2020 年 29 巻 1 号 p. 117-124
【背景】保険薬局において喘息患者に対する吸入指導を医師と連携して行うことは難しい.
【目的】吸入指導連絡票を用いた,医療機関と連携した保険薬局における吸入実技指導が,臨床効果に与える影響を検討した.
【方法】医療機関から吸入指導連絡票が発行された喘息患者に対し,薬剤師が吸入実技指導を実施した.吸入アドヒアランス,理解度・吸入手技,臨床効果指標(ACT,%PEF)を指標とし,指導1,2,3回目に測定して,その変化を全患者および年齢層別に解析した.
【結果】解析対象31名において,全ての指標値は1回目に比べ2,3回目で有意に改善した.年齢層別では,60歳未満群では一部改善しない指標値があったが60歳以上群では全ての指標値が有意に改善した.
【考察】吸入指導連絡票を用いた保険薬局における吸入実技指導は,医師と薬剤師の双方向の情報連携を可能とし,喘息コントロールを維持する上で有効である.
喘息治療の長期管理の第一選択薬は吸入ステロイド薬(ICS)である1).吸入手技の不良および吸入薬の吸い忘れや自己判断による減量・中止は喘息を悪化させる2,3)ため,薬剤師による吸入指導は重要である.また,患者が高齢になるほど吸入療法への理解や吸入手技が問題となることが報告されており4),患者特性を踏まえた指導が大切になる.
吸入指導に関する日本におけるこれまでの報告において,医師と連携した薬剤師による指導が吸入アドヒアランスの改善や治療効果の向上につながることが示されている5,6,7,8,9).それらのほとんどは病院におけるものであり5,6,7),保険薬局における報告は,検索した範囲ではわずか2件である8,9).また,医師からの吸入指導依頼にもとづく保険薬局における吸入指導の臨床効果について,患者の主観で評価するAsthma Control Test10)(ACT)と肺機能を客観的に評価するピークフロー11)(PEF)の両者を前向きに評価したものは存在しない.
私どもは,吸入指導連絡票(図1)を用いた,医師と保険薬局の薬剤師が連携した取り組みを行った.本研究では,吸入指導連絡票を用いて,保険薬局において継続的に吸入実技指導を行うことが,吸入に対するアドヒアランス,理解度,手技,ならびに臨床効果指標(ACT,%PEF)に与える影響について前向きに調査し,全患者および年齢層別に評価することを目的とした.
吸入指導連絡票
対象患者は,1)平成29年1月から平成30年12月までの間にスター薬局大野原店に来局した20歳以上の喘息患者で,2)喘息コントロール指標のACTが24点以下を示し,3)3か月以上にわたって吸入薬を継続使用し,4)やまじ呼吸器内科クリニック(クリニック)から吸入指導連絡票が発行された者で,5)本研究の目的・内容を説明し書面にて同意が得られた者とした.このうち,追跡途中で吸入薬が変更・中止となった者,来局しなかった者,調査項目の記載が不十分であった者を除外した.
2. 吸入指導連絡票と吸入実技指導吸入指導連絡票(図1)は,医師が重点的に吸入指導を必要と判断した患者に対して発行され,そこには患者の疾患名や医師コメント(指導時に注意してほしい項目およびその他(病状,治療経過,処方意図))が記載された.患者は吸入指導連絡票を処方箋とともに保険薬局に提出し,保険薬局の薬剤師は吸入指導の内容を医師に速やかにフィードバックした.2回目以降も問題があればその都度医師にフィードバックした.
薬剤師による吸入指導は必ず実技指導(デモ器を用いた指導)で行った.まず,薬剤師がデモ器を用いて使用法を示し,次に患者にデモ器で実践させた.問題がなければ,患者は薬剤師の前で実際に吸入薬を吸入した.吸入手技などに問題があれば繰り返し指導を行った.それでも吸入が困難な場合は,医師へ疑義照会し他剤への変更などを依頼した.2回目以降の指導も,薬剤師がデモ器を用いて吸入手技を再確認した.なお,本研究をはじめる以前の吸入指導では,デモ器を用いることは少なかったが,本研究では必ずデモ器を用い実技指導を行った.
3. 評価方法評価指標は,吸入アドヒアランス,理解度・吸入手技および臨床効果(ACT,%PEF)とした.評価指標のスコアおよび測定値を,吸入指導1回目,2回目,3回目の直前で計測し,1回目と2回目,1回目と3回目の値を比較した.さらに,指導効果の影響を,60歳未満と60歳以上に分けて比較した.
吸入アドヒアランスは,Morisky Medication Adherence Scales12)(MMAS-4)を参考にして「吸入を忘れたことがある」「吸入に関して無頓着である」「調子が良いと吸入をやめる」「体調が悪くなると吸入をやめる」の4項目を設けることとし,それぞれ「はい(0点)」「いいえ(1点)」の2段階で評価し,合計スコア(0-4点)を求めた.吸入アドヒアランスは,吸入指導時に薬剤師が患者から聞き取った.
理解度は,「薬の作用を理解しているか」の1項目について,「はい(1点)」「いいえ(0点)」の2段階で評価した.吸入手技は,福田らのチェックシート8)に準じて,「準備操作は適切か」「息吐きはできているか」「吸気量は十分か」「吸入後の息止めは適切か」「うがいはできているか」「残量の把握はできているか」の6項目について,それぞれ「できる(2点)」「なんとかできる(1点)」「できない(0点)」の3段階で評価した.理解度・吸入手技は薬剤師が評価し,両者の合計スコア(0-13点)を求めた.
ACTは喘息のコントロール状態を評価する質問票であり,喘息の臨床症状などに関する5項目の回答をそれぞれ1-5点でスコア化し,その総スコア(5-25点)を求めた10).PEFは患者自身が気流制限を評価でき,喘息悪化が数値で判断できる簡便な検査であり,ピークフローメーター(ミニ・ライト,クレメントクラーク社,イギリス)を用いて測定した11).%PEFは,PEF値をPEF予測値で除して算出した.ACTと%PEFは,患者がクリニックを受診時に測定し,3回目の吸入指導終了後に薬剤師がクリニックを訪問し,測定値を聞き取り調査票に記入した.
4. 統計解析吸入指導1回目と2回目および1回目と3回目における各評価指標値は,Friedman検定およびWilcoxon符号付順位和検定(Holm法)で解析した.年齢層別患者背景は,Fisher正確確率検定,Mann-Whitney U検定で解析した.有意水準は0.05とした.統計解析は,EZR version 1.37(自治医科大学附属さいたま医療センター,埼玉)を用いた13).
5. 倫理的配慮本研究は,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針,個人情報保護に留意し,徳島文理大学倫理審査委員会の承認(H28-12)を得た.すべての患者から十分な説明の後,文書による同意を得た.
47名の患者に同意説明を行い,全員から同意が得られた.そのうち,除外症例16名(1回目指導後に吸入薬が変更・中止となった患者6名,来局しなかった患者6名,調査項目の記載が不十分であった患者4名)を除く31名を解析対象とした.解析対象者の背景を表1に示す.男性15名(48.4%),女性16名(51.6%)で60歳未満13名(41.9%),60歳以上18名(58.1%)であった.喘息治療ステップ1)は,ステップ3が24名(77.4%)であった.1回目指導時点の吸入期間は平均7.5か月(最小値3か月,最大値28か月)であり,1回目指導時の吸入薬が,それ以前の吸入薬から変更されていた患者は26名(83.9%),吸入薬が追加になった患者は3名(9.7%)であった.
項目 | n(%) |
---|---|
n=31 | |
性別 男性 | 15(48.4) |
女性 | 16(51.6) |
年齢 20~39歳 | 6(19.4) |
40~59歳 | 7(22.6) |
60~79歳 | 13(41.9) |
80歳~ | 5(16.1) |
喘息治療ステップ | |
ステップ1軽症間欠型 | 0(0.0) |
ステップ2軽症持続型 | 6(19.4) |
ステップ3中等症持続型 | 24(77.4) |
ステップ4重症持続型 | 1(3.2) |
吸入薬の使用期間(月)b) | 7.5(3, 28) |
1回目指導時の吸入薬 | |
変更 | 26(83.9) |
タービュヘイラー® → エリプタ® | 7 |
エアゾール → エリプタ® | 5 |
エリプタ® → エリプタ® | 5 |
ディスカス® → エリプタ® | 3 |
エリプタ® → エアゾール | 3 |
エアゾール → エアゾール | 2 |
エアゾール → レスピマット® | 1 |
追加 | 3(9.7) |
エアゾール → +レスピマット® | 1 |
エリプタ® → +レスピマット® | 1 |
エリプタ® → +エリプタ® | 1 |
継続 | 2(6.4) |
エリプタ® | 2 |
発作時の吸入薬c) | |
サルブタモール硫酸塩 | 3(9.7) |
プロカテロール塩酸塩水和物 | 1(3.2) |
イプラトロピウム臭化物水和物 | 9(29.0) |
なし | 18(58.1) |
併用薬c) | |
経口ステロイド薬(短期・間欠投与) | 3(9.7) |
ロイコトリエン受容体拮抗薬 | 1(4.3) |
なし | 27(87.0) |
吸入指導は,1回目から2回目で平均24.1日(最小値14日,最大値49日),2回目から3回目で平均29.0日(14日,56日)の間隔で行われた.指導時における吸入アドヒアランススコア,理解度・吸入手技スコアおよびACTスコア,%PEFスコアの推移とスコア差を図2に示す.吸入アドヒアランススコアでは,吸入指導1回目と2回目のスコア差は,中央値0.0(P値 0.001),1回目と3回目の差は1.0(<0.001)を示し,両者ともに有意な改善が認められた.理解度・吸入手技スコアでは,スコア差は1回目と2回目および1回目と3回目ともに2.0(<0.001)を示し,両者ともに有意な改善が認められた.
全患者における各指標の推移a)
スコア差およびP値は1回目と2回目,1回目と3回目の差
a) Friedman検定およびWilcoxon符号付順位和検定(Holm法)
ACTスコアでは,スコア差は1回目と2回目が1.0(0.003),1回目と3回目は2.0(0.003)と上昇し,両者ともに有意な改善が認められた.%PEFスコアでは,スコア差は1回目と2回目が6.9(0.004),1回目と3回目は6.9(0.030)と上昇し,両者ともに有意な改善が認められた.
年齢層別患者背景を表2に示す.60歳未満群(n=13)と60歳以上群(n=18)で理解度・吸入手技スコアは60歳以上群で有意に低かった(P値 0.002).年齢層別の指導効果の影響を図3に示す.60歳以上群では,全ての評価指標において有意に改善したが,60歳未満群ではACTスコアおよび%PEFスコアは有意な改善を認めなかった.
項目 | 60歳未満 n(%) n=13 | 60歳以上 n(%) n=18 | P値 |
---|---|---|---|
性別 男性 | 8(61.5) | 7(38.9) | 0.29b) |
女性 | 5(38.5) | 11(61.1) | |
喘息治療ステップ | |||
ステップ1・2 軽症間欠型・持続型 | 4(30.8) | 2(11.1) | 0.36b) |
ステップ3・4 中等症・重症持続型 | 9(69.2) | 16(88.9) | |
1回目指導時のスコアd) | |||
吸入アドヒアランススコア | 3.0(2.0, 4.0) | 3.0(2.0, 3.8) | 0.66c) |
理解度・吸入手技スコア | 12.0(11.0, 12.0) | 9.5(7.0, 11.0) | 0.002c) |
ACTスコア | 19.0(15.0, 22.0) | 17.0(14.3, 20.0) | 0.51c) |
%PEFスコア | 75.8(66.6, 79.3) | 73.7(53.8, 93.6) | 0.80c) |
年齢層別における各指標の推移 a)
スコア差およびP値は1回目と2回目,1回目と3回目の差
NS not significant
a) Friedman検定およびWilcoxon符号付順位和検定(Holm法)
b) Friedman検定
本研究では,吸入指導連絡票を用いた,医療機関と連携した保険薬局における継続的な吸入実技指導が,喘息患者の吸入アドヒアランスおよび理解度・吸入手技を統計学的に有意に改善することを示した.また,後述しているように1回目指導時に吸入薬が変更または追加となった症例が多く,本研究結果は慎重に解釈する必要があるが,患者の主観で評価するACTのみならず客観的に評価する%PEFにおいても有意な改善を示し,それらの改善は,特に60歳以上で顕著であったことを示した.
吸入指導における保険薬局と医療機関の連携によるこれまでの報告8,9)では,喘息コントロールの客観的指標である%PEFを前向きに評価しておらず,検索した範囲では,本研究は%PEFを前向きに評価した初めての研究である.%PEFはACTとは異なり肺の気流制限を客観的に評価できる.本研究においてACTのみならず%PEFの改善を示せたことは,患者の自覚症状だけでなく気道狭窄の改善による肺機能の上昇を示唆している.
院外処方箋の比率は平成29年度で72.8%14)と,保険薬局で吸入薬を受け取る場合が多くなっている.恩田らは,保険薬局の薬剤師は患者情報が不足しており,医療機関との連携が不可欠であると指摘している15).また,厚生労働省は,喘息死ゼロ作戦の指針において「専門医と非専門医,医師と薬剤師の連携など医療現場での協力体制の整備が不十分」と指摘しており16),専門医を対象にした全国病院調査では,吸入指導における連携ツール(吸入指導依頼書や吸入指導返信書)の使用は約19%にとどまると報告されている17).本研究で用いた吸入指導連絡票は,吸入指導依頼書と吸入指導返信書を兼ね備えており,薬剤師が指導開始時から疾患名や治療経過,処方意図などを把握できたことが,指導内容の質の向上に寄与したと考えられる.吸入指導連絡票は医師と薬剤師との双方向の情報連携を迅速に行い,より実効ある吸入指導を実践するための医薬連携ツールとなろう.
喘息予防・管理ガイドラインでは吸入指導のポイントとして,実技指導(口頭指導のみは避ける)および再指導の重要性が挙げられている1).本研究では,デモ器を用いた吸入実技指導を1回のみでなく3~4週間後に再度行った.このことが吸入アドヒアランス,理解度・吸入手技および臨床効果指標の改善をもたらしたと考えられる.久保らの病院における報告でも,喘息患者における繰り返しの吸入指導でアドヒアランスが向上し,PEFが改善することを示している18).しかしながら,保険薬局において吸入手技の再度の確認を行っていたのは半数19)にとどまる.保険薬局において継続した吸入指導はもとより,標準化された適切な吸入指導法を確立する必要性がある.
喘息患者に占める高齢者の割合は近年増加しており,喘息死の約9割は65歳以上の高齢者である1).高齢者は吸入療法に対する理解が不十分であり,手指筋力の低下により吸入手技が不良である場合が少なくない.Hiraらは,高齢になるほど吸入手技や知識が低下すると報告している4).本研究においても,年齢層別患者背景において,理解度・吸入手技スコアは60歳未満群に比べて60歳以上群で有意に不良であった.しかし,本取り組みにより60歳以上群では,理解度・吸入手技スコアは有意に改善し,さらに臨床効果指標であるACTスコアおよび%PEFスコアも有意に改善した.高齢者では吸入指導の必要性は高く,個々の患者に応じた丁寧な吸入指導と教育を継続していくことが求められる.
本研究には幾つかの限界がある.第一に比較対照群がなく,各評価指標値の改善が,患者の吸入器使用の慣れによるものか,吸入指導連絡票の使用や薬剤師による継続した実技指導によるものかについて十分に論じることができない.第二に,1回目指導時に吸入薬が変更または追加となった症例が多く,変更または追加になったことが各評価指標値の改善につながった可能性がある.第三に,患者数は31名と少なく,治療ステップ3の患者が約8割と多く,本研究結果の一般化では慎重な解釈が必要である.
これらの限界はあるが,本研究は,吸入指導連絡票を用いた保険薬局における継続的な吸入実技指導が,喘息患者の吸入アドヒアランスおよび理解度・吸入手技の改善につながる可能性を示し,さらに臨床効果指標の改善につながる可能性を見出した.吸入指導連絡票は医師と薬剤師の双方向の情報連携を可能にし,喘息患者の喘息コントロールを良好に維持する上で極めて有効である.吸入指導連絡票を活用し吸入指導が多くの地域に拡がることを期待する.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.