2021 Volume 29 Issue 3 Pages 492-497
【目的】急性期病院における慢性呼吸器疾患患者の終末期インフォームド・コンセント(以下,IC)の現状を調査し,課題を明らかにする.
【方法】当院呼吸器内科医師がIC時に急変時ケア計画書を用いて,終末期に望むあるいは望まない医療の確認を行った慢性呼吸器疾患患者61名の内,担癌患者を除く45名(入院43,外来2)を対象に,後ろ向きに診療録から患者背景,ICの時期と内容,患者・家族等の反応,急変時ケア計画書の内容を調査した.
【結果】平均年齢78.5±7.3歳,入院経路は救急搬送が62.8%,次いで外来からの緊急入院が34.9%であった.ICの時期は,緊急入院3日以内が51.1%と多く,入院転帰は,退院37.2%,転院32.6%,死亡30.2%であった.ICは,42.2%の患者が本人抜きで行われていた.
【考察】急性期病院では,より良い最期を迎えるために患者・家族等の意思決定を支え,次の療養の場に繋げていくこと,さらには連携ネットワーク体制の構築が課題であると考える.
厚生労働省は,人生の最終段階における医療のあり方について継続的に検討を重ね,超高齢化社会に伴う看取りの需要増大を背景に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を2018年3月に改訂した.その中で,本人の意思決定を基本に適切な情報に基づくインフォームド・コンセント(Informed Consent: IC)が行われ,医療・ケアチームで患者・家族等を支える体制作りや,事前に繰り返し話し合い共有しながら最善の医療・ケアを目指すアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)の概念が重要である1)ことが示されている.
日本学術会議の臨床医学委員会終末期医療分科会では,終末期の定義を救急医療等における急性型,がん等の亜急性型,高齢者等の慢性型の3つの分類2)を提唱しており,急性型と亜急性型では終末期の判断基準に生命予後が用いられている.一方,慢性呼吸器疾患は,疾患の経過の中で最期を迎える場合と,増悪を機会に急速に終末期を迎える場合があり,予後予測が困難であることが知られている.がん疾患に比べて終末像は多様であり,死を意識しつつも本人にも医療者にも分かりにくいまま終末期へ移行していく3)ため,終末期医療のタイミングは難しい.臨床では実際,慢性呼吸器疾患患者の耐え難い呼吸困難を目前に,どこまで延命を目指した治療を行うのか悩んだ経験がある.
このような背景から,当院の呼吸器内科医師は,急変の可能性や死期が近いと考えられる患者・家族等に対して,IC時に院内の生命維持治療の中止・不開始に関する指針である自然な死の受容(Allow Natural Death: AND)ガイドラインに基づいた急変時ケア計画書(以下,ケア計画書)を用いて終末期医療について説明している.患者・家族等がこのケア計画書に終末期医療について意思表明をしておくことは,いざという時の混乱を避け,希望に添った医療の提供と何度も意思確認を問われるといった心理的負担の軽減を期待できる.看護師はケア計画書の内容を共有し,患者・家族等の反応を確認しながら意思決定支援に努めている.しかし,現状のケア計画書では患者・家族等の思いや話し合いの経過がわかりにくいといった問題がある.
非がん疾患の終末期医療に関する先行研究では,がん疾患と比較して事前指示の取得率が低かった4.5)報告や,患者アンケート調査では,がんの有無に関係なく事前指示に前向きな意思が示された6)報告等がある.しかし,どのような時期に終末期医療についてICが行われたか,その説明内容や患者・家族等の反応を調査した知見は十分でない.
そこで,本研究では,急性期病院である当院の慢性呼吸器疾患患者の終末期ICの現状を調査し,その課題を明らかにすることを目的とした.
「急変時ケア計画書」は,患者が急変を生じた際に「施すべき処置」と「施すべきでない処置」について,あらかじめ医療チームと患者・家族等で協議し,「望む」あるいは「望まない」医療について意思表明がある場合にカルテに明示しておく事前計画書であり,紙媒体で提示し,受領後はSCANされ,電子カルテ内で意思確認できるものである.「施すべきでない処置」については院内のAND方針に患者・家族等が同意していることを前提とし,心肺蘇生拒否(Do Not Attempt Resuscitation: DNAR)とは限らず,医療行為一つ一つの是非を検討する.また,内容や期限はいつでも変更でき,6~12か月毎に再検討することが望ましいとされている.
2017年1月から12月に,当院の呼吸器内科医師が急変の可能性や死期が近いと考え,IC時にケア計画書を用いて終末期医療の説明を行った慢性呼吸器疾患患者61 名の内,担癌患者を除く45名(入院43名,外来2名)とした.
2. 調査方法診療録から後ろ向きに以下についてデータ収集を行った.
1)IC時の患者背景
(1)基本属性:年齢,性別,主病名
(2)患者状態:血清アルブミン値,せん妄や抑うつ等の精神症状の有無,パフォーマンス・ステータス(Performance Status: PS):全身状態を日常生活レベルに応じて表した指標(グレード0~4),呼吸管理の種類
(3)入院経路,入院期間,入院転帰
2)ICの内容:時期,同席者,説明内容,患者・家族等の反応
3)ケア計画書:電子カルテ内で意思確認できた件数とその内容
3. 分析方法IC時の患者背景,ICの内容(時期,同席者),ケア計画書については記述統計とし,実数(割合%)を示した.PS は自分の身の回りのことが行えるレベル(0~2)と,行えないレベル(3~4)の2群に分けた.ICの内容(説明内容,患者・家族等の反応)は,カルテ内の記述を文節ごとに抽出し,逐語録を作成したものをデータとし,KJ法の手法を用いて類似性に基づき研究者間で合意が得られるまで分類を繰り返し,カテゴリ化を行った.
4. 倫理的配慮本研究は診療録を用いた後ろ向き調査であるが個人情報を取り扱うため,開始前に情報公開文書を開示し,対象,研究の目的・方法,情報の種類,参加拒否により不利益がないこと,収集したデータは暗号化し個人情報を保護することを明示した.本研究は院内倫理審査委員会の承認を得て実施した.
1)基本属性
平均年齢78.5±7.3歳,男性30名(66.7%),女性15名(33.3%),主病名は,間質性肺疾患群19名(42.2%)に次いで慢性閉塞性肺疾患(COPD)群11名(24.4%)が多かった.
2)患者状態
血清アルブミン中央値2.7 g/dl(1.1~4.4 g/dl)と低く,せん妄や抑うつ等の精神症状は19名(42.2%)に有していた.PSは,0~2が15名(33.3%),3~4が30名(66.7%)と3分の2に日常生活の制限を認めた.入院患者の呼吸管理は,酸素療法26名(57.8%),非侵襲的陽圧換気(NPPV)6名(13.3%),侵襲的陽圧換気(IPPV)5名(11.1%),高流量鼻カニュラ(HFNC)4名(8.9%)であり,外来患者2名を含む23名(51.1%)がHOT患者であった.
3)入院経路,入院期間,入院転帰
入院経路は救急搬送が27名(62.8%)を占め,次いで外来からの緊急入院15名(34.9%)であった.入院期間中央値は25日(5~101日),入院転帰は,退院16名(37.2%),転院14名(32.6%),死亡13名(30.2%)であった.
平均年齢(歳) | 78.5±7.3 |
入院/外来 | 43(95.5)/2(4.5) |
性別 | 男性:30(66.7),女性:15(33.3) |
主病名 | 間質性肺疾患群:19(42.2) COPD群:11(24.4)非結核性抗酸菌症:3(6.6) 慢性壊死性肺アスペルギルス症:3(6.6) 膿胸:3(6.6) その他:6(13.3)(心不全1,肺高血圧症1,喀血1,肝肺症候群1,誤嚥性肺炎1,緊張性気胸1) |
アルブミン中央値(g/dl) | 2.7(1.1~4.4) |
せん妄や抑うつ有 | 19(42.2) |
PS:Performance Status | 0:1(2.2) 1:2(4.4) 2:12(26.7) 3:18(40.0) 4:12(26.7) |
入院患者の呼吸管理 | 酸素:26(57.8) NPPV:6(13.3) IPPV:5(11.1) HFNC:4(8.9) なし:2(4.5) |
在宅酸素療法 | 23(入院21/外来2)(51.1) |
入院経路 | 救急搬送:27(62.8) 外来緊急入院:15(34.9) 他科紹介1(2.3) |
入院期間中央値(日) | 25(5~101) |
入院転帰 | 退院:16(37.2)転院:14(32.6)死亡:13(30.2) |
実数(割合%)または中央値(範囲)を示した.n=45名(入院43名,外来2名),入院患者の呼吸管理,入院経路・入院期間・入院転帰はn=43とした.
1)時期
緊急入院3日以内が23名(51.1%)と半数を占めていた.入院4日目以降では,治療の反応が悪く呼吸管理の変更や侵襲的処置が必要となった時11名(24.4%),病状が安定した退院前9名(20.0%),外来2名(4.4%)であった.
2)同席者
患者側は,配偶者21名,子39名,兄弟5名,孫2名,内縁2名,配偶者の親戚6名,知人3名,施設職員等4名が同席し,医療者側は,主治医以外の医師10名,看護師7名,医療ソーシャルワーカー2名であった.また,19名(42.2%)の患者は,本人抜きでICが行われていた.
3)説明内容(表2)
315のデータから,14のサブカテゴリ(以下,<>で示す)に分類され,カテゴリ(以下,【】で示す)として,【治療や経過】【延命治療や急変の可能性】【病状の予測や準備】【症状別対応】【最期・看取り】の5つが抽出された.ICは,【治療や経過】の説明に次いで【延命治療や急変の可能性】が多く,<延命治療の予測><状態悪化時の治療>といった終末期医療の方針を問う内容が中心であった.【病状の予測や準備】では,<病状悪化時の可能性>があるにも関わらず,<転院・退院の準備>もICされていた.【症状別対応】では,<誤嚥や低栄養の対応><せん妄の対応><呼吸困難の対応><浮腫の対応>の4つの症状に分類され,【最期・看取り】では,<最期の過ごし方>や<看取り場所の確認>であった.
カテゴリ(数) | サブカテゴリ(数) | データ例 | カテゴリ(数) | サブカテゴリ(数) | データ例 |
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治療や経過(119) | 入院治療の必要性(40) | COPDの増悪を起こしており入院治療を行う 呼吸困難が強く酸素化が悪いため入院となった 間質性肺炎に気胸という合併症をおこし入院した 肺高血圧症の合併が考えられ精査・治療を行う | 病状の予測や準備(57) | 病状悪化時の可能性(31) | 大喀血すれば即死する可能性も起こりえる 救命できても寝たきりになる可能性が高い 心不全が悪化すれば急変する可能性がある |
転院・退院の準備(21) | 病状が安定すれば転院の準備をお願いする 自宅退院に向けて介護保険の申請など準備が必要 退院に向けて家で酸素が吸えるよう準備を行う | ||||
薬剤や呼吸管理の治療(44) | 肺炎に対して抗生剤による薬物治療を行う 間質性肺炎増悪に対してステロイド治療を行う マスク型の人工呼吸による呼吸管理を行っている 高流量酸素による呼吸管理が必要な状態である | ||||
病状安定時の可能性(5) | 病状が安定しても一人での外出は難しい 病状が改善しても口から食べられない可能性がある | ||||
治療の反応や合併症(35) | 高流量酸素を投与しても酸素化が改善しない できる限りの治療を行っているが反応が悪く限界 治療中に誤嚥・たん詰まりの合併症を起こした 治療を行っても呼吸困難が改善しない ステロイド治療中に気胸の合併症を起こした | 症状別対応(49) | 誤嚥や低栄養の対応(23) | 誤嚥性肺炎を起こしており食事をいったん中止する 唾液でも誤嚥しており鼻から経管栄養を行う やせが進行しており栄養を摂る必要がある 低栄養の改善には高カロリー輸液が必要である | |
延命治療や急変の可能性(83) | 延命治療の予測(44) | 救命は困難であり今後は緩和的ケアが望まれる 延命処置は本人にとって苦痛の可能性が高い 嚥下が難しく生きていくためには胃瘻が必要 人工呼吸器から離脱できなければ気管切開となる 人工呼吸器を使用すれば延命できても離脱できない可能性が高い 気管挿管すると抜けない可能性がある | せん妄の対応(11) | せん妄がひどく鎮静剤の使用が避けられない 夜間せん妄が強くチューブを抜く可能性があり身体拘束が必要な場合がある | |
呼吸困難の対応(9) | 呼吸困難の改善にはモルヒネの使用を検討する 息切れしにくいようリハビリテーションを続ける必要がある | ||||
浮腫の対応(6) | 低蛋白による浮腫が強く点滴を行う 心不全による浮腫があり利尿剤を使用する | ||||
状態悪化時の治療(39) | 呼吸状態が悪化した時にどこまでの治療を希望するか考えておく必要がある 急変時に延命処置を行っても肺はよくならないがどこまで治療を希望するか | 最期・看取り(7) | 最期の過ごし方(4) | 一般病棟では希望があれば付き添って一緒に最期の時間を過ごすことができる 本人に会いたい人がいれば会っておいたほうが良い | |
看取り場所の確認(3) | 自宅での看取りを希望するなら準備をする どこで最期を過ごしたいか希望があるか |
データを類似性に基づきカテゴリ化し,カテゴリに含むデータ例と数を示した.
4)患者・家族等の反応(表3)
73のデータから,カテゴリ(以下,【】で示す)として,【病状と予後に対する不安】【苦痛の少ない治療の希望】【気管挿管や人工呼吸器の拒否や揺らぎ】【死に対する覚悟】【本人・家族等を尊重しあう思い】【人生最期の療養や看取りの希望】の6つに分類された.【病状と予後に対する不安】では,患者より家族等の反応が多く,患者・家族等ともに【苦痛の少ない治療の希望】があり,【気管挿管や人工呼吸器の拒否や揺らぎ】では,患者・家族等ともに家族と考えたい意向が多かった.【死に対する覚悟】では,延命治療はしてほしくないという患者の反応に対して,延命治療をしてほしいという家族の反応があった.一方で,【本人・家族等を尊重しあう思い】を認めた.【人生最期の療養や看取りの希望】では,家族等の希望が多かった.
カテゴリ | 患者の反応 データ例 | 数 | 家族等の反応 データ例 | 数 |
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病状と予後に対する不安 | ・具体的に予後はどのくらいか教えてほしい | 1 | ・調子がよかったから良くなると思っていた | 3 |
・まだ先のことで介護保険は考えていない | 1 | ・病気がここまで悪いと思っていなかった | 2 | |
・肺の病気以外でも急変の可能性を教えてほしい | 2 | |||
・本人が希望するまで介護保険は必要ない | 1 | |||
・どれくらいで退院になるか目途を早めに知らせてほしい | 1 | |||
苦痛の少ない治療の希望 | ・痛みや息苦しさがないよう麻薬を使ってほしい | 3 | ・しんどい治療はやめて麻薬を使ってほしい | 2 |
・苦痛のない治療をしてほしい | 2 | ・最期はなるべく苦痛のない治療をしてほしい | 2 | |
・鼻マスクの人工呼吸器(NPPV)ならやってみたい | 1 | ・しんどい思いをしてきたのでこれ以上の治療は望まない | 2 | |
・食べられなくなったら胃瘻までして苦しみたくない | 1 | ・苦しくないなら胃瘻を作ってあげてほしい | 1 | |
・胃瘻まではしてほしくない | 1 | |||
気管挿管や人工呼吸器の拒否・揺らぎ | ・家族と考えたい | 4 | ・家族と考えたい | 3 |
・人工呼吸器なんか嫌です | 2 | ・本人は人工呼吸器をしないと前から言っていた | 2 | |
・気管挿管は希望しない | 1 | ・ご飯が食べれなくなれば自然な形を希望したい | 2 | |
・元の状態に戻れる可能性がないなら自然がいい | 1 | ・気管挿管して抜けない可能性が高いなら希望しない | 2 | |
・人工呼吸器を希望したい | 1 | |||
・今まで考えたことがなかった | 1 | |||
死に対する覚悟 | ・治る見込みのない延命治療はしてほしくない | 2 | ・できるだけ延命治療をしてほしい | 2 |
・死ぬときに辛い思いせずに楽に死にたい | 2 | ・今まで苦しい思いを何度もしたから死を覚悟している | 1 | |
・遺書を書いて死ぬ準備はできている後悔はない | 2 | ・介護施設の方にすべて任せている | 1 | |
・もっと悪くなった時考えたい | 1 | |||
本人・家族等を尊重しあう思い | ・家族のために意識がある間は頑張りたい | 1 | ・本人の意思を尊重したい | 4 |
・家族が言うなら延命治療をしてほしい | 1 | ・本人が望むなら延命治療はしてほしくない | 2 | |
・死ぬときは家で死にたいと言っていた | 1 | |||
人生最期の療養や看取りの希望 | ・最期は少しでも家に帰りたい | 1 | ・死ぬ前に家に帰らせてあげたい | 1 |
・今のうちに可能なら孫と会わせてあげたい | 1 | |||
・最期まで家族で交代して病院で24時間付き添いたい | 1 | |||
・家に連れて帰るのは何かあった時に不安 | 1 | |||
・急変して死ぬ時はこの病院で看取りたい | 1 | |||
・家で看取ることはできない | 1 | |||
・検死に関わりたくない | 1 |
データを類似性に基づきカテゴリ化し,患者本人の反応と家族等の反応に分けてカテゴリに含むデータ例と数を示した.
電子カルテ内で33名(73.3%)より終末期に望むあるいは望まない医療について意思確認できた.そのうち7名(21.2%)は過去にも意思表明があった.内容は,HFNCを含む酸素療法までの希望が33名中27名(81.8%)と侵襲的治療を望まない意思を表明する一方,人工呼吸器3名(9.1%),NPPV 3名(9.1%),昇圧剤2名(6.1%),輸血2名(6.1%),気管挿管1名(3%),胃瘻1名(3%)の希望も認めた.
本研究の対象は,間質性肺疾患群が最も多く,次いでCOPD群と両者で約7割を占めた.慢性呼吸器疾患の終末期には多彩な症状が報告されている7,8,9).急性期病院の当院でも,対象となった患者には,栄養不良,せん妄や抑うつ,呼吸困難,浮腫,ADLの低下などが見られた.
COPD死亡1か月前の治療について,増悪や救命の治療が高頻度に実施されていた7)という報告がある.本研究の平均年齢は78.5±7.3歳,HOT患者が半数を占め,呼吸状態の悪い高齢の慢性呼吸器疾患患者が増悪を起こして救急搬送され,どこまでの医療を望むのか意思確認が困難な中で,救命を最優先した治療が行われることが考えられる.急性期病院では転院や退院の準備についてもICされるが,30.2%は死亡の転帰となり,回復せずに終末期を迎えたことが明らかになった.また,32.6%は転院になっていたことから,回復できないまま最期を迎えた可能性もある.地域包括ケアシステムの推進により医療機能が細分化される中,急性期病院としては,患者や家族の意思決定を次の療養の場に繋げていけるような関わりと連携を進めていくことが課題であると考える.
2. 急性期病院における終末期ICの特徴本研究では,緊急入院時や治療の反応が悪く呼吸管理の変更や侵襲的処置が必要となった時に,重症といった理由で42.2%の患者が自身の終末期医療の方針を問うICに参加できず,家族等に意思決定が委ねられていた現状が明らかとなった.特発性間質性肺炎の終末期では,予後の悪さと治療の見極めが困難で臨床経過が急速であることから,家族に医療選択を求めることが多かった8)という報告があり,本研究においても先行研究と類似した結果であった.急性期病院では,急変時にどこまでの医療を行うのかについて,その意向を確認することに焦点が当てられるが,緊急を要する場面では冷静に判断することは難しい.今回の結果から,退院前や外来でも患者本人の意思を確認するICにも取り組んでいることが分かった.病状が安定している時に,今後の生き方や将来の逝き方について考える良い機会であると考える.また,一度決定したことでも思いは変化するものであり,患者自身が人生の最期をどのように過ごしたいか,考える機会をもつことが医療者の役割であると考える.
3. 終末期ICにおける看護師の役割本研究では,人生の終末期に関する重要なICの場面で,同席した看護師や専門職が少なかったことから,医療・ケアチームで患者・家族等を支える体制が十分でないことが明らかとなった.急性期病院の看護師は,限られた時間の中で緊急入院や重症・手術患者の対応に追われ,ICに同席したくてもできない状況が推測できる.しかし,看護師は多職種と連携し,医師とともにチームをマネジメントする役割がある.看護師は,医師の説明を患者・家族等がどのように受け止めたかを確認し,重症で高齢の患者と家族等の思いを代弁するアドボケートとしての役割を果たすことが重要であり,今後はICに参加し,チームで患者・家族を支える体制を整備することが課題である.
ICの反応では,患者・家族等ともに苦痛の少ない治療を望んでおり,特に「麻薬を使ってほしい」という反応は,耐え難い呼吸困難に苦しむ患者を傍で看ている家族等も苦しみを感じていることが考えられる.また,気管挿管などの延命治療について,「家族と考えたい」思いや互いの意思を尊重する意向がある一方で,病状を理解できないまま,まだ自分には関係ない,施設に任せている,自宅に帰るのは不安といった複雑な思いが感じられた.このような状況の中で,患者・家族等は,延命治療を希望しないと一度決定したものの死期が近づくにつれ,戸惑い気持ちの揺らぎを経験する.患者と家族等が後悔のないよう,IC後も葛藤を繰り返す意思決定に寄り添い,より良い選択ができるよう支援することが生死に携わる看護師の重要な役割であると考える.竹川は「寄り添うとは終末期の「今」大切にしているものは何か,どのように生きたいか聞きながら患者の意に添うことである」10)と述べている.どのように生き,どのように人生を終えたいか,希望を聴きながら患者の意に添うことで,患者・家族等の背景やさまざまな価値観・死生観の持つ意味が見え,その人らしく人生を全うできる終末期ケアにつながると考える.
4. ケア計画書の持つ意味と今後の課題COPD急性増悪の入院患者に対し,事前に医療者と心肺蘇生について話し合いが行われたのはわずか23%であり一度急性増悪で入院すると極めて予後不良である11)という報告がある.本研究では,73.3%より終末期に望むあるいは望まない医療に対する希望を確認でき,そのうち21.2%は過去にも意思表明があったことから,比較的話し合いが行われていることが示唆された.このように,次の増悪に備えた意思表明は,いざという時に不必要になりうる侵襲的な治療介入を避け,終末期ケアに差が出る可能性がある12)という報告がある.ケア計画書を用いたICは,今後起こりうる人生の最終段階を考える一つの手段となり,カルテに残すことで救急搬送時にその時の最善を検討する材料になると考える.ACPとは「個人の価値観,人生の目標,および将来望む医療ケアについて理解し,共有することを支援するプロセスである」と定義しており13),ケア計画書はACPの一部にあたると考える.しかし,ケア計画書の提示はあくまでもきっかけであり,希望に沿った終末期医療を受けられる前向きな一面がある一方,現状の文書では,どのように話し合われたかその経過や患者・家族等の反応がわかりにくいといった問題があり,これについては今後検討していきたい.
COPDでは多職種で緩和ケアに取り組むことで症状緩和だけでなく生命予後も改善する14)といった報告がある.しかし,非がん疾患では2018年に末期心不全が緩和ケア診療加算に加わったが,末期呼吸不全は未だ適応外でありACPや緩和ケアの課題は大きい.そして,看護師は日々患者・家族等に関わる中で,個人の価値観や人生の歩み,家族との関係,全人的な苦悩が見えてくることがある.日常の看護ケアから得られる情報を話し合いに活かすことで,全人的な緩和ケアやACPの発展につながる可能性が考えられる.
本研究の限界として,急性期病院における慢性呼吸器疾患患者の終末期ICの現状を,ケア計画書説明時に焦点を当て分析したが,患者・家族等の思いは変化し,ICは繰り返し行われる.終末期ICの現状としては限定された施設の一時期であること,診療録にICの内容や患者・家族等の反応すべてを記録できていない可能性が考えられる.本研究結果が,より良い終末期ケアを目指したACPのあり方を検討していく礎となり,そして,地域包括ケアシステムの中でより良い最期を迎えるために,患者・家族等に関わる医療・ケアチームが施設を超えて話し合い,その過程を共有しながら最善の終末期医療・ケアを目指すネットワーク体制の構築が課題である.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.