The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
Workshop
The effectiveness of inspiratory muscle training in patients with COPD
—A trial in the Akita City Hospital—
Kazuki OkuraAtsuyoshi KawagoshiMasahiro IwakuraKazuyuki ShibataYutaka FurukawaKeiyu SugawaraHitomi TakahashiMitsunobu HommaTakanobu Shioya
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 28 Issue 2 Pages 274-278

Details
要旨

吸気筋トレーニング(IMT)は,種々のガイドラインにおいてその推奨度は高くない.また,日本においては,様々な理由でIMTを導入していない施設が多く,その有効性に関する報告も少ないのが現状である.以前から,当院では,外来通院中の安定期慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対して積極的にIMTを実施している.その結果,呼吸筋力の増強,息切れの軽減,運動耐容能の向上といった効果が得られている.本稿では,当院におけるCOPD患者に対するIMTの効果の検証報告を紹介するとともに,実施方法を例示することでIMTが普及する一助としたい.

緒言

呼吸筋トレーニング,特に吸気筋トレーニング(Inspiratory Muscle Training: IMT)は,呼吸筋の最大筋力および筋持久力を向上させる手段として,包括的呼吸リハビリテーションの一種目となっている1.しかし,その有効性は限られるとして,ガイドライン等の推奨度は高くない2,3.一方で,IMTによって様々な指標が改善すると結論付けているメタアナリシスやシステマティックレビューも多く存在する4,5,6,7

市立秋田総合病院(以下,当院)では,外来通院中の安定期慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)患者に対し,積極的にIMTを導入している8,9,10.また,ガイドライン等では,呼吸筋弱化のみられない患者に対してのIMTの効果は限局的とされているものの,我々の経験では,呼吸筋弱化がみられない患者においても呼吸リハビリテーションにIMTを追加することで運動耐容能が向上する症例は少なくない8,9,10.従って,IMTは,吸気筋弱化がみられない症例においても適応を吟味することで有効なリハビリテーション種目となる可能性がある.

一方で,日本でIMTを導入している施設は少なく,前述したエビデンスの問題等,その理由は様々である.また,その理由のひとつとして適応症例や実施方法が十分に浸透していないことも考えられる.

本稿では,当院で行っている安定期COPD患者へのIMTの実施方法を例示と同プロトコルで行ったIMTの効果の検討を提示することで,日本におけるIMT普及の一助としたい.

当院での安定期COPDに対する在宅IMTの実施方法

当院では,在宅で行う低強度運動療法を中心とした包括的呼吸リハビリテーションを実施している.その内容は,運動療法に加えて,呼吸法や排痰法の指導,胸郭可動域運動,日常生活活動動作練習,管理栄養士による栄養指導,多職種による患者教育(健康教室)である.また,加速度計を内蔵した活動量計による身体活動のフィードバックも行なっている11.運動療法としては,筋力トレーニングや「座ってできるCOPD体操」,歩行を中心とした有酸素運動を指導している9,10.いずれも在宅で継続可能なように低強度で設定している.これらに加えて,当院ではIMTを在宅トレーニングの一種として積極的に導入している.

IMTは,呼吸回数を30回に指定し,1日2セットを実施させている9,10.従来は,トレーニング時間を15分間に設定するプロトコルが用いられていたが1,呼吸回数を30回に設定する短時間のプロトコルでも十分なトレーニング効果を期待できることが報告されている12.しかし,導入時には,30呼吸の連続した実施が困難な症例も多く存在する.従って,連続回数にこだわらず,10回を3セットや15回を2セットなどと回数を適宜調整している.トレーニング強度としての吸気負荷圧は,より高強度の方が最大吸気口腔内圧(Maximum Inspiratory Mouth Pressure: PImax)の増強効果は高いことが予想される.しかし,先行研究13や我々の検討14において,高強度の吸気負荷圧では主要な吸気筋である横隔膜の収縮が得られにくい可能性が指摘されている.従って,当院では,中強度負荷(40%または50%程度)で吸気負荷呼吸を30回連続して実施できる負荷圧に設定することが多い.しかし,高強度でも十分に腹式呼吸を行うことができる症例も存在し,その際は超音波画像診断装置などを用いて横隔膜が収縮できていることを確認してトレーニング処方を行っている.また,PImaxの測定は1ヶ月毎に実施し,PImaxの増加に伴って負荷圧を漸増している.使用しているトレーニング機器は,スプリング抵抗負荷を用いた呼吸筋トレーナーPOWERbreathe Medic PlusTM図1-A),またはPOWERbreathe MedicTM(POWERbreathe International社製)である.最近では,電子制御による漸減負荷が用いられたデジタル呼吸筋トレーナーPOWERbreathe K3TM(同社製)も導入している(図1-B).

図1

Inspiratory muscle training(IMT)機器

A:POWERbreathe Medic PlusTM

B:POWERbreathe K3TM

一方で,IMTもトレーニングとして負荷を掛けることを目的とするため,ある程度のリスクを伴うことになる.現在までに,IMTの明確な禁忌などは公表されていないが,当院では高度の気腫化を認めるなど続発性気胸のリスクが高いと考えられる患者やその既往がある患者,安静時から高度の息切れを自覚する患者に対しての積極的な導入は控えている.また,耳管閉塞など耳鼻咽喉科領域の疾患を有する場合にも注意が必要である.心不全に対してもIMTの有効性が謳われているが,運動負荷時の循環動態が安定していることが条件であり,COPDへの合併例でも同様に注意する.その他,監視下で実施する際に,リハビリテーションにおける一般的なリスク管理項目を十分に回避できることを確認した上で在宅トレーニングとして処方されるべきである.

安定期COPDにおける在宅IMTの効果

前述したプロトコルを用いて,現在までに25名の安定期COPD患者(表1)を対象にIMTの効果を検証した(以下,本研究)10.なお,研究の対象としてIMTを開始する際の条件は,①薬物治療およびリハビリテーションの開始から少なくとも1ヶ月以上経過していること,②過去3ヶ月以内に急性増悪による入院歴がないこと,③自力歩行が可能で日常生活が自立していること,④使用するトレーニング機器の最低限の取り扱いが可能なこととした.また,在宅酸素療法適応患者,経過中に急性増悪に罹患した者,歩行に支障をきたす整形外科的疾患,不安定な心疾患,その他運動を妨げる脳卒中や神経系疾患,精神疾患などの重篤な障害がある者は本研究の解析から除外してある.

表1 対象者の基本情報
n=25
年齢(歳)70±8
身長(cm)167.6±6.0
体重(kg)61.5±7.3
BMI(kg/m221.9±2.7
GOLD stage(I/II/III/IV)6/8/9/2
mMRC scale(0/1/2/3/4)1/12/10/2/0
VC(% predicted)98.7±19.5
FVC(% predicted)99.4±22.4
FEV1(% predicted)57.1±21.0
FEV1/FVC(%)46.9±17.4

測定値:平均値±標準偏差

BMI(body mass index):体格指数,GOLD(the global initiative for chronic obstructive lung disease)stage:GOLDの重症度分類,mMRC(the modified British medical research council):改訂MRC息切れスケール,VC(vital capacity):肺活量,FVC(forced vital capacity):努力性肺活量,FEV1(forced expiratory volume in 1 second):1秒量,FEV1/FVC:1秒率.

文献10より和訳引用)

IMTを含めた呼吸リハビリテーションのアウトカムとしては,呼吸筋力(PImaxおよびMaximal Expiratory Mouth Pressure: PEmax)およびその対標準値(%PImax,%PEmax),等尺性大腿四頭筋筋力(Quadriceps Femoris Muscle Force: QF)およびその体重比(Weight Bearing Index: WBI),6分間歩行試験(6-minutes walking test: 6MWT)における6分間歩行距離(6-minutes walking distance: 6MWD)および修正Borg scaleによる試験後の呼吸困難感(Borg dyspnea)と下肢疲労感(Borg fatigue),健康関連QOL(COPD Assessment test: CAT)とした.これらの項目を,IMT開始時と3ヶ月後にそれぞれ測定した.

その結果,3ヶ月のIMT期間前後においてPImax(P<0.001),%PImax(P<0.001),PEmax(P=0.004),%PEmax(P=0.003),6MWD(P<0.001),Borg dyspnea(P=0.033)は有意に改善した.また,QF(P=0.102),WBI(P=0.089),Borg fatigue(P=0.892),CAT(P=0.332)に有意な変化はみられなかった(表2).

表2 IMT前後の各測定値の変化
PrePostMDP-valueES(r)
PImax(cmH2O)83.8±22.7107.2±23.523.3(18.9, 27.7)<0.001**0.913
%PImax(% predicted)111.9±30.1142.9±32.731.1(24.8, 37.3)<0.001**0.903
PEmax(cmH2O)115.0±22.4128.6±34.613.6(4.7, 22.6)0.004**0.542
%PEmax(% predicted)108.4±21.2121.3±32.312.9(4.8, 21.0)0.003**0.556
QF(kgf)48.2±10.549.5±10.71.24(-0.39, 2.89)0.1310.304
WBI(kgf/kg)0.79±0.160.81±0.170.02(-0.01, 0.05)0.1180.314
6MWD(m)493.1±110.1527.6±109.434.5(20.2, 48.7)<0.001**0.714
Borg dyspnea#4.0(2.0, 4.0)3.0(1.0, 3.0)-0.67(-1.2, -0.1)0.024*0.448
Borg leg#2.0(1.0, 4.0)2.0(1.0, 4.0)-0.08(-0.6, 0.4)0.8920.035
CAT12.8±4.911.3±4.3-1.4(-3.2, 0.3)0.1050.324

測定値:平均値±標準偏差または中央値(四分位範囲)

MD(mean value of difference):差の平均値(95%信頼区間:信頼下限,信頼上限)

*P<0.05 vs. Pre, **P<0.01 vs. Pre(対応のあるt検定または#ウィルコクソンの符号付順位和検定)

Pre:介入前の測定値,Post:介入後の測定値,ES(effect size):効果量,PImax(maximum inspiratory mouth pressure):最大吸気口腔内圧,PEmax(maximum expiratory mouth pressure):最大呼気吸気内圧,QF(quadriceps femoris muscle force):等尺性大腿四頭筋筋力,WBI(weight bearing index):同体重比,6MWD(6 minutes walking distance):6分間歩行距離,Borg dyspnea:修正Borg scale による呼吸困難感,Borg leg:修正Borg scaleによる下肢疲労感,CAT:COPD assessment test.

文献10より和訳引用)

Gosselinkら4の最新のメタアナリシスでは,COPD患者を対象にIMTを行うことによって,PImaxなどの呼吸筋力の指標に限らず,呼吸困難,運動耐容能,健康関連QOLが改善するという報告がされている.しかし,従来の運動療法に付加する価値は呼吸筋弱化のある症例に限られるという報告であった.本研究10では,健康関連QOLが有意な改善に至らなかったものの,労作時呼吸困難や運動耐容能は改善し,メタアナリシスの結果を支持するものであった.一方で,本研究の対象者には呼吸筋弱化(PImax<60 cmH2O)のない者も多く含まれており(22/25名),呼吸筋弱化のある対象に有効であるというメタアナリシスの結果と異なった.

労作時呼吸困難の主たる要因は,動的肺過膨張だと言われている15,16.近年,IMTを行うことによって,動的肺過膨張の要因となる運動中の1回換気量の低下や呼吸数の増加を抑えることができ,呼吸パターンの改善が見込めるという報告が散見される17,18,19.また,呼吸筋弱化のない対象においてIMTを行い,動的肺過膨張の指標が改善したと報告している研究も存在する19.本研究では,運動耐容能の重要な要因とされる下肢筋力に大きな改善は得られておらず,呼吸困難の改善が運動耐容能の向上に寄与しているものと考えられる.従って,本研究においても,呼吸筋弱化の有無に限らず呼吸パターンの改善によって呼吸困難が改善し,運動耐容能が改善された可能性が考えられる.しかし,本研究では動的肺過膨張の測定をしていないため,実際に呼吸困難が動的肺過膨張の改善に伴って改善しているかは不明であり,今後の検討課題である.

また,他の要因としてPImaxの増加量が大きいという理由が考えられる.Gosselinkら4のメタアナリシスにおけるPImaxの平均増加量は 13 cmH2Oであるのに対して,本研究10の対象者では 23.3 cmH2Oの改善が得られている.また,我々の先行研究9では,6MWDの変化量はPImaxと6MWT後の呼吸困難感の改善量と相関するという結果を報告している.従って,先行研究と本研究の結果から,呼吸筋弱化のない対象においても,より大きなPImaxの改善が得られた対象においては運動耐容能の向上も見込める可能性が示唆される.これには,トレーニング機器の進歩により,呼吸筋弱化のない症例を対象としても充足するような高い負荷圧を設定できるようになったことも関わっていると考える.

本研究の限界として,前述したように呼吸困難の改善機序が考察の域を超えないこと,無作為化比較対照試験(Randomized controlled trial: RCT)でないことがあげられる.従って,今後は,呼吸困難や運動耐容能の改善根拠を見据えた評価項目を取り入れた,RCTを行うことが必要であると考える.

まとめと今後の展望

本稿では,当院におけるIMTの実施方法とその結果について紹介した.日本では,IMTを導入していない施設の方が多いことが予想される.その理由としては,エビデンスの低さやコスト的問題,さらに導入基準やその方法が分からないといった多様なものが存在する.IMTは,未だにエビデンスが不明確であり,特に呼吸困難や運動耐容能の改善機序に関する検討や報告が少ないことが問題点としてあげられる.しかし,前述したように,近年では運動中の呼吸パターンの改善やそれらに伴う動的肺過膨張の改善など,改善機序に関する検討が増えてきている.改善機序が解明されることは適応症例の厳選にも繋がり,臨床場面においてどのような患者に対してであればコストを掛けてIMTを導入する,または推奨する意義が大きいかということが明らかになると考える.また,臨床場面において,呼吸筋弱化がない症例においてもIMTの導入において労作時呼吸困難が軽減する症例が存在することは確かである.従って,今後は,“呼吸筋弱化の存在”以外の適応基準が明らかにされることが,IMTの普及にとって必要だと考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top