The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Clinical experience and lessons from Respiratory Support Team
—aiming to become a chest physician with a background of general medicine—
Yoshihiro Mori
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2023 Volume 31 Issue 3 Pages 283-287

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要旨

香川県では自由闊達に議論できる雰囲気があり,市中病院に居ながらアカデミズムを忘れることなく地域医療を支えることができた.当初は全人的医療ができる裾野の広い呼吸器内科医師をめざした.2001年病棟新築時にRespiratory Support Team(RST)のチーム医療を掲げ,小さくても輝くオンリーワンの病院を目指した.中小規模病院では人的資源や医療設備に制約があり,吸入支援や呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)等,職種横断的なチーム医療の成否が鍵となる.当時,RSTは全国に先駆けた先進的な取り組みであった.当院のRSTにおける最もユニークな点は,リーダーはあくまでメディカルスタッフであり,医師はアドバイザーとして後方支援に徹したことである.RST活動を深化させる過程で多職種連携の重要性を認識し,また多くの教訓を学んだ.これらを病院機能と結びつけた発展段階として時間軸で報告した.今後は,医師の働き方改革を先取りしたタスクシフト活動の受け皿として期待している.

緒言

四国と中国を結ぶ瀬戸大橋が完成した1988年に岡山大学から当院に赴任した.私は,人的資源や医療設備に制約のある中小病院の診療を担うことになり,総合内科医と呼吸器専門医の狭間でずっと葛藤してきた.呼吸器疾患は多彩で一見捉えどころがない.これらは呼吸器診療の難しさであり醍醐味でもあるが,全人的,臓器横断的に対応しなければならない点では一般内科の診療に相通ずるところがある.

医師が患者やスタッフに指示するだけでは,適切なケアが現場で実践できるとは限らない.ここでは,吸入支援や呼吸リハ等を介した職種横断的なチーム医療が,展開できるかどうかが鍵となる.専門分化や高度先進化が進む現代医療のなかで,チーム医療はその重要性が叫ばれながら,なおざりにされてきた感がある.

将来は,医師の働き方改革を先取りしたタスクシフト活動の受け皿としても重要である.

総合内科と呼吸器内科の接点(準備期)

1. 総合内科

1988年呼吸器内科医として赴任当時,高松病院の建物は老朽化しており病院の業績も低迷していた.近隣にある500床を超える中核病院の谷間で,179床病院が生き残る手段を模索する必要があった.そこで当時,力を入れてきた「決して診療を断らない救急医療」を実践した.私のなかの当院の「原風景」であり職員と供に,病院をなんとか変えようとした時期であった.患者が専門領域の谷間に陥らないように臓器横断的(全人的)診療を心がける一方で,呼吸器内科医と総合内科医,専門性(speciality)と総合性(generality)の葛藤が常にあった.診療の間口を広げておけば専門性の追求は一生できると考え,裾野の広い呼吸器医師を目指した(図1).

図1

裾野の広い呼吸器医師

2. 研修医教育

当初,診療レベルの向上と知名度アップの必要性を痛感した.そこで内科学会教育病院の認定取得を目標とした.研修医と一緒に診療すれば,次の世代の育成と同時に診療の励みになる.剖検室がなく常勤病理医も居ないなか,高すぎる目標であったが挑戦した.ついに2002年に全国で病院の全病床数が最小の内科学会指定教育病院に認定された.その後,米国の医学教育の現状を3ヶ月間見学して,特に診断学における先進性に感銘を受けた.早速,臨床現場に北米流の医学教育を導入した1.こうして,教育病院の指定とともに当院で研修する医師も著増した.その結果,医局員と研修医達が臓器横断的,自由闊達に議論できる雰囲気ができた.現在も研修医教育はライフワークとして取り組んでいる2

3. 香川県における呼吸器勉強会

香川県では20を超える呼吸器勉強会が,現在までに開催されてきた.当県では呼吸器医師の立ち位置は皆違っていたが,仲が良く,お互いフラットな関係にあった.そして切磋琢磨しながら,いつも自由,公平に議論できる雰囲気があった.まさにワンチームであり,市中病院で居ながらアカデミズムに触れる事ができた.お陰で33年間地域医療を支えることができた1,2

チーム医療の活動(発展期)

1. RST設立背景と活動

第2幕の出発点は,2001年の新病棟完成であった.この機に「選択と集中」の大号令のもと「チーム医療」を診療の中心に据えた.大病院の谷間にある中小規模病院として,特徴を打ち出して差別化する必要があった.オンリーワンの原点は,自分一人では何も出来ないので,皆の力を結集して何かに挑戦する事であった.「No. 1にならなくても良い,もともと特別なOnly One」をスローガンとして掲げた.

そこで2001年に3つのチーム医療を開始した.1)NST(栄養サポートチーム),2)RCST(呼吸ケアサポートチーム),3)ICT(感染コントロールチーム)であった.チーム医療の目標は,①多職種間のコミュニケーション(多職種連携)に役立てる.②メンバーの隠れた才能を引き出す.③メンバーが切磋琢磨することで成長する.④メンバーが病院外にアピールすることで達成感を得る,ことであった.ある日この学会の良い噂を聞き,2000年に本学会に一人で入会した.翌年の第11回学術集会(木村謙太郎会長 大阪市)に単独で参加し,これこそ私達が活躍すべき場所であると確信した.こうして2002年から当院のRSTメンバーが大挙して参加することになった.

まず,呼吸器診療の中心にCOPD診療を掲げた3,4.COPDは薬物療法,栄養療法,呼吸リハが診療の3本柱であり,栄養療法と呼吸リハについては,前述したチーム医療活動が既に充実していた.薬物療法に関しては,チオトロピウムがやっと上市されたばかりであった.しかし,新薬として長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2刺激薬(LAMA/LABA)が続々と上市され,これらの治験の流れに運良く乗ることができた.

本学会の草創期においては,在宅酸素療法(HOT)の治療やスタッフ間でのケア技術の伝達がテーマであった.それを如何に共有すべきか模索の時期であった.私達は次の段階,非侵襲的陽圧換気(NPPV)による呼吸管理が市中病院に普及する時期と重なった.

このような背景のなかで,当院のRST設立と活動が始まった.前述のごとく2001年にRSTを起ち上げた.職種横断的に統一性のある呼吸ケアを広めようと,全病棟と全部署からRSTメンバーを募り,メディカルスタッフが主導して広義のRST活動を開始した.より高度かつ専門的な人工呼吸管理に取り組むため,人工呼吸管理チームを2005年に起ち上げた.ここでは呼吸療法認定士が活躍できる土壌となり,これが狭義のRST活動である.さらに,機能分化によってRSTのチーム力を高めようと,サブグループを作成した.各々のサブグループ内でメンバーが役割を持っており,各病棟や部署における呼吸ケアの中心的役割を担った.また新たな提案や意見を発信し,現場の問題が反映され解決される場となった(図2).

図2

RCSTの構成概要

人工呼吸器管理チームの活動は,定例ミーティング,人工呼吸器回診,院内スタッフ教育であった.さらに,人工呼吸装着患者への直接介入,慢性期NPPV管理,後方施設への管理指導も行った.2005年に呼吸管理のチェックシートを導入した.2010年にはRSTミーティングで病棟別不備率の報告を加えることで,導入前の2004年に比較して人工呼吸器管理の不備率が著明に減少した.

NPPV管理に関する院内講習を受けた人工呼吸管理チームメンバーが,24時間365日,急性期NPPVの導入と初期管理をサポートする院内体制を2007年から開始した5.ここではNPPV導入インストラクターの担当表を作成し,医師の指示のもとにインターフェース選択,フィッティング調節などチェック項目にそってサポート体制を構築した.NPPV導入サポート体制の開始後2年で,NPPV導入の割合が侵襲的陽圧換気療法(IPPV)導入を凌駕して,現在ではNPPV導入が圧倒的に多数となった6.前述したとおり,NPPV導入が市中病院に普及した時期にあたり,先進的な試みであった.

当院のRST活動の最もユニークなところは,チームリーダー(主役)はあくまでメディカルスタッフであり,医師はアドバイザーであり,後方支援(脇役)に徹したことである.

2. 地域を支える睡眠・呼吸器センター

2005年より睡眠・呼吸器センターを開設した.2診体制であり,1診で睡眠時無呼吸症候群(SAS)や各種睡眠障害の検査や治療,禁煙診療を行っている.2診では呼吸器・アレルギー外来として呼吸器疾患全般の診療を行っている7.当センターには多職種が常駐し,他科診療センターと連携している.

SASは,循環器合併症の結果としての冠動脈疾患ではなく,予防や病態改善に呼吸器科の支援と連携が不可欠であり,心不全HOTやASV(二相式気道陽圧呼吸療法)の導入支援を早期より行ってきた8,9.循環・呼吸器合同カンファランスを行うことで,心臓リハビリテーション外来に潜在するCOPD患者における呼吸器科との併診率が,21%から54%に改善した.

睡眠センターを開設以後,持続性陽圧気道圧(CPAP)患者数は増加の一途で1,400人を超えており,早期の対策が喫緊の課題であった.病診連携の一環として,SAS座談会やWEBセミナーを開催してきた.これらの啓発活動により,地域の診療所でもSAS患者が受け容れやすくなり,地域におけるSAS診療レベルが向上することを目標としている.さらに地域の呼吸ケアレベルの向上のため,近隣施設の医療従事者に対してNPPV勉強会を開催している.自宅や施設入所時にRSTメンバーが出向き,施設スタッフや患者自身の療養環境に合わせたNPPV指導など呼吸管理の指導を行っている.今回のコロナ禍で医療逼迫の要因として,高齢感染者の下り搬送の停滞が大きく取り上げられた.呼吸管理や呼吸ケアの後方施設への技術移転は,地域医療を支えるため今後の重要な仕事と考えられる.

亀井内科呼吸器科医院と連携して毎年HOT遠足を開催してきた.過去に台風で1回,コロナ禍で2回流会となったが,参加予定者の落胆は想像以上に大きく,これからもHOT患者の「来年はないかもしれない切ない希望」には是非とも応えていきたい.

3. 診療・学術支援と学会貢献

学術支援室では,2007年より外来診察室に薬剤師が同席して,診察時における業務に対して学術的な支援を行っている.医療診察室での薬剤師の存在はチーム医療にとって貴重であり,患者の病状や生活スタイルを把握することで,適切な吸入指導ができアドヒアランスが向上した.さらには治験や臨床研究において医師負担が減り,今ではタスクシフトの1つになっている.

このように診療支援や臨床研究部の設置により,COPD,喘息の治験を15件,最近では医師主導の多施設共同研究を5件行った.Fitness 研究,FLOCOP研究,JaNP-Hi研究に参加し前2者については,本学会で特別報告した10. 3軸活動計を用いてLAMA吸入と身体活動性の変化を検討した香川県下多施設共同研究であるCommand Studyを行った11.現在まで本学会には,職種に偏ることなく135題の発表を行い,5回の優秀演題賞を受賞している.さらに本学会誌に13編の投稿論文が掲載された(図3).

図3

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会での学術活動

RST活動をとおして,呼吸療法認定士をはじめ多数の呼吸ケア関連資格取得者が増加し,RSTが目指した当初の目標は達成できた(図4).その結果,幸いなことに2019年度の学会賞を受賞することができた12.呼吸ケアの奥深さと醍醐味を味わっただけで十二分に報われたと思っていただけに望外の幸せであった.

図4

呼吸ケア関連資格取得者数

学会誌編集委員が最も長い学会活動であった.ここでは多職種である会員の学問的好奇心に直接触れる事ができた.そして,市中病院で居ながら学問の楽しさや厳しさ,醍醐味を教わった.そして,学ぶこと「アカデミズム」を忘れずに「継続」でき,今ではむしろ感謝している.

4. RSTから学んだこと

RSTから学んだことは,①独りでは何もできない.スタッフを巻き込み信頼する.②オファーは全て受ける(幸福の女神に後ろ髪はない)③メンバーでも,どなたでも,どのようなアドバイスでも納得できれば(腑に落ちれば),トコトン取り込むことである.

専門職が集まる病院のなかでプロジェクトが成功するかどうかは,熱意だけではなく自分の考えにどれだけ多くの職員が賛同し同調してくれるかにかかっている.脇目も振らず走り続けていると,いつの間にか自分が先頭走者になっているのに気づくことがある.中小規模病院のため医師として手の届かない領域もあったが,むしろ程よい大きさのため職員の顔が見えて意思統一しやすい面もあった.

孟子の箴言がある.天の時,33年間,ただ実直に継続.地の利,香川県の仲間のカデミズム志向とフラットな絆.人の和,RSTのチーム力.しかし最後には,全て人の和に如かず,周囲の環境や人に助けられた(図5).

図5

KKR高松病院のRST

チーム医療とタスクシェア(将来)

専門分化や高度先進化が進む現代医療のなかで,チーム医療はその重要性が増している.チーム医療が質の高いエビデンスを作れば,診療報酬に結びつく可能性がある.チーム医療にコストパーフォーマンスを支持するアウトカムを要求する事は酷であるが,経済的支援はチーム医療が半歩でも前進するためには欠かせない.将来は,待ったなしの医師の働き方改革を先取りしたタスクシフト活動の受け皿として期待している.

謝辞

RSTメンバーをはじめ,33年間診療を支えて戴いた職員や香川県の呼吸器医師,その他の協力して戴いた皆様に深謝致します.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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