The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Actual conditions survey of respiratory muscle strength and respiratory function, and identification of factors affecting exercise tolerance of the elderly
Ikuko YamaguchiManabu UchidaHitoshi Maruyama
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 113-119

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要旨

【目的】高齢者の呼吸筋力,呼吸機能をはじめとする身体機能の実態把握と,運動耐容能との関連因子について検討した.

【方法】歩行が自立した地域在住高齢女性60名を対象とした.呼吸筋力はPImax,PEmax,呼吸機能はVC,FVC,FEV1.0,PEF,運動機能は握力,膝伸展筋力,歩行速度,CS-30,TUG,片脚立位,FR,6MWD,身体組成は筋量,筋率を測定した.対象者の握力と歩行速度の結果から運動機能低下群(低下群)と運動機能維持群(維持群)の2群に分け,2群間の比較と,群ごとの6MWDと膝伸展筋力,歩行速度,VC,PImax,PEmax,SMIとの関連性を重回帰分析にて分析した.

【結果】筋量,筋力は年代別基準値と近似したが,呼吸筋力,呼吸機能と運動耐容能は予測値より低く,低下群は維持群より有意に低値であった.低下群では運動耐容能の関連因子として呼吸機能が選択された.

【結論】握力や歩行速度が低下してきた高齢者の運動耐容能の維持には,呼吸機能,呼吸筋力の重要性が示唆された.

緒言

近年の高齢者の健康増進や介護予防に対する取り組みは,フレイルやサルコペニアの評価基準や各運動機能の関連性を検証した多くの先行研究1,2,3,4から得られた知見に基づき,運動機能中心の評価と介入が実施されている.フレイルの診断基準は,Friedらによる評価基準(Cardiovascular Health Study; CHS index)5が広く用いられ,日本では国立長寿医療研究センターが基準を示している6.両者とも運動機能に関しては握力と歩行速度が重要な指標となっており,これはサルコペニアの診断基準と一致する.また,高齢者のフレイル予防では,筋力や歩行速度などの運動機能に加え,運動耐容能の維持が重要な要素となる.運動耐容能とは,心機能,呼吸機能,筋代謝機能の複合された機能により長時間にわたる運動に耐えられる能力とされる7.Friedが提唱したフレイルサイクルには運動耐容能の要素が含まれており,運動耐容能の低下による易疲労性から活力が低下,歩行速度にも影響を及ぼし活動度が下がるという流れが示されている5.よって運動耐容能を維持することは,高齢者の健康増進や介護予防の上で重要なものと考えられる.

しかし,この運動耐容能を規定する機能の一つである呼吸器系は,加齢に伴い器質的,機能的に低下する器官である.肺の弾性収縮力は低下し,胸郭は硬く,呼吸筋力も低下するため,肺活量や一秒率が低下,残気量が増加する.また,運動時には呼気流速の低下から一回換気量が十分に増加せず,加齢による運動耐容能低下の一因とされている8.この運動耐容能と呼吸筋力,呼吸機能との関連については,慢性閉塞性肺疾患などの疾患レベルにおいてエビデンスが構築されている9.しかし,呼吸循環系に疾患を持たない高齢者を対象に,運動耐容能と呼吸筋力,呼吸機能の関連を検討した報告は見あたらない.高齢者には呼吸循環系に疾患がないにもかかわらず,疾患レベルの呼吸機能状態が高頻度で存在することは報告されている10,11.そのため,診断はつかないまでも呼吸器系に退行変性をきたしている高齢者では,運動耐容能の維持・向上を考える際に,四肢筋力などの運動機能だけではなく,呼吸機能・呼吸筋力も視野に入れた検討が重要と考える.

そこで本研究は,フレイルに陥る過程にあると考えられる高齢者において,呼吸筋力,呼吸機能をはじめとする身体機能や運動機能の特徴を明らかにすること,さらにフレイルサイクルを進行させる要素である運動耐容能に影響を及ぼす因子を明らかにすることを目的とした.

対象と方法

1. 対象

対象は介護予防特定高齢者施策における通所型介護予防事業に参加している地域在住高齢女性60名(平均年齢85.8±5.6歳,平均身長 145.1±6.4 cm,平均体重 48.1±9.5 kg,平均Body Mass Index(BMI)22.9±4.2 kg/m2)とした.介護度の内訳は,要支援が31名,要介護29名であった.対象の選定条件として,測定項目の標準値には性差があることを考慮して女性のみとした.取り込み条件は,歩行補助具の有無にかかわらず歩行が自立し,すべての測定が可能な者とした.また,COPD,気管支喘息,呼吸不全,肺結核,肺癌,1か月以内の呼吸器感染症などの呼吸器疾患を有する者,歩行に支障をきたすような重度な整形外科的疾患は除外した.

2. 測定項目と測定方法

呼吸筋力の指標には,最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory mouth pressure:以下,PImax),最大呼気口腔内圧(maximum expiratory mouth pressure:以下,PEmax)を用い,呼吸機能の指標は肺活量(Vital Capacity:以下,VC),努力性肺活量(Forced Vital Capacity:以下,FVC),1秒量(Forced Expiratory Volume in 1 sec:以下,FEV1),1秒率(FEV1/FVC: FEV1%),最大呼気流速(Peak Expiratory Flow:以下,PEF)とした.測定は電子式診断用スパイロメータ(Autospiro AS-507,ミナト医科学社製),呼吸筋力計(AAM377,ミナト医科学社製)を用いて,American Thoracic SocietyとEuropean Respiratory Societyのガイドライン12,13に準拠して3回行い,そのうちの最大値を採用した.VCとFVCについては,年齢,身長,体重から成り立つ日本呼吸器学会肺生理専門委員会報告14の予測式より求められる標準値で除した値を,対標準肺活量(以下,%VC),対標準努力性肺活量(以下,%FVC)とした.PImax,PEmaxは口腔内圧を測定していることになるが,臨床的にPImaxを吸気筋力の指標,PEmaxを呼気筋力の指標として代用されている.安静椅座位にて,最大呼気位から最大吸気努力を行った時の最大吸気口腔内圧(PImax)と,最大吸気位から最大呼気努力を行ったときの最大呼気口腔内圧(PEmax)を測定した.測定は3回実施し,そのうちの最大値を採用した.得られた呼吸筋力を,年齢,身長,体重から成る予測式15より求められる予測呼吸筋力で除した値を%PEmax,%PImaxとした.

運動能力の項目は,筋力の指標として握力,等尺性膝伸展筋力,30秒立ち上がりテスト(30 second chair stand test:以下,CS-30)の起立回数,歩行能力の指標として5 m歩行時間(通常速度と速歩),Timed Up and Go(以下,TUG)所要時間,バランス能力の指標として片脚立位時間,Functional Reach Test(以下,FRT),運動耐容能の指標として6分間歩行テスト(6-Minute Walk Test:以下,6MWT)による歩行距離(6-Minute Walk Distance:以下,6MWD)を測定した.握力はスメドレー式握力計を用い,椅子座位にて上肢を下垂した姿勢で左右1回ずつ測定し,いずれか高い方を採用した.下肢筋力は徒手筋力計(モービィ,酒井医療株式会社)を用い,固定ベルトを使用して大腿四頭筋の等尺性膝伸展筋力を測定した.対象者を椅座位,膝関節90度屈曲位として左右2回ずつ行い,そのうちの最大値を採用し,体重で除した値を膝伸展筋力体重比とした.CS-30は座面の高さが 40 cmの椅子から30秒間での起立回数を測定値とした.測定は1回とした.5 m歩行は 5 m区間の両端に 2 mずつの予備路を加えた計 9 mの直線歩行路を,通常速度と最大速度で歩行させ,その所要時間をそれぞれ1回ずつ測定し,歩行速度に換算した.TUGは,椅子から立ち上がり 3 m先に設置した目標物をターンし椅子に完全に着座するまでに要する時間を計測した.2回測定し最小値を採用した.片脚立位時間は開眼状態で片脚立位をとり保持時間を計測した.左右を2回ずつ測定し,最長時間を採用した.FRTは立位にて歩幅を肩幅に開き,上肢を前方に挙げた開始肢位から,上肢を床面と水平に最大限伸ばした際の移動距離を測定した.3回測定し平均値を採用した.6MWTは 40 mの平坦な周回路を6分間できるだけ速く歩いてもらい,6MWDを測定した.歩行の際は歩行補助具が必要な場合は使用を許可し,測定は1回とした.

身体組成の指標として身長,体重,BMI,下肢総筋量,体内総筋量,体内総筋率を測定した.身体組成成分は筋量計(Phyjion MD,日本シューター製)を用いて生体電気インピーダンス法にて測定した.対象者は背臥位になりリラックスした状態をとり,両手関節,両足関節に貼付した電極を通して各肢節の組成を測定した.体内総筋量の測定値(kg)を身長(m)の2乗で除したSkeletal Muscle Index(以下,SMI)16を算出した.

3. 統計解析

統計解析は統計ソフトウェアSPSS Statistics 22 を使用した.

国立長寿医療研究センターが示すフレイル評価基準6に基づき,対象者を2群に分けた.診断基準5項目のうち,運動能力である握力と通常歩行速度のカットオフ値である握力 18 kg未満,5 m歩行速度 1 m/sec未満の2つに該当する運動機能が低下したフレイル予備群(以下,低下群),1つ該当もしくはどちらも該当しない運動機能維持群(以下,維持群)とした.

各測定値は平均値±標準偏差で表し,分布の正規性を検証したのち,2群の比較には対応のないt検定またはMann-Whitneyの検定を用いた.全対象者および群ごとの6MWDと呼吸機能,運動機能,筋量との関連性を分析するために,従属変数を6MWD,独立変数を等尺性膝伸展筋力,5 m歩行速度,VC,PImax,PEmax,SMIとし,重回帰分析(ステップワイズ法,変数増加法)を用いた.有意水準は5%とした.

4. 倫理的配慮

本研究は国際医療福祉大学研究倫理審査委員会の審査を受け,承認(承認番号:16-Ig-91)を得たのちに実施し,すべての対象者に対して研究内容を十分に説明し書面にて同意を得た.

結果

全対象者のうち,低下群は31名(51%),維持群は29名(49%)であった.全対象者ならびに群ごとの測定結果を表1に示した.低下群と維持群を比較した結果,年齢,身長,体重,BMI,体内総筋量,SMIなどの身体組成に有意差はみられなかった.運動機能では,握力,等尺性膝伸展筋力,膝伸展筋力体重比,歩行速度,片脚立位時間,FR,6MWDは低下群で有意に低値を示した.TUG所要時間は低下群で有意に延長していた.呼吸機能では,VC,FVC,%VC,%FVC,FEV1%に有意差はみられなかった.PEFは低下群で有意に低値を示した.呼吸筋力ではPEmax,%PEmax,PImax,%PImaxは維持群で有意に高値を示した.

表1 全対象者の測定結果と2群間での各測定結果の比較
全体(n=60)維持群(n=29)低下群(n=31)
平均値標準偏差平均値標準偏差平均値標準偏差有意差
年齢85.85.684.46.987.03.8
身長145.16.4146.16.6144.16.1
体重48.19.549.510.546.98.5
BMI22.94.223.14.422.64.0
握力16.03.618.22.913.92.8**
等尺性膝伸展筋力21.28.624.88.917.97.0**
膝伸展筋力体重比0.40.20.50.20.40.2**
歩行速度(m/sec)(通常)0.90.21.00.20.80.1**
歩行速度(m/sec)(速歩)1.20.31.30.41.10.2**
開眼片脚立位(秒)13.018.120.023.96.54.8**
TUG14.24.612.23.916.14.5**
FRT17.87.220.28.015.45.6**
CS-30(回)13.45.514.86.212.04.4
6MWD(m)284.983.3311.387.6260.372.0**
VC1.50.41.60.41.40.4
%VC76.717.578.918.474.716.7
FVC1.40.41.50.41.30.3
%FVC80.717.283.120.178.313.9
FEV11.10.31.20.41.00.3
FEV175.69.176.08.875.19.6
PEF2.51.22.91.32.11.0**
PEmax(cmH2O)34.317.739.415.229.518.7**
%PEmax64.032.670.629.157.734.9**
PImax(cmH2O)17.612.122.113.513.59.0**
%PImax49.227.256.931.141.219.8**
下肢総筋量7.11.47.21.26.91.6
体内総筋量14.52.515.02.514.12.5
SMI(kg/m26.91.27.01.16.81.2
体内総筋率30.44.330.33.730.65.0
維持群vs低下群
*:p<0.05, **:p<0.01

平均値±標準偏差.

TUG: Timed Up and Go, FRT: Functional Reach Test,CS-30: 30 second chair stand test,6MWD:6分間歩行距離,VC:肺活量,%VC:対標準肺活量,FVC:努力性肺活量,%FVC:対標準努力性肺活量,FEV1:1秒量,FEV1%:1秒率,PEF:最大呼気流速,PEmax:最大呼気口腔内圧,%PEmax:最大呼気口腔内圧/予測値,PImax:最大吸気口腔内圧,%PImax:最大吸気口腔内圧/予測値,SMI: Skeletal Muscle Index

また,全対象者および群ごとの6MWDと独立変数との相関係数を表2に示した.全対象者では6MWDと等尺性膝伸展筋力(r=0.29),歩行速度(r=0.60),VC(r=0.26),PEmax(r=0.25),PImax(r=0.26)が有意な正の相関を示した.また等尺性膝伸展筋力と歩行速度(r=0.45),VC(r=0.29),PEmax(r=0.24),PImax(r=0.45),歩行速度とSMI(r=-0.25),VCとPEmax(r=0.29),PImax(r=0.27)は有意な正の相関を示した.低下群では6MWDと等尺性膝伸展筋力(r=0.34),歩行速度(r=0.63),VC(r=0.55)が有意な正の相関を示した.また等尺性膝伸展筋力と歩行速度(r=0.31),歩行速度とVC(r=0.38),VCとPEmax(r=0.34),PImax(r=0.34)は有意な正の相関を示した.維持群では6MWDと歩行速度(r=0.55)が有意な正の相関を示した.また等尺性膝伸展筋力と歩行速度(r=0.40),PImax(r=0.57),PEmaxとPImax(r=0.55)において有意な正の相関を示した.歩行速度とSMI(r=-0.43)は有意な負の相関を示した.

表2 重回帰分析の各因子間の相関
6MWD等尺性膝
伸展筋力
歩行速度VCPEmaxPImax
全対象者等尺性膝伸展筋力0.29*
歩行速度0.60**0.45**
VC0.26*0.28*0.14
PEmax0.25*0.24*0.190.29*
PImax0.26*0.45**0.220.27*0.47**
SMI-0.070.12-0.25*-0.040.030.09
維持群等尺性膝伸展筋力0.08
歩行速度0.55**0.40*
VC-0.070.22-0.09
PEmax0.220.150.150.13
PImax0.090.57**0.080.130.55**
SMI-0.220.13-0.43*0.15-0.150.09
低下群等尺性膝伸展筋力0.34*
歩行速度0.63**0.31*
VC0.55**0.180.4*
PEmax0.140.150.10.34*
PImax0.30-0.010.20.34*0.30
SMI-0.010.02-0.2-0.270.11-0.01

略称は表1と同様.*:p<0.05, **:p<0.01

全対象者の重回帰分析の結果を表3に示した.6MWDに有意に関連する独立変数は歩行速度(β=0.604)のみであった(p<0.01,自由度調整済みR2=0.35).群ごとの重回帰分析の結果,6MWDに有意に関連する独立変数は,低下群では歩行速度(β=0.49)とVC(β=0.36)であった(p<0.05,自由度調整済みR2=0.47).維持群では歩行速度(β=0.547)のみであった(p<0.01,自由度調整済みR2=0.27).

表3 6分間歩行距離を従属変数とした重回帰分析の結果
全対象者維持群低下群
βp値VIFβp値VIFβp値VIF
等尺性膝伸展筋力
歩行速度0.600.001.000.550.001.000.490.001.17
VC0.360.021.17
PEmax
PImax
SMI
自由度調整済み決定係数0.350.270.47

略称は表1と同様.

考察

本研究では,フレイルに陥る過程にあると考えられる地域在住高齢者において,呼吸筋力,呼吸機能をはじめとする身体,運動機能の特徴を検討した.また,フレイルに陥る過程に低下するとされる歩行速度と握力が維持されている群と低下している群の2群に分けて,身体,運動機能の特徴の差異を検討した.さらにフレイルサイクルに影響を及ぼす運動耐容能の関連因子を明らかにし,低下群と維持群における相違について検討した.

1. 対象者の身体機能,運動機能の特徴について

対象者全体の運動機能の結果は,筋力や歩行速度,片脚立位,CS-30において,年代別平均値17,18,19に近似した値を示した.TUGやFRの結果も転倒のカットオフ値を上回った.しかし6MWDの結果は,Enrightらの予測式20から算出される標準値の60%と低い値であり,外出に制限が生じるといわれるカットオフ値である 400 mを大きく下回るものであった.つまり,筋力は比較的保たれ歩行や立ち座りなどの運動機能は維持されているものの,運動耐容能が低下していることが明らかとなった.また,身体組成の結果は年代別平均値21と概ね同等の値を示し,SMIが 6.9 kg/m2という結果もAsia working groupのサルコペニア診断基準22には該当せず,筋量は減少していないレベルといえる.一方で,対象者の呼吸機能の結果では,%VCが拘束性換気障害のカットオフ値である80%を下回る高齢者が33名(55%)存在した.また,FEV1%が閉塞性換気障害のカットオフ値である70%を下回る高齢者は12名(20%)存在した.これは福地らの,有疾患でなくとも疾患レベルの呼吸機能状態が高頻度で存在するという報告9に通じる結果であった.呼吸筋力の結果は,年齢,身長,体重から予測される標準値に対して%PEmaxが64%,%PImaxが49%と呼気筋力,吸気筋力ともに低く,特に吸気筋力の低下が著明であった.この呼吸筋力の低下と胸郭のコンプライアンスの低下により%VCを拘束性換気障害のレベルまで低下させていると考える.

今回の対象者全体をみると,呼吸筋力,呼吸機能は低下していたが,筋力や歩行速度などの運動機能の低下は認めなかった.先行研究でも,呼吸器疾患と診断されていない高齢者のなかで閉塞性,拘束性換気障害に該当するレベルの呼吸機能状態の者でも,身体機能は低下しないとの報告10があり,本研究の結果もそれと矛盾しない.しかし先行研究では6MWDに関しては検討されておらず,本研究において呼吸筋力,呼吸機能の低下した高齢者の運動耐容能が低下している実態が示されたのは新たな知見といえる.

2. 低下群と維持群の身体機能の差異について

低下群のバランス能力,運動耐容能は維持群と比較して有意に低下していた.年代別平均値17,18,19や転倒などのカットオフ値と比較しても低値を示した.先行研究では,握力は下肢筋力や体幹筋力,開眼片脚立位,TUGと相関を示すことや,全身的な筋量,筋力を反映すること1,下肢筋力はCS-30,歩行速度,6分間歩行距離と相関を示すこと4が報告されている.今回,握力と歩行速度が低下した高齢者においてバランス能力や運動耐容能が低下していたことは,先行研究で示されている関連性に一致した結果といえる.つまり,高齢者のバランス能力や運動耐容能などの運動機能の維持には,筋力や歩行速度を維持することが重要であることが改めて確認された.しかし本研究では両群の間で筋量に有意差は認められなかった.維持群においては同等の筋量でも,筋機能や筋代謝機能が維持されていることから運動機能が保たれていたと考える.

呼吸機能では,低下群のVC,FVC,%VC,%FVC,FEV1%は維持群と比較して有意差はみられなかったが,PEF,呼吸筋力は有意に低値を示した.つまり,四肢筋力や歩行速度などの運動機能が落ちていく過程において,呼吸筋力も低下していくことが示唆された.その理由の一つに呼吸補助筋の作用が考えられ,呼吸補助筋である腹筋などの体幹筋が腹圧を高め体幹の支持性を向上させることが,運動パフォーマンスを向上させているものと考える.これが低下することで,呼吸筋力の低下ならびに運動機能の低下をもたらしたと考える.また,呼吸筋は運動時に換気の動力源として効率よく働き続ける必要があり,十分な余力を持つことは呼吸補助筋によるエネルギー消費を抑え持久性を高める.この持久性,つまり疲労が生じない,息切れが認められない,ということは日常的に活動性を維持し,いわゆる廃用による機能低下を起こすことなく他の運動機能を維持させることにつながると考える.

3. フレイルサイクルに陥る一要素とされる運動耐容能の関連因子

対象者の測定結果より,全身筋量や瞬発的な筋機能の発揮が要求される運動機能は保たれていても,呼吸機能,呼吸筋力の低下が運動耐容能に影響を与えると考え,呼吸機能(VC,PImax,PEmax),運動機能(等尺性膝伸展筋力,歩行速度),筋量(SMI)を関連因子に選択し,6MWDとの関連性を全対象者ならびにそれぞれの群内で検討した.重回帰分析の結果,全対象者の6MWD関連因子は歩行速度のみであった.群内の検討において,低下群の6MWD関連因子は歩行速度とVCであったが,維持群では歩行速度のみであった.つまり,運動機能が維持された高齢者においては,呼吸機能は運動耐容能に影響を及ぼさないが,プレフレイルに進行している高齢者においては,運動耐容能を規定する因子として呼吸機能(VC)が挙げられる事が明らかとなった.この関係性は,呼吸器疾患患者や心不全患者において明らかにされている6分間歩行による心機能,呼吸機能と運動耐容能の関連23と一致する結果であった.また,6MWDと歩行速度は,歩行という共通の運動負荷ではあるが,5 mという短距離で瞬発的な力で遂行される歩行から得られる速度であるため,今回のように呼吸機能が低下している高齢者では関連因子にならないと予測したが,結果は関連因子として示された.歩行速度に関連する膝伸展筋力が歩行速度の維持に影響したと考える.

6MWDと呼吸筋力の関連性を予測したが,両群とも6MWDに対する有意な独立変数として選択されなかった.しかし低下群においてはVCと呼吸筋力に有意な相関(r=0.34)が認められていることから,高齢者において吸気筋と呼気筋の双方に十分な筋力を維持することの重要性が示唆された.高齢者の健康増進や介護予防の現場において,高齢者の身体,運動機能の維持向上を目的とする際,筋力や歩行などの運動機能だけではなく,呼吸機能,呼吸筋力に対する視点が必要である事が示唆された.

以上より,今回の対象者全体の身体機能の特徴として,全身筋量が問題となるレベルまで低下しておらず,瞬発的な筋機能の発揮が要求される運動機能は維持されているものの,呼吸機能,呼吸筋力,運動耐容能が低下していることが明らかとなった.さらに,運動機能が低下していく過程においては呼吸筋力も低下を示し,運動耐容能の関連因子として呼吸機能,呼吸筋力も影響することが示唆された.運動耐容能の低下を予防するために呼吸機能,呼吸筋力を維持させる事の重要性が示された.

しかし,本研究にはいくつかの限界がある.まず,フレイルの診断基準の中で握力と歩行速度という運動機能だけに焦点を当てていることである.今回は呼吸筋力,呼吸機能と運動機能の関連を検討することが目的であったため,診断基準のほかの3項目(体重減少,主観的疲労感,日常生活活動量低下)を聴取していないが,フレイルに陥る過程の高齢者の身体機能の把握をするならば,他の要素も取り入れて検討するべきである.また,限られた地域,施設を対象としており,対象者数も十分ではなく,平均年齢が85歳と後期高齢の女性のみに限定された結果である.今後の課題として,地域や年齢を拡大し男性も取り入れて対象者数を増やすとともに,呼吸筋力の水準により運動耐容能やADLに及ぼす影響を明らかにしていく必要があると考える.また,高齢者の活動性を維持し,活動範囲を拡大させていくような持久性を改善させるためにも,呼吸筋・呼吸機能に対する介入方法について検討していく必要がある.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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