The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Original Articles
Actual situation of physiotherapy intervention for patients with severe coronavirus disease (COVID-19) based on a questionnaire survey
Kengo Obata Shinya MatsushimaTomohiro MatsuoKazunori KurataNoriaki KojimaMotoki MoriwakiJunko TakadaHitoshi Yokoyama
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2023 Volume 32 Issue 1 Pages 50-57

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要旨

【目的】重症COVID-19患者に対する理学療法の実情を明らかにすること.

【方法】対象は重症COVID-19患者に対し理学療法を直接介入で実施している理学療法士とした.方法はインターネットによるアンケートサイトを用いたアンケート調査とし,直接介入の詳細,リハビリテーション他職種の実情,転帰,精神的ストレスなどを調査した.

【結果】74.4%の施設が理学療法を直接介入で実施しており,最も多くの施設で実施されているのは腹臥位療法を含む体位管理・ポジショニングであった.また最も多い転帰先は53.6%で自宅退院であった.直接介入している理学療法士は57.1%で何らかの精神的ストレスを感じていた.

【結論】COVID-19が国内で発症し1年以上が経過し,多くの施設で直接介入による理学療法を実施していた.

緒言

新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)は2019年に中国・武漢で感染者が認められて以降,日本国内においても瞬く間に感染者が増加した.今もなお1日当たりの新規感染者は増加と減少を繰り返している状況で,収束の目途はたっていない.これら患者の理学療法(physical therapy: PT)介入には,先に感染が蔓延した海外からガイドラインが公表された1.国内ではこれを翻訳した,『急性期病院における COVID-19 の理学療法管理 臨床実践のための推奨2』や,日本集中治療医学会から『ICUにおけるCOVID-19患者に対するリハビリテーション医療Q&A3』などが公表された.また各学会からも様々な指針が公表され,これらを基に各施設でも手探りの状況で,重症COVID-19患者に対するPTを実施している施設が散見されていた.しかし,PTを直接介入することは,患者との接触距離が非常に近く,さらにPTは接触時間が長くなる可能性が高いなどからセラピストへの感染の危険性を危惧し,当初は直接介入をためらう施設が多い状況であった.

一方で,集中治療室(intensive care unit: ICU)に入室し人工呼吸器などの各種デバイスによる治療・管理されている患者は,デバイスによる体動制限,鎮静管理,各種薬剤投与などから,廃用症候群やICU-acquired weakness(ICU-AW)が発症することは,広く認知されている.重症COVID-19患者では,これらに加え酸素需要量軽減や腹臥位療法を行うための深鎮静管理や免疫抑制の目的で大量のステロイド投与などが行われるため,さらに廃用症候群やICU-AWが発症する可能性は高い.これらのことから,重症COVID-19患者に対し,PTを実施するあるいは実施したい施設は徐々に増加した.PTを実施するにあたり,先に述べた各学会からのガイドラインや指針は重要な意味をなすが,それ以上に実際にPT実施している施設からの状況を知ることが重要ではないかと思われる.しかし,当初は風評被害を考慮しCOVID-19患者の受け入れを公表している施設は少なかったため,PT実施している施設に問い合わせることは難しい状況であった.これらの状況を踏まえ,われわれ日本集中治療教育研究会(Nonprofit Organization Japanese Society of Education for Physicians and Trainees in Intensive Care; JSEPTIC)は重症COVID-19患者のPT介入の実情を知る目的で,2020年8月に第1回目のアンケート調査を実施した4.アンケートは重症COVID-19患者に対するPTを直接介入で行っている施設用と間接介入または非介入の施設用の2種類に分けて調査を行い,その時のPT介入の状況を把握することに寄与した.その後,1年が経過した2021年9月に,第2回目のアンケート調査を実施した.

今回,我々が実施した2021年のアンケート調査から,重症COVID-19患者に対し直接介入でPTを実施している施設の回答をまとめ報告する.すでに重症COVID-19患者に対してPT介入を行っている施設だけではなく,現在もPT介入を悩んでいる施設の参考になればと考える.

対象と方法

1. 対象

対象はJSEPTICリハビリテーション部会のメーリングリストに登録している理学療法士(2022年5月15日時点で494名登録)とFacebook(https://www.facebook.com/)上にあるCOVID-19理学療法安全管理情報交換グループに登録している理学療法士(2022年5月15日時点でメンバー2,264名).

これらのうちアンケート開始の時点で重症COVID-19患者を受け入れている施設の理学療法士.

2. 方法

アンケート調査は2021年9月13日から2021年9月26日までの2週間で(第4波終息付近)実施した.アンケートは厚生労働省が公表している,『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第7.2版5』で記されている重症度分類で重症とされている患者を受け入れ,PTをレッドゾーンで直接実施している「直接介入用」とレッドゾーン外で間接的に介入あるいは実施していない「間接介入・未介入用」の2種類を作成.2種類のアンケートを無料アンケート作成サイトであるGoogleフォーム(https://www.google.com/intl/ja/forms/about/)にて作成した.JSEPTICリハビリテーション部会メーリングリスト登録者には電子メールで,またCOVID-19理学療法安全管理情報交換グループメンバーにはFacebook上での書き込みで各々アンケートを依頼した.両方に登録している理学療法士に対しては,回答はどちらかで1回のみにするようにし,さらに施設の重複を避けるために自施設名の記載とともに1施設1回答にするように依頼した.回答者は自施設で行っている重症COVID-19患者に対しての理学療法介入形態によって,「直接介入用」か「間接介入・未介入用」のアンケートに回答いただいた.回答結果の集計は選択肢の設問は件数と割合,自由記載の設問は概要をまとめた.

なお2020年のアンケート調査も同様の実施方法で,2020年8月14日から2020年9月15日までの3週間で(第2波終息付近)実施した4

3. アンケート内容

アンケートはJSEPTICリハビリテーション部会アンケート班のメンバーで決定,作成を行った.直接介入用に作成した設問は28問で,アンケートの内容としては,直接介入実施施設の現状(実施形態や勤務状況等)などの設問を多めに挙げた.その他,作業療法士や言語聴覚士の介入,隔離解除後のPT,退院後関連など,多岐にわたる内容とした(表1).

表1 アンケート設問一覧

1.理学療法実施の実情
・重症COVID-19患者に対する理学療法介入状況
第1波時の介入状況は
現在の開始時期と第1波時との変化は
直接介入開始基準は
直接介入の内容は(複数回答可)
介入内容で第1波時との変化は
・COVID-19担当セラピストは他患者も担当するか
その際の工夫は
2.作業療法士,言語聴覚士
・作業療法士
作業療法士の直接介入は
第1波時の介入状況は
直接介入開始基準は
直接介入の際の役割は(複数回答可)
作業療法実施の際に工夫した点やうまくいった点を記載(自由記載)
作業療法実施の際に苦労した点やうまくいかなかった点を記載(自由記載)
・言語聴覚士
言語聴覚士の直接介入は
第1波時の介入状況は
直接介入開始基準は
摂食嚥下の評価方法は(複数回答可)
摂食嚥下療法実施の際に工夫した点やうまくいった点を記載(自由記載)
摂食嚥下療法実施の際に苦労した点やうまくいかなかった点を記載(自由記載)
3.隔離解除後のPT介入方法
隔離解除の目安は
隔離解除後の介入方法は(複数回答可)
その際の工夫は
4.転帰
・重症COVID-19患者の転帰に関して,第1波時と比べて変化があったか
・他院へ転院した場合,連携して患者のフォーアップをしているか
・自宅退院の場合,外来でのリハビリテーションなど継続したフォローアップはしているか
5.精神的ストレス
・直接介入を実施するにあたり精神的ストレスを感じたことがあるか
・どの様な精神的ストレスを感じたか

4. 倫理的配慮

本研究は,西記念ポートアイランドリハビリテーション病院倫理委員会(受付番号:第17号)ならびに岡山赤十字病院倫理委員会(受付番号:2022-7)の承認を受けて実施した.

また,回答者にはアンケートの最初のページに本アンケートの主旨を説明し同意を頂いた方のみ回答いただくように記した.

結果

直接介入を行った施設は87施設(74.4%),間接介入・未介入施設は30施設(25.6%)であった.以下は直接介入施設87施設からの回答となる.なお2020年アンケート調査は直接介入を行っている施設は23施設(35.4%),間接介入・未介入施設は42施設(64.6%)であった.

1. PT実施の実情(表2

直接介入の介入時期は「ICUに入室した時点で開始する」施設が38.4%と最も多く,次いで「入室後48時間」が15.1%と多かった.PT内容としては「離床」,「関節可動域運動」,「腹臥位療法を含む体位管理・ポジショニング」が90%を超える施設で実施されていた.COVID-19患者を担当する理学療法士は,83.9%がそれ以外の患者も担当しており,その際の工夫としては,COVID-19患者は一日の最後に実施するとの回答が多かった.

表2 理学療法実施の実情

項目件数割合(%)
直接介入の介入時期は(回答:86件)
・ICUに入室したら3338.4
・入室後48時間以内1315.1
・酸素化や循環動態が安定し,早期離床が可能となった時から910.5
・個別に感染対策チームなどの判断を得てから44.7
・覚醒が得られてから11.2
・その他2630.1
腹臥位療法開始時,鎮静剤増量を要する不穏がない
部内で定めた介入開始判断フローに沿って介入開始
発症7日経過以降(発症10日経過以降)
主治医の判断
筋弛緩薬が中止になってから
酸素需要のピークを過ぎてから
多職種カンファレンスで判断           など
PT実施内容(回答:87件 重複有)
・腹臥位を含む体位管理・ポジショニング7892.9
・関節可動域運動7791.7
・離床(tilt table含む)7690.5
・筋力トレーニング7184.5
・ADLトレーニング5464.3
・上肢機能トレーニング4553.6
・気道クリアランス法4351.2
・せん妄・認知機能低下予防介入4047.6
・嚥下評価及び嚥下トレーニング2934.5
・コミュニケーション手段獲得介入2631
・神経筋電気刺激療法1214.3
・ベッド上エルゴメーター78.3
・自助具の提供78.3
・ICU diary(ICU日記)56
・歩行や基本動作練習11.2
COVID-19患者担当セラピストは他患者も担当するか(回答:87件)
・はい7383.9
・いいえ1416.1
他患者を担当する際の工夫(自由記載)
・一般患者対応後にCOVID-19患者を対応する30
・COVID病棟専用のスクラブへ着替える6
・陽性者に先に関わらなければならない際には,シャワー,着替え後に他の患者へ伺う5
・感染対策,手指衛生の徹底4
・介入時間や順番の制限はかけていない2
・免疫不全患者,小児患者は担当しない2

2. 作業療法士,言語聴覚士

作業療法士の直接介入は26.2%(22施設),言語聴覚士の直接介入は29.8%(25施設)であった.

3. 隔離解除後のPT介入方法(表3

8.3%が隔離解除前と同様にfull personal protective equipment(PPE)で個室対応しているのに対し,86.9%が一般患者と同等のPPEで個室あるいはPT室で介入を行っていた.また隔離解除後PT介入に際しての工夫点も様々であった.

表3 隔離解除後の理学療法介入方法

項目件数割合(%)
隔離解除後のPT介入方法は(回答:84件 複数有)
・full PPEにて個室で介入78.3
・通常の入院患者以上のPPEにて個室で介入1619
・通常の入院患者以上のPPEにて理学療法室で介入89.5
・通常の入院患者と同等のPPEにて個室で介入3845.2
・通常の入院患者と同等のPPEにて理学療法室で介入3541.7
・その他910.7
隔離解除後の工夫点(自由記載)
・すぐに必要なOT,STの介入を依頼し,リハビリテーションを強化
・病室内での自主トレーニングの頻度を増やし,直接介入頻度を減らす
・陰性確認後であっても念の為その日の担当患者の最後に行う
・一般入院患者さんとは時間を変えてリハ室にて実施
・濃厚接触とならないよう,1回あたり1単位程度とする
・透析患者など免疫不全がある場合は医療関連感染症や日和見感染を予防するために逆隔離(full PPE)対応を取ることもある(担当科医師やICTの判断)
・咳嗽などのエアロゾルリスクが残存していたり,密着度が高い場合は隔離解除となっても必要に応じてfull PPEにて介入する.
・在宅酸素を導入して早期に自宅退院するのか,少し長めに経過を見てできるだけ在宅酸素を導入しないか,ある程度患者の希望を聴取している
・他患者とはエリア,時間帯を区切る
・担当者が変わることが多いので,COVIDの病態を含めた申し送り
・コロナ脳症などの診断をより早期に行うことで,呼吸から脳血管算定に変更
・感染に対し不安があれば個人の判断でfull PPE
など

4. 転帰(表4

重症COVID-19患者の最も多い転帰先は52.9%が自宅退院,次いで他の急性期病院へ転院(25.3%),回復期病院へ転院(19.5%)が多かった.退院,転院後のフォローアップ体制に関しては,転院症例は86.9%がフォローアップしていないとの回答であった.自宅退院症例は79.1%がフォローアップしていないとの回答で,なんらかの形でフォローアップを行っている施設は15.1%であった.

表4 重症COVID-19患者の転帰

項目件数割合(%)
重症COVID-19患者の最も多い転帰(回答:87件)
・自宅退院4652.9
・他の急性期病院へ転院2225.3
・回復期病院への転院1719.5
・療養型病院への転院22.3
・宿泊施設00
・介護施設へ転所00
フォローアップ体制(回答:82件)
転院症例に対してのフォローアップ(回答:84件)
・フォローアップしてない7386.9
・フォローアップしている1113.1
自宅退院症例に対してのフォローアップ(回答:86件)
・フォローアップしてない6879.1
・フォローアップしている89.3
・自施設から自宅退院する患者はいない78.1
・その他67
在宅酸素導入症例には行っている
外来診療程度はフォローアップしている
通所・訪問リハビリテーションを導入している

5. 精神的ストレス(表5

57.1%が精神的ストレスを感じているとの回答であった.具体的には,私生活上でのことや臨床上など多岐にわたっていた.

表5 理学療法士の精神的ストレス状況

項目件数割合(%)
直接介入を行うにあたり精神的ストレスを感じたことがありますか(回答:84件)
・はい4857.1
・いいえ3642.9
精神的ストレスの内容(自由記載)
・自身やスタッフ,家族へ感染させるかもしれないという恐怖19
・他の患者の診療やその他業務との時間調整など5
・PPE着用の多さや煩雑さ3
・使用物品やPT実施スペースの狭さ2
・病院スタッフ外から,感染者のように扱われる,誹謗中傷2
・変異株に対して,PPEは適切かどうか不安に思う1
・長時間勤務.夜間腹臥位対応など1
・直接介入の時に,何かミスをしたのではないかという焦り1
・他スタッフとの動線分離に伴う孤独感,閉塞感1
・閉鎖的な空間での勤務1
・通常患者と比べ圧倒的に時間がかかる1
など

考察

本アンケートは回答可能な施設に任意で回答していただいているため,2回実施したアンケート結果を比較することは難しい.しかし,回答施設自体の増加や直接介入施設の割合が倍増していることなどから,1年間で重症COVID-19患者の受け入れ施設の増加ならびにそれに対して直接介入でPTを実施している施設が増加したことが予測される.

1. PT実施の実情

集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~6では「早期リハビリテーション」を「疾患の新規発症,手術または急性増悪から48時間以内に開始」と定義している.本アンケートにおいて直接介入開始時期は,「ICUに入室した時点で開始する(38.4%)」,「入室後48時間(15.1%)」と53.5%がコンセンサスで定義されている48時間以内の開始であった.しかしこのコンセンサスが公表されて以降,多くの施設がICUでの通常患者のPTを48時間以内で開始していることを考慮すると,重症COVID-19患者に対するPTの開始時期は,慎重に判断されているとも捉えることが出来る.PT内容としては,「腹臥位療法を含む体位管理・ポジショニング」「離床」「関節可動域運動」など,ICUでの通常患者に対するPTで一般的に実施される内容が90%を超えていた.「腹臥位療法を含む体位管理・ポジショニング」は第1回目の調査4と比べ(73.9%),今回の調査で実施している割合が上昇していた.この理由として,重症COVID-19患者に対する腹臥位療法の有効性が広く一般的になったことが考えられる.これまでCOVID-19が蔓延した当初から,腹臥位療法は重症化して急性呼吸促拍症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)となった症例に対しての有効性7やCOVID-19の中でもH型に対しての有効性8が報告されていた.さらに最新版の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き」ではH型への有効性に加え,L型においても人工呼吸器の調整などで状態の改善などの反応がない場合には腹臥位療法を実施する5ことが述べられている.通常の排痰促進目的のポジショニングに加え,これらの理由から多くの施設で腹臥位療法実施されたのではないかと思われる.またCOVID-19担当理学療法士は83.9%が一般患者も担当しているとの回答であったが,1回目の調査結果の73.9%4から割合が増加している.COVID-19の感染のメカニズムや予防法の確立から,PT実施時間の調整やユニフォームを着替えるなどの対応で,安全に一般患者のPTが実施できることが周知されてきたことが考えられた.

2. 作業療法士,言語聴覚士

先にも述べたように,1回目のアンケートからの比較は難しいが,両職種とも直接介入を実施している割合は増加した(作業療法士:8.7%→26.2%,言語聴覚士:13%→29.8%).作業療法士に関しては,日本作業療法士協会から『COVID-19感染対策/作業療法について9』を公表し,COVID-19患者に対する様々な作業療法士の対応などを解説している.しかし今回のアンケートは重症COVID-19患者に対する回答を依頼している.ICUという環境下からも応用動作などの一般的な作業療法を目的としているのではなく,理学療法士と同様の目的で直接介入を行う人員を増やすために増加したことが予測される.言語聴覚士は当初日本摂食嚥下リハビリテーション学会からは,感染傾向が拡大している地域においては,非緊急の上気道粘膜との接触を伴う嚥下訓練や内視鏡下嚥下機能検査は見合わせる10と注意喚起されていた.また日本嚥下医学会においても同様に,感染傾向が拡大している地域においては非緊急の上気道粘膜との接触を伴う嚥下訓練や内視鏡下嚥下機能検査は見合わせることを推奨する11,と公表していた.また同時期に『新型コロナウイルス感染症流行期における嚥下障害診療指針12』を公表しているため,限定的な介入程度にとどまっていたのではないかと思われる.しかし新規感染者の増加に伴い,嚥下訓練や嚥下機能評価の必要性が高い患者の増加,さらに高齢患者の誤嚥性肺炎の増加より,嚥下訓練や嚥下機能評価の需要が高まったのではないかと思われる.

3. 隔離解除後のPT介入方法

感染防御措置は隔離解除後もfull PPEで対応している施設もあれば,通常患者の感染対策に用いられているPPEで対応している施設もあった.また実施場所も個室とリハビリテーション室とはほぼ同数であった.これはらに関しては,隔離解除後からの経過期間やそれに伴う各施設での感染対策チームの方針によるものが大きいと思われる.また,隔離時のPPEは様々な指針やガイドラインで記されているが,隔離解除後PT実施時のPPEに関しての記載はないため,各施設により対応が様々になっていることが考えられる.

4. 転帰

最も多い転機先として,半数が自宅退院しているが,半数は他の病院へ転院をしている.前回のアンケートでは63.6%が自宅退院で他病院への転院は31.8%であったことからも,1年間で他病院への転院が増加した可能性が高い.この要因には以下の3点が考えられる.一つはCOVID-19患者の受け入れ施設の増加である.重症COVID-19患者は受け入れることが出来なくても,中等症や軽症患者の対応を行う施設が増えたことで重症な状態が回避されてから,中等症や軽症患者の対応が可能な施設に転院したのではないかと思われる.次の要因としては,後方支援医療機関の増加が考えられる.2021年5月に厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より『新型コロナウイルス感染症から回復した患者の転院を受け入れる後方支援医療機関の確保について13』が交付された.これには,後方支援医療機関に関する支援措置や後方支援医療機関への転院支援などが掲載されている.後方支援病院に対する診療報酬上の措置や各県内の受け入れベッドのベッドコントロールを行政が行うことにより,隔離解除前,後に関わらず重症COVID-19患者受け入れ施設からの転院が促されているのではないかと思われる.3つ目の要因としては,高齢患者の増加が考えられる.高齢者の感染者割合は極端な増減はないが,波を追うごとに全体の新規感染者数は増加している.従って高齢者の新規感染者は増加していると言える.高齢者は重症患者だけではなく軽症患者においても,限られたスペースでの隔離状況においてADLの低下を来しやすい.従って,隔離解除後も継続したPTが必要となり転院の割合が増えたのではないかと思われる.

2022年6月に厚生労働省から公表された,『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント14』には,罹患後症状に対するリハビリテーションとして,急性期治療終了あるいは退院後のリハビリテーションの重要性が記されており,今後更に後方支援病院や退院後のリハビリテーションが重要になることが考えられる.

5. 精神的ストレス

高橋らの2021年前半の報告15によると,COVID-19陽性患者の担当者は99%が「心理的ストレスに感じた」と回答している.今回のアンケートでは「精神的ストレスを感じている」との回答は57.1%で,先行研究より少ない割合であった.直接比較することは難しいが,約半年が経過して理学療法士のストレスは少なからず軽減していることが予測される.COVID-19患者に直接関わりをもつ医療従事者に対するストレスは,当初より注意が促されていた.しかし最近では,ストレス軽減の方策が様々公表されているうえ,各施設においてもCOVID-19患者にかかわる医療スタッフに対するメンタルヘルスの取り組みが行われている.また新規患者の増加に伴い世間からの風評被害が軽減されたことも減少した理由として考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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