The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Change in exercise tolerance after inspiratory muscle training—Comparison of upper and lower limb ergometer—
Takato MiyashitaYuki KagayaYutaka HurukawaKazuki OokuraKouichi HasegawaMasahiro SatakeTakanobu Shioya
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2020 Volume 28 Issue 3 Pages 406-411

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要旨

【目的】本研究の目的は,吸気筋トレーニングが運動耐容能に及ぼす影響を,上肢エルゴメータと下肢エルゴメータで測定し,比較検討することである.

【方法】本研究は,健常成人男性42名を対象にして吸気筋トレーニングを行った.吸気筋トレーニングは対象者を負荷強度によって60%PImax,30%PImax,10%PImaxの3群に群分けし,1日30呼吸2セットを2回,8週間行った.対象者に呼吸機能,呼吸筋力,吸気筋耐久力,peakO2の測定をトレーニング前と開始4週後,開始8週後の3回行った.

【結果】60%群・30%群で呼吸筋力,吸気筋耐久力,上肢エルゴメータによるpeakO2に有意な向上がみられた.トレーニング条件による効果の差は呼吸筋力と吸気筋耐久力にみられた.

【結論】本研究から吸気筋トレーニングをPImaxの60%負荷,30%負荷で8週間介入することによって,呼吸筋力と吸気筋耐久力,上肢のpeakO2が改善する可能性が示唆された.

緒言

近年,吸気筋トレーニングは,慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease: COPD)を中心とした呼吸器疾患のみならず慢性心不全,神経筋疾患,脊髄損傷や心臓・呼吸器疾患の術前,人工呼吸器の離脱においても一定の成果をあげている1.COPDにおける吸気筋トレーニングの効果として,吸気筋力の増強2などがあり,エビデンスレベル1B(呼吸筋トレーニングを呼吸リハビリの必須の構成要素としてルーチンに行なうことを支持するエビデンスはない)とされている1.しかし,若年健常者を対象とした吸気筋トレーニングの運動耐容能に及ぼす影響に関しては,運動耐容能は改善しないという報告2がある一方,運動耐容能が改善するという報告3もあり,一定の見解が得られていない.また,運動耐容能の評価はトレッドミルや下肢エルゴメータを使用した報告4,5が多く,上肢エルゴメータを使用した報告は少ない.このことから,本研究は,若年健常者を対象に,吸気筋トレーニングの運動耐容能に及ぼす効果を,上肢と下肢の二種類の運動負荷試験によって検証することを目的とした.

対象と方法

1. 対象

A大学に在籍し,吸気筋トレーニングを行うことに支障のない健康な男子学生42名[年齢20.7±2.1歳(平均±標準偏差)]とした.対象者の背景は表1に示す.対象者には研究内容を説明し,理解を得た上で研究参加の書面同意を得た.なお,本研究に関する研究について秋田大学医学部倫理委員会(平成28年,承認番号1581)の承認を受けた.これらの対象者を,実施する吸気筋トレーニングの負荷量に合わせて,最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory mouth pressure: PImax)の60%群(以下:60%群),30%群(以下:30%群),10%群(以下:10%群)の3群に分類した.なお,整形外科的疾患や呼吸器疾患,その他運動負荷試験を行う上で妨げになる重篤な障害がある者は除外した.

表1 対象者の背景(mean±SD)
人数
(名)
年齢
(歳)
身長
(cm)
体重
(kg)
BMI
(kg/m2
全対象者4220.7±2.1173.0±5.563.2±6.721.1±1.8
60%群1420.9±3.4172.4±4.164.5±5.621.7±2.0
30%群1420.5±1.0171.9±6.261.8±5.620.9±1.1
10%群1420.8±0.9174.8±5.763.3±8.520.6±1.9

SD: standard deviation(標準偏差), BMI: body mass index

2. 吸気筋トレーニング

対象者に対して,それぞれの負荷強度で,吸気筋トレーニングを実施した.トレーニングには,POWER breathe®(POWERbreathe International Ltd)を用いた.トレーニングプロトコルは,30呼吸を1セットとし,1日2セットを2回,8週間にわたって継続させた.

3. 測定項目

1) 呼吸筋力

呼吸筋力の指標として,PImaxおよび,最大呼気口腔内圧(maximum expiratory mouth pressure: PEmax)を測定した.測定には,電子式診断スパイロメーター(オートスパイロAS-507,ミナト医科学)を使用し,PImaxは残気量(residual volume: RV)位からの最大吸気で,PEmaxは全肺気量(total lung capacity: TLC)位からの最大呼気にて測定を行った.いずれもその圧を3秒間維持させ,そのうち1秒間持続できた最大値を算出し,それぞれ3回測定した中の最大値をPImax,PEmaxとした.

2) 呼吸機能

呼吸機能の指標は,努力性肺活量(forced vital capacity: FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second: FEV1),1秒率(FEV1/FVC),ピークフロー(peak expiratory flow: PEF)とし,電子式診断スパイロメーター(オートスパイロAS-507,ミナト医科学)にて測定した.それぞれ3回の測定を行い,FVCが最大値を示したときの各々の値を採用した.

3) 吸気筋耐久力

吸気筋耐久力の指標として,peak mouth pressure(Ppeak)とこの値をPImaxで割った相対値(Ppeak/PImax)を用いた.測定には,PowerLab/8sp(ADI社)と吸気閾値圧力負荷装置(ビーンズクラフト社)を組み合わせた吸気閾値圧負荷装置を使用した.吸気耐久力の評価には,断続的吸気負荷漸増法(2分間の負荷吸気と次のレベルの2分間の間に1分間の休憩をおき,断続的に吸気負荷漸増する方法)6,7を用いた.30%PImaxの負荷強度から開始し,10%ずつ負荷強度を漸増していき,対象者が強い呼吸困難のために吸気負荷状態での呼吸が続けられなくなった時点で測定終了した.なお,2分間持続できた最終段階の負荷圧をPpeakとした.

4) 運動耐容能

運動耐容能の指標は,peak V ˙ O2を採用し,CPXより求めた.測定には,上肢エルゴメータ(Scientific solutions for fitness PRO1TM, SCI FIT Systems Inc USA),下肢エルゴメータ(AEROBIKE 75XLIII)を使用し,呼気ガス代謝モニターMETA MAX3B(フクダ電子社)を併用した.負荷試験のプロトコルは,1分間の安静座位の後,ウォーミングアップとして2分間のウォーミングアップを 50 rpmの回転数で行い,漸増運動負荷法にて上肢エルゴメータでは 40 Wから開始し,1分間に 5 Wずつ漸増する負荷様式に,下肢エルゴメータでは 50 Wから開始し,1分間に 10 Wずつ漸増する負荷様式に設定した8,9,10.終了基準は,予測最大心拍数に達した場合,または 50 rpmの維持が困難となった場合とした.負荷終了後,1分間のクールダウンを行った.

4. 測定時期

トレーニング開始前(以下:開始前),開始4週後(以下:4週後),開始8週後(以下:8週後)に各評価を行った.

5. 統計解析

各測定値は,トレーニング効果を検討するため,各群において対応のある一元配置分散分析を行った.事後検定としてBonferroniの多重比較検定を行った.正規性のないものは,Friedman検定を行い,多重比較法としてWilcoxon検定を行った.また,トレーニング条件による効果の差を比較するために混合要因の二元配置分散分析を行った。統計処理はIBM SPSS Statistics 20.0を用いた.有意水準は,5%未満(p<0.05)とした.

結果

呼吸筋力,呼吸機能,吸気筋耐久力,上肢運動負荷試験,下肢運動負荷試験の変化を表234に示す.

表2 呼吸機能,呼吸筋力・耐久力の変化(mean±SD)
群分け開始前4週後8週後主効果
VC(L)60%群4.6±0.34.7±0.34.6±0.3有意差なし
30%群4.7±0.54.8±0.64.7±0.5有意差なし
10%群4.7±0.64.7±0.64.6±0.6有意差なし
TV(L)60%群0.6±0.20.8±0.30.7±0.2有意差なし
30%群0.7±0.20.9±0.40.8±0.4有意差なし
10%群0.7±0.20.8±0.30.9±0.4有意差なし
FVC(L)60%群4.6±0.34.7±0.34.6±0.3有意差なし
30%群4.7±0.54.8±0.54.7±0.5有意差なし
10%群4.6±0.64.6±0.74.6±0.6有意差なし
FEV1(L)60%群4.0±0.34.1±0.44.0±0.4有意差なし
30%群4.1±0.64.1±0.64.1±0.6有意差なし
10%群4.0±0.64.1±0.64.1±0.5有意差なし
FEV1/FVC(%)60%群87.3±5.987.0±5.987.1±6.0有意差なし
30%群87.9±5.986.4±5.986.5±7.2有意差なし
10%群87.4±8.488.7±6.989.4±6.5有意差なし
PEF(L/s)60%群9.0±1.39.5±0.99.5±0.9有意差なし
30%群8.9±1.38.9±1.49.1±1.7有意差なし
10%群8.9±1.39.5±1.59.9±1.8有意差なし
PEmax(cmH2O)60%群134.5±21.7176.2±29.1##187.8±32.6##**
30%群134.2±28.6160.9±24.6##179.4±18.1##**
10%群128.6±22.0145.4±29.4#157.9±33.5##$$**
PImax(cmH2O)60%群120.0±17.1144.6±20.9##155.3±23.3##$$**
30%群111.6±22.3125.4±19.7##130.1±21.9##$**
10%群103.2±17.7111.1±15.5121.1±24.3#**
Ppeak(cmH2O)60%群90.5±19.0114.4±15.5##119.9±12.9##$$**
30%群84.3±19.791.6±10.3102.5±18.3##$**
10%群74.7±21.784.0±12.193.0±18.7#**
Ppeak/PImax(%)60%群75.7±13.596.2±12.6##137.2±20.1##$$**
30%群78.6±12.985.4±9.3103.9±18.4#**
10%群75.7±9.082.1±6.790.5±18.8**

主効果:*p<0.05. **p<0.01.開始前との比較:#p<0.05. ##p<0.01.

4週後との比較:$p<0.05. $$p<0.01. SD: standard deviation(標準偏差), FVC: forced vital capacity(努力性肺活量), FEV1: forced expiratory volume in one second(1秒量), FEV1/FVC(1秒率), PEF: peak expiratory flow(ピークフロー), PEmax: maximum expiratory mouth pressure(最大呼気口腔内圧), PImax: maximum inspiratory mouth pressure(最大吸気口腔内圧), Ppeak: peak mouth pressure, Ppeak/PImax(相対値).

表3 上肢エルゴメータを用いた運動耐容能の変化(mean±SD)
群分け開始前4週後8週後主効果
peak V ˙ O2(L/min)60%群1.82±0.222.03±0.272.04±0.38*
30%群1.65±0.251.77±0.271.93±0.36$**
10%群1.62±0.431.77±0.461.78±0.49有意差なし

主効果:*p<0.05. **p<0.01.開始前との比較:#p<0.05. ##p<0.01.

4週後との比較: $p<0.05. $$p<0.01. SD: standard deviation(標準偏差).

peak V ˙ O2(最高酸素摂取量)

表4 下肢エルゴメータを用いた運動耐容能の変化(mean±SD)
群分け開始前4週後8週後主効果
peak V ˙ O2(L/min)60%群2.75±0.463.02±0.373.02±0.41有意差なし
30%群2.60±0.462.80±0.412.90±0.66有意差なし
10%群2.64±0.612.77±0.552.70±0.41有意差なし

主効果:*p<0.05. **p<0.01.開始前との比較:#p<0.05. ##p<0.01.

4週後との比較:$p<0.05. $$p<0.01. SD: standard deviation(標準偏差).

peak V ˙ O2(最高酸素摂取量)

1. 呼吸筋力

各群において,吸気筋トレーニングによる有意な差を認めた.

60%群ではPImax[F=55.852,p<0.01],PEmax[F=19.852,p<0.01]でそれぞれのトレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,PImaxでは開始前と4週後,8週後それぞれの間,および4週後と8週後との間に有意差を認めた.PEmaxでは開始前と4週後,8週後それぞれの間に有意差を認めた.

30%群ではPImax[F=21.161,p<0.01],PEmax[F=61.422,p<0.01]でそれぞれのトレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,PImaxでは開始前と4週後,8週後それぞれの間,および4週後と8週後との間に有意差を認めた.PEmaxでは開始前と4週後,8週後それぞれの間に有意差を認めた.

10%群ではPImax[F=8.339,p<0.01],PEmax[F=19.852,p<0.01]でそれぞれのトレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,PImaxでは開始前と8週後に,PEmaxでは開始前と4週後,8週後それぞれの間,および4週後と8週後との間に,それぞれ有意差を認めた.

群間の効果の違いでは吸気筋トレーニング条件と期間を二要因とした二元配置分散分析の結果,トレーニング条件において,PImax[F=3.859,p<0.01],PEmax[F=3.148,p<0.05]に主効果を認めた.トレーニング条件による主効果は,PImaxではそれぞれ8週後で10%群と60%群との間,30%群と60%群との間に,PEmaxではそれぞれ8週後で10%群と60%群との間,30%群と60%群との間に有意差を認めた.トレーニング期間の各水準における条件の主効果はみられなかった.

2. 呼吸機能

各群において,吸気筋トレーニングによる有意な差は認められなかった.

3. 吸気筋耐久力

各群において,吸気筋トレーニングによる有意な差を認めた.

60%群ではPpeak[F=33.902,p<0.01],Ppeak/PImax[F=33.746,p<0.01]でそれぞれのトレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,Ppeakでは開始前と4週後,8週後それぞれの間,および4週後と8週後との間に有意差を認めた.Ppeak/PImaxにおいても同様に,開始前と4週後,8週後それぞれの間,および4週後と8週後との間に有意差を認めた.

30%群ではPpeak[F=9.015,p<0.01],Ppeak/PImax[F=8.920,p<0.01]でそれぞれのトレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,Ppeakでは開始前と8週後との間,および4週後と8週後との間に,有意差を認めた.Ppeak/PImaxでは,開始前と8週後との間にのみ有意差を認めた.

10%群ではPpeak[F=4.323,p<0.01],Ppeak/PImax[F=4.146,p<0.01]でそれぞれのトレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,Ppeakでは開始前と8週後との間に有意差を認めた.Ppeak/PImaxでは有意な変化は見られなかった.

群間の効果の違いでは吸気筋トレーニング条件と期間を二要因とした二元配置分散分析の結果,トレーニング条件において,Ppeak[F=7.466,p<0.01],Ppeak/PImax[F=5.038,p<0.01]に主効果を認めた.トレーニング条件による主効果は,Ppeakではそれぞれ8週後で10%群と60%群との間,30%群と60%群との間に,Ppeak/PImaxではそれぞれ8週後で10%群と60%群との間,30%群と60%群との間に,有意差を認めた.トレーニング期間の各水準における条件の主効果はみられなかった.

4. 上肢運動負荷試験

60%群と30%群において,吸気筋トレーニングによる有意な差を認めた.

60%群ではpeak V ˙ O2[F=4.129,p<0.05]は,トレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,peak V ˙ O2では開始前と4週後との間にのみ有意差を認めた.

30%群ではpeak V ˙ O2[F=5.766,p<0.01]は,トレーニング期間に主効果を認めた.多重比較検定の結果,peak V ˙ O2では開始前と8週後との間にのみ有意差を認めた.

10%群では有意な差は認められなかった.

群間の効果の違いでは吸気筋トレーニング条件と期間を二要因とした二元配置分散分析の結果,トレーニング条件では上肢peak V ˙ O2[F=27.263,p<0.01]に主効果のみを認めた.トレーニング期間の各水準における条件による主効果は認められなかった.

5. 下肢運動負荷試験

各群において,吸気筋トレーニングによる有意な差は認められなかった.

考察

本研究は,健常大学生を対象に吸気筋トレーニングを行い,上肢エルゴメータ,下肢エルゴメータを用いた運動耐容能の経時的変化を比較・検討した.結果として,本研究では60%群および30%群で呼吸筋力,吸気筋耐久力が向上し,それに伴い運動耐容能では上肢のpeak V ˙ O2のみが向上した.

PImaxは60%群,30%群ともにトレーニング開始4週の時点で有意に増加した.吸気筋耐久力の指標であるPpeak,Ppeak/PImaxは60%群のみPImaxと同様に4週の時点で有意に増加し,30%群はトレーニング開始から8週で有意な増加がみられた.呼吸機能やその他の指標には有意な差はみられなかった.従来,呼吸筋トレーニングの効果として,安静時の呼吸機能の指標は変化しないこと,呼吸筋自体の耐久性が増加すること,PImaxが増大することが報告されている1

本研究の結果においてもPImaxや吸気筋耐久力の指標でもあるPpeak,Ppeak/PImaxが向上し,呼吸機能の指標には変化はみられなかったため,この報告に準ずるものであったと考えられる.

本研究では,60%群と30%群において,吸気筋トレーニング介入4週目以降でPEmaxが有意に増加した.先行研究では70%PImaxの強度で1日30回2セットの介入を4週間実施した場合,また40%PImaxで1日15分2セットの介入を3週間実施した場合にPEmaxが増加するといった報告がある6,11.これら先行研究と比較し,本研究における吸気筋トレーニングの負荷強度は,60%PImax,および30%PImaxと低負荷である.しかしながら,トレーニング頻度や期間は,先行研究よりも多く設定されている.そのため,先行研究よりも低い強度であっても,PEmaxが有意に増加したと考えられる.また,吸気筋トレーニングによってPImaxのみならず,PEmaxまで有意に向上したことに関しては,呼気筋の作用を持つ腹筋群が,吸気作用を合わせ持っており12,10%PImaxの吸気圧を加えた後の呼気時における外腹斜筋と腹横筋の筋活動が,吸気圧を加えない時の呼気時に比較して増大するといった先行研究13の結果が関与していると考えられる.これらのことから,10%PImax以上の負荷圧での吸気筋トレーニングを行ったことにより,呼気筋群にも負荷がかかり,結果としてPEmaxが増大したと考えられる.

運動耐容能に関して,上肢運動負荷試験の結果はpeak V ˙ O2の60%群,30%群で有意に増加した.吸気筋トレーニングによって,運動耐容能が改善するという報告3,14がある.しかし,Griffithsらが上肢エルゴメータを用いて行った吸気筋トレーニングの効果に関する研究において,50%PImaxの強度で30呼吸を1日2回,4週間継続するプログラムでは,運動耐容能の改善を認めなかったと報告している15.先行研究と比較すると本研究では,高強度で回数,頻度が多いことが上肢エルゴメータによるpeak V ˙ O2に有意な増加が得られたと考えられる.

本研究における下肢運動負荷試験のpeak V ˙ O2に改善がみられなかった一方で,上肢運動負荷試験のpeak V ˙ O2には改善がみられた.一般的に健常者における呼吸筋の酸素消費量の割合は全身の酸素消費量の3~5%であるが,最大運動時には10~15%となると報告されている16,17,18.そのため,吸気筋トレーニングは運動耐容能に影響を与えることが考えられるが,本研究においては上肢の運動負荷試験においてのみ運動耐容能は改善した.これは,上肢の運動に呼吸補助筋が関与するためと考えられる.上肢エルゴメータでは肩関節周囲の呼吸補助筋が用いられ,上肢運動は下肢運動と比較し浅速呼吸となると報告されている19.呼吸補助筋が上肢運動に動員されることにより,換気量を十分に増大させることができず,上肢エルゴメータによる運動負荷試験では,呼吸筋疲労が生じ易く,早期に上肢運動の持続困難となることが推察される.また,下肢エルゴメータによる運動負荷試験では,呼吸補助筋が下肢運動に動員されることがないため,運動中においても換気量を十分に増大させることが可能となり,下肢運動の持続が可能となったと考えられる.これらのことから,本研究において吸気筋トレーニングを行うことで呼吸筋の筋力,持久力が向上し,上肢エルゴメータにおけるpeak V ˙ O2が増加したと考えられる.

本研究では対象者を健常若年者としていることからCOPD患者など呼吸器疾患患者に対して,臨床への適応に更なる検討が必要と考えられる.しかし,本研究で得られた上肢エルゴメータによる運動耐容能の向上は,COPDなどの患者に対して上肢を用いた日常生活動作の向上が得られると考えられる.

本研究の結果,吸気筋トレーニングをPImaxの60%負荷で4週間,PImaxの30%負荷で8週間健常成人に介入することによって,呼吸筋力と吸気筋耐久力,上肢エルゴメータを使用したpeak V ˙ O2が改善する可能性が示唆された.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年10月,宮城)で発表した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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