期間が長いほどADLの低下幅は大きくなることが示されている2,3,4.さらに機能的自立度が低下した高齢入院患者では,退院時に介護施設に入所するリスクや死亡するリスクが高いと報告されている5,6.Morisawaらの心臓血管外科術後患者の予後を検討した多施設コホート研究7では,HADは対象患者の21%に認め,退院1年後における基本チェックリストの日常生活や運動能力の項目は入院関連機能低下の患者群で有意な低下を認めた.これらより,高齢者では入院によりHADが発生するとADLの自立度が損なわれ,予後も不良となる可能性がある.

集中治療室(intensive care unit; ICU)入室中にリハビリテーションを受けた重症敗血症患者を対象とした先行研究では,42.5%の患者にHADが発生することが報告されている8が,入院中にHADが発生した重症患者の退院後の予後まで検討された研究はない.また,ICUに入室した重症患者のHADの発生率と予後との関連を明らかにすることは臨床上,大変重要であると考えられる.本研究の目的は,ICUに入室した重症患者におけるHADと退院後の介護予防の必要性との関連を調査することである.

対象と方法

1. 研究デザイン

本研究は多施設共同前向き研究であり,ICUに入室する重症患者を対象にした多施設共同研究Japanese rehabilitation and risk factor on the post intensive care syndrome(J-RELIFE)の中間解析である.J-RELIFE研究は日本集中治療医学会Japanese Intensive Care Research Group・学会主導共同研究推進会議および藤田医科大学医学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:HM21-455)を得て実施した.インフォームドコンセントの手続きについては,ICU退室後に研究の主旨を本人または患者家族に説明し,同意を得た上で実施した.また,同意を得られない患者および同意撤回の申し出のあった患者については対象から除外した.

2. 対象

対象は2021年9月から2022年3月の間に全国22施設のICUへ入室し,48時間以上の人工呼吸管理を施行,および入院中に理学療法士によるリハビリテーションを実施した20歳以上の患者とした.除外基準は①中枢神経障害を呈する患者,②日本語でのコミュニケーションやリハビリテーションへの協力が困難な患者,③入院前に歩行補助具を使用しても歩行困難であった患者,④エンド・オブ・ライフケア患者,⑤その他,研究責任者・研究分担者が不適切と判断した患者とした.

3. 調査項目と方法

背景因子として,年齢,性別,Body Mass Index(BMI),Charlson comorbidity index,Clinical Frailty Scale(CFS),入院前の介護認定の有無,入院前のBarthel index(BI),ICU入室理由,内科系疾患・外科系疾患の有無,acute physiology and chronic health evaluation II score(APACHE II score),sequential organ failure assessment score(SOFA score),ICU入室日数,人工呼吸管理日数,再挿管の有無,ICU再入室の有無,在院日数,敗血症・体外式膜型人工肺(ECMO)の使用・血液浄化療法・高血糖・ステイロイドの使用の有無,ICUでのせん妄の有無と期間,ICU入室からリハビリテーション・端座位練習・立位練習開始までの日数,ICUでのリハビリテーション内容と各リハビリテーション内容の合計時間,転帰を調査した.なお,APACHE II scoreはICU入室24時間以内の最高値を,SOFA scoreはICU入室中の最高値を採用した.

また,身体機能評価としてICU退室時にMedical Research Council Muscle Scale(MRC Muscle Scale),握力,Functional Status Score for the ICU(FSS-ICU)を測定し,退院時にBIを評価した.なお,MRC Muscle Scaleが48点未満であった患者をICU-acquired weakness(ICU-AW)と定義した.さらに退院3ヵ月時点で電話にて再入院および死亡の有無について聴取し,加えて郵送にて生活状況の調査として,基本チェックリストを用いたアンケート調査を行った.

4. HADの評価と定義

本研究はICUに入室する重症患者を対象としたため,先行研究9を参考に入院前のBIと退院時のBIの差が10点以上低下していることをHADと定義した.入院前のBIは入院中に本人または家族から情報を収集し,評価した.退院時BIは各病院で訓練を受けた理学療法士によって評価した.

5. 基本チェックリストの評価基準

基本チェックリストは,生活状態や心身の機能に関する25の質問に対して,「はい」か「いいえ」で回答する自記質問票である10.5項目のADL関連動作の評価,5項目の運動器の機能評価,2項目の低栄養状態の評価,3項目の口腔機能評価,2項目の閉じこもり評価,3項目の認知機能評価,5項目の抑うつ評価の7領域の質問で構成されている.さらに,抑うつの質問を除く20項目中10項目以上に該当する場合,運動器の質問5項目中3項目以上に該当する場合,低栄養評価の2項目の質問にともに該当する場合,口腔機能に関する3項目の質問のうち2項目以上に該当する場合をそれぞれ介護予防事業の対象者の選定基準に設定されている.加えて,認知機能に関する3項目の質問のうち1つ以上に該当する場合,抑うつに関する5項目の質問のうち2項目以上に該当する場合には,「認知症予防・支援」「うつ予防・支援」も考慮する必要があるとされている11.そのため,本研究では,運動器の質問5項目中3項目以上に該当する場合を「運動機能低下」,低栄養評価の2項目の質問にともに該当する場合を「低栄養状態」,口腔機能に関する3項目の質問のうち2項目以上に該当する場合を「口腔機能低下」,認知機能に関する3項目の質問のうち1つ以上に該当する場合を「認知機能低下」,抑うつに関する5項目の質問のうち2項目以上に該当する場合を「うつ状態」と定義した.さらにフレイルは前介護状態であり,介護予防対象者の多くはフレイル高齢者であると推定され,先行研究12を参考に総合点が8点以上である場合をフレイルと定義した.

6. 統計解析

連続変数は中央値[四分位範囲],カテゴリー変数は実数(%)で示した.HADの有無による2群間において背景因子,ICUでのリハビリテーション内容と時間,ICU退室時の身体機能,退院3ヵ月後の転帰と生活状況についてWilcoxon sum rank test,Fisher’s exact testを用いて比較した.また,性別と年齢を調整因子とした多重ロジスティック回帰分析を行い,HAD発生に関与する因子を抽出した.また,先行研究から臨床上重要と考えられる因子を投入因子として定めた.有意水準は5%とした.全ての統計解析はJMP13.2(SAS Institute, USA)を用いて行った.

結果

当該期間にICUで48時間以上の人工呼吸管理を行った患者96名を取り込み症例とした.そのうち,退院3ヵ月後の基本チェックリストが未回収の患者,死亡退院または退院後死亡した患者等を除外した65例を本研究の解析対象者とした(図1).

図1 Flow diagram

対象65例の入院前と退院時のBIの比較では,退院時のBIが入院時に比べ,有意に低下している結果となった(100 [100-100]点 vs 100[80-100]点,P=0.006)(図2).また,HADの有病率は32.3%(21/65例)であった.

図2 入院前および退院時のBarthel indexの箱ひげ図

中央値[四分位範囲]

項目の比較には,Wilcoxon sum rank testを使用

表1に患者背景因子の結果を示す.HAD群は有意に高齢(78[73-83]歳 vs 65[57-76]歳,P<0.001)であり,女性(66.7% vs 29.5%,P=0.007)が多かった.

表1 患者背景

全体(n=65)HAD群(n=21)Non-HAD群(n=44)P-value
年齢(歳)73[62-78]78[73-83]65[57-76]<0.001
女性(例,%)27(41.5)14(66.7)13(29.5)0.007
BMI(kg/m223.4[21.0-27.3]23.4[20.8-27.5]23.3[21.0-27.0]0.984
Charlson comorbidity index1[0-2]1[1-2]1[0-2]0.162
CFS3[2-4]3[3-4]3[2-3]0.051
入院前介護認定(例,%)8(12.3)5(23.8)3(6.8)0.100
入院前BI(点)100[100-100]100[100-100]100[100-100]0.682
入院前BI≧90(例,%)57(87.7)19(90.5)38(86.4)0.999
内科系疾患(例,%)28(43.1)12(57.1)16(36.4)0.180
APACHE II score(点)20[13-26]20[16-25]20[11.75-27]0.952
SOFA score(点)9[7-11]8[5-11]9.5[7.75-11.25]0.119
ICU入室日数(日)6.8[4.8-10.4]5.5[4.8-10.9]6.8[4.8-9.9]0.968
人工呼吸管理日数(日)4.3[2.9-6.6]3.5[2.7-5.5]4.4[3.6-6.6]0.347
再挿管(例,%)5(7.7)1(4.8)4(9.1)0.999
ICU再入室(例,%)4(6.2)3(14.3)1(2.3)0.095
敗血症(例,%)15(23.1)8(38.1)7(15.9)0.063
在院日数(日)33.3[25.2-52.4]33.7[24.4-40.4]33.1[25.9-53.8]0.472
ECMO(例,%)2(3.1)0(0.0)2(4.5)0.999
血液浄化療法(例,%)11(16.9)3(14.3)8(18.2)0.999
高血糖(例,%)46(70.8)13(61.9)33(75.0)0.383
ステロイド剤の使用(例,%)22(33.8)6(28.6)16(36.4)0.587
せん妄(例,%)22(33.8)5(23.8)17(38.6)0.276
せん妄期間(日)0[0-1]0[0-0]0[0-2]0.441
転帰(例,%)
 自宅49(75.4)9(42.9)40(90.9)<0.001
 転院16(24.6)12(57.1)4(9.1)

中央値[四分位範囲],n(%)

BMI; Body Mass Index, CFS; Clinical Frailty Scale, BI; Barthel Index, APACHE II score; acute physiology and chronic health evaluation II score, SOFA score; sequential organ failure assessment score, ECMO;体外式膜型人工肺

各項目の比較には,Wilcoxon sum rank test,Fisher’s exact testを使用

ICUでのリハビリテーション内容については,HAD群でICU入室中に床上での筋力増強練習を合計20分以上行なっていた患者(52.4% vs 79.5%,P=0.040),端座位以上の離床時間が合計30分以上の患者(52.4% vs 79.5%,P=0.040),立位練習時間が合計10分以上の患者(38.1% vs 68.2%,P=0.031)がいずれも有意に少なかった.また,ICU退室時の身体機能は,HAD群でMRC Muscle Scale(48[36-52]点 vs 56.5[48-60]点,P=0.002),握力(10.0[5.5-15.2]kg vs 21.3[12.4-29.5]kg,P<0.001),FSS-ICU合計(12[9-15]点vs 17[14-22.25] 点,P=0.001)いずれも有意に低値であった(表2).

表2 ICU内リハビリテーション内容と退室時の身体機能

HAD群(n=21)Non-HAD群(n=44)P-value
リハビリテーション開始までの日数(日)1.6[0.9-2.8]1.3[0.7-2.7]0.535
端座位開始までの日数(日)3.4[1.8-4.9]3.6[2.5-4.9]0.596
立位開始までの日数(日)5.2[3.6-7.9]5.0[3.6-8.1]0.834
床上での筋力増強練習時間≧20分(例,%)11(52.4)35(79.5)0.040
端座位以上の離床時間≧30分(例,%)11(52.4)35(79.5)0.040
立位練習時間≧10分(例,%)8(38.1)30(68.2)0.031
MRC Muscle Scale(点)48[36-52]56.5[48-60]0.002
MRC Muscle Scale<48(例, %)9(42.9)8(18.2)0.068
握力(kg)10.0[5.5-15.2]21.3[12.4-29.5]<0.001
FSS-ICU合計(点)12[9-15]17[14-22.25]0.001

中央値[四分位範囲],n(%)

MRC Muscle Scale; Medical Research Council Muscle Scale, FSS-ICU; Functional Status Score for the ICU

各項目の比較には,Wilcoxon sum rank test,Fisher’s exact testを使用

退院3ヵ月後の転帰について,HAD群で再入院の割合(0.0% vs 18.2%,P=0.046)が有意に低値であった.また,生活状況については,HAD群で有意に運動機能低下(71.4% vs 43.2%,P=0.038)とフレイル(95.2% vs 61.4%,P=0.006)の患者が多かった(表3).

表3 退院3ヵ月後の転帰と生活状況

HAD群(n=21)Non-HAD群(n=44)P-value
再入院(例,%)0(0.0)8(18.2)0.046
死亡(例,%)0(0.0)0(0.0)0.999
基本チェックリストによる評価
運動機能低下(例,%)15(71.4)19(43.2)0.038
低栄養状態(例,%)4(19.0)5(11.4)0.455
口腔機能低下(例,%)9(42.9)9(20.5)0.078
認知機能低下(例,%)17(81.0)24(54.5)0.055
うつ状態(例,%)14(66.7)18(40.9)0.066
フレイル(例,%)20(95.2)27(61.4)0.006

n(%)

各項目の比較には,Fisher’s exact testを使用

表4にHADの発生を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果を示す.年齢は全てのモデルでHAD発生の関連因子として抽出された.加えて,ICU退室時の握力(オッズ比[OR],0.91;95%信頼区間[CI],0.83-1.00; P=0.037)とFSS-ICU合計(OR, 0.87; 95%CI,0.76-1.00; P=0.036)がHAD発生の関連因子として抽出された.

表4 HADの関連因子の検討

OR(95%CI)P-value
Model 1
 性別2.27(0.62-8.26)0.212
 年齢1.15(1.05-1.26)<0.001
 SOFA score0.97(0.79-1.19)0.770
Model 2
 性別2.54(0.69-9.33)0.156
 年齢1.17(1.05-1.29)<0.001
 CFS0.80(0.46-1.41)0.445
Model 3
 性別2.04(0.54-7.72)0.293
 年齢1.17(1.06-1.28)<0.001
 敗血症の有無0.21(0.04-1.01)0.052
Model 4
 性別2.26(0.63-8.12)0.209
 年齢1.16(1.05-1.28)<0.001
 ステロイド剤の使用0.71(0.17-3.06)0.649
Model 5
 性別2.33(0.65-8.34)0.191
 年齢1.15(1.04-1.26)<0.01
 ICU退室時のICU-AWの有無0.88(0.22-3.53)0.859
Model 6
 性別1.07(0.25-4.61)0.926
 年齢1.14(1.04-1.26)<0.01
 ICU退室時の握力0.91(0.83-1.00)0.037
Model 7
 性別2.27(0.61-8.48)0.219
 年齢1.15(1.04-1.26)<0.01
 ICU退室時のFSS-ICU合計0.87(0.76-1.00)0.036
Model 8
 性別2.52(0.69-9.21)0.158
 年齢1.15(1.05-1.26)<0.01
 リハビリテーション開始までの日数1.16(0.80-1.67)0.441
Model 9
 性別2.33(0.65-8.32)0.190
 年齢1.14(1.05-1.25)<0.01
 人工呼吸管理日数1.03(0.92-1.15)0.567
Model 10
 性別2.15(0.58-7.95)0.250
 年齢1.15(1.05-1.26)<0.001
 ICU再入室の有無0.30(0.02-3.52)0.308

OR; Odd Ratio, CI; Confidence Interval

SOFA score; sequential organ failure assessment score, CFS; Clinical Frailty Scale, ICU-AW; ICU-Acquired Weakness, FSS-ICU; Functional Status Score for the ICU

性別・年齢を調整因子として,多重ロジスティック回帰分析を実施

考察

本研究は,重症患者におけるHADと退院後の介護予防の必要性との関連を調査した初めての報告である.

本研究におけるHADの発生率は32.3%であった.Horiら13は心臓血管外科術後の患者を対象にHADの発生率を調査し,5.2%であったと報告している.BIの低下は平均16.1点,中央値で10点であり,単純比較は困難であるものの本研究のHADの定義と類似している.本研究の対象者は48時間以上の人工呼吸管理を要する患者であり,敗血症患者も含まれることから,重症患者はよりHADの発生率が高くなる可能性が示された.

2009年のSchweickertら14の報告以来,ICUでの早期からのリハビリテーションは注目を集め,推奨されている.近年でのICUでのリハビリテーションに関するシステマティックレビューでは,MRC Muscle ScaleやICU-AW等,短期的なアウトカムを改善すること15,退院時の身体機能の改善およびICU在室日数,入院日数を短縮することが示されている16.さらには早期からICUにてリハビリテーションを開始することで健康関連の生活の質を改善することも示されている17.本研究では,HAD群でICU退室時の身体機能が有意に低値であった.加えて,HADの関連因子として,ICU退室時の握力とFSS-ICU合計が抽出された.これはICU退室時の身体機能が良好である程,HADの発生を抑制する可能性があることを示している.さらに,SOFA scoreがHADの関連因子として抽出されなかったことから,HADの発生には,疾患の重症度よりもリハビリテーションの関わりそのものがHADの発生に影響する可能性が示された.また,退院3ヵ月後に行った生活状況の調査では,HAD群で運動機能低下とフレイルの患者が有意に多かった.Satakeら12は基本チェックリストの総合点が8点以上を身体的フレイルとした場合,要介護・要支援の認定リスクが約4.8倍上昇することを述べている.また,内科疾患による入院患者を対象とした同様の研究18では,入院時の身体的フレイルと退院後1ヵ月後までの要介護・要支援認定のリスクが健常と比較し,約4.3倍高かった.つまり,身体的フレイルは新たな介護予防の必要性の増加と関連することが示唆される.さらに,Makinoら19は認知的状態,社会的状態は身体的状態を介して間接的に要介護・要支援リスクと関連すると述べており,身体的フレイルはより直接的に新たな介護予防の必要性と関連していると考えられ,HAD群では退院後に新たに介護予防の必要性が高くなった患者が多く含まれている可能性が考えられる.また,HAD群では有意に高齢であるため,潜在的にフレイルに陥りやすい患者層であったと考えられる.以上より,HADを発生させないための介入が重要であり,HADの関連因子としてICU退室時の握力とFSS-ICU合計が抽出されたことから,特に高齢である程,ICUから身体機能低下を生じさせないための床上での筋力増強練習や端座位以上の離床時間を確保すること,また短時間でも立位練習を行うなど,積極的なリハビリテーションを施行することの重要性が示された.

本研究にはいくつかの限界がある.まず,第一に多施設前向き研究ではあるものの,サンプルサイズが少なく,結果を一般化できないことである.次に退院後3ヵ月以内の再入院理由の調査を行っていないことである.先行研究20では,多面的なフレイル(身体的/社会的/認知的)が再入院や死亡のリスクを高めることが報告されている.本研究では退院後3ヵ月以内の再入院割合が,HAD群で有意に少なく,先行研究の結果とは矛盾する.その要因として,HAD群では転院となった患者が多く,急性期病院退院後3ヵ月の時点では,転院先から退院直後であることにより結果として再入院が少なくなっている可能性があるが,その詳細は不明である.さらには,HAD群で退院後に新たに介護予防の必要性が高くなった患者が多く含まれている可能性が考えられたが,実際に介護予防や介護サービスを利用しているかまでは調査できていない.

しかし,少子高齢化が進み,超高齢社会を迎えた日本にとって,重症患者における救命後の介護問題は重要な課題のひとつである.本研究はHADを生じた重症患者は退院後に新たに介護予防の必要性が高くなる可能性があるという重要な情報を明らかにすることができた.今後はさらに症例数を増やすとともに,重症患者の退院後の介護予防や介護サービスの利用など,長期的な調査を継続していきたい.

結論

重症患者におけるHADの有病率は32.3%(21/65例)であり,HAD群は退院後3ヵ月後の運動機能低下とフレイルの患者が有意に多かった.また,HADの関連因子としてICU退室時の握力とFSS-ICU合計が抽出されたことから,ICUにおける積極的なリハビリテーションの重要性が示唆された.

謝辞

本研究の実施にあたり協力頂きました患者様ならびにJ-RELIFE研究協力者および研究実施施設の皆様へ心から感謝申し上げます.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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