2019 Volume 35 Issue 2 Pages 78-83
小児先天性嚢胞性肺疾患に対する完全胸腔鏡下肺葉切除は,狭い胸腔内スペースに加えて,占拠している嚢胞により術野が妨げられるため,術前に画像検査により解剖学的な特徴を把握しておくことが極めて重要である.
本稿では,当科で施行している完全胸腔鏡下肺葉切除における術前の画像評価と,実際に術前の画像評価が有用であった先天性肺気道奇形(CPAM)の1例を動画を用いて紹介する.症例は2歳の男児.胎児診断の左下葉CPAMで,出生後呼吸状態が安定していたため,待機的に手術を施行した.術前造影CT検査で左下葉に限局した最大径35 mmの嚢胞を認め,肺動脈A6が2本確認された.術中は,A6を1本処理した後,肺を前方に圧排して後方から覗き込むようにして肺動脈下幹を剥離し,A6の重複枝を露出した.
完全胸腔鏡下肺葉切除を安全・確実に施行するためには,血管の走行や分葉不全の有無など,術前の画像評価が極めて重要である.
Thoracoscopic pulmonary lobectomy (TPL) is widely used as the treatment of choice for congenital cystic lung diseases, such as congenital pulmonary airway malformation (CPAM) and intralobar pulmonary sequestration (ILPS). However, TPL in children is technically challenging, because the thoracic cavity is small, and cystic lesions may further obstruct the operative field. Thus, thorough understanding of anatomic relations preoperatively is vital for successful outcome.
Here, we introduce our preoperative imaging protocol that uses thin-slice computed tomography (CT) for investigating CPAM/ILPS cases, by introducing a case of prenatally diagnosed left-lower lobe CPAM who was asymptomatic after delivery and had elective TPL when 2 years old. Preoperative CT identified a 35 mm cystic lesion in the left-lower lobe, and a rare anomalous A6 pulmonary artery that divided into two branches. Because of the CT study, the second branch of A6 could be identified safely at surgery. An intraoperative video highlighting the value of our protocol is presented.
Thin-slice contrast CT is mandatory for assessing the anatomic relations of cystic lesions in relation to pulmonary vasculature, the bronchial tree, as well as for confirming the status of fissures between lobes, to ensure TPL is performed safely and effectively.
先天性嚢胞性肺疾患は,「正常の気管支肺胞系に一致しない,気体あるいは液体を内容にもつ嚢胞あるいは嚢胞様構造で,原因の明らかな空洞(結核,寄生虫など)を除く」と定義され,その代表的なものに,先天性肺気道奇形(congenital pulmonary airway malformation: CPAM),肺分画症,気管支閉鎖症,気管支原性嚢胞などがある1).従来,先天性の嚢胞性病変,終末細気管支の腺腫様過形成からなる異常は,先天性嚢胞状腺腫様奇形(congenital cystic adenomatoid malformation: CCAM)としてI~III型に分類されていたが2),Stockerらはこれに2型を加えて計5型に改めて分類し,さらにCPAMと改名した3).CPAMの0型は全肺葉が侵され,心奇形,腎低形成を伴うことが多く,死産あるいは高度のチアノーゼにより出生後まもなく死亡する.I型は最も頻度が高くCPAMのうち60~70%を占める.嚢胞が大きく(2 cm以上),胸部単純X線写真で容易に認識される.病変が大きい場合,縦隔偏位を伴い,呼吸障害を生じることがある.II型では2 cmを超えない小さな嚢胞が多数認められる(Fig. 1).III型は明らかな嚢胞は認められず,1葉全体あるいは全肺に及ぶ粗大な充実性の腫瘤で過膨張を呈することがある.IV型は末梢細葉由来とされ,多くは肺の末梢,胸膜近くに位置する薄い隔壁をもつ大きな嚢胞からなり,画像診断的には,1葉に限局した含気のある巨大な嚢胞と周囲の圧排がみられる.
CPAM II型
約10 mm大の嚢胞性病変が集簇している.
本稿では,CPAMや肺画症に対する完全胸腔鏡下肺葉切除術における,術前画像検査の有用性について解説する.
CPAMでは嚢胞性病変または腫瘤性病変が胸腔内に認められる(Fig. 1).肺分画症は多発嚢胞や腫瘤影を呈することが多い.
2. 胸部CT検査嚢胞の大きさ,局在,性状,嚢胞周囲の肺構造の評価,分葉不全の有無,気管支・血管系の評価に有用である.肺や気管支の評価のみであれば単純CTで十分な情報が得られるが,外科的介入を行う場合,術前に肺動静脈の分岐型や大動脈から分枝する異常血管の有無・走行など,血管系の詳細な情報が必要となるため造影CTが有用である.また,肺分画症の栄養血管は腹部大動脈から分枝することもあるため,撮影範囲は上腹部を含める.
3. 当院におけるCPAM・肺分画症に対する画像検査プロトコル胎児診断症例では,出生後に胸部単純X線写真を撮影する.呼吸状態が安定していれば,出生後約1週間で単純CTを施行し,診断の確定,病変の大きさや局在,周囲の肺・気管支の評価を行う.
呼吸促迫や肺炎などの呼吸器症状を呈さない症例では,胸部単純X線写真による定期的な外来フォローアップを行い,体重増加を待って手術を行う.一方,呼吸器症状を伴う症例や肺炎を繰り返す症例では,早期の手術を考慮する.
術直前に行う胸部造影CTでは,1 mmスライスで撮影することで,病変や血管系の詳細な情報が得られる.Helical scan,Sequential scanを用いることで胸部CTの撮影時間は0.3–0.4秒で施行できるため,鎮静は必ずしも必要ではない.また,基本的にCTは,出生後早期の単純CTと手術直前の造影CTの2回とし,不必要な被ばくとならないよう留意している.
完全胸腔鏡下肺葉切除は,狭い胸腔内スペースに加えて,占拠している嚢胞によりさらに視野が妨げられることがある.そのため,術前に十分な画像検討が必要であり,血管の走行や分葉不全の有無,病変の局在,炎症所見の有無等を確認しておく.また,肺動脈の分岐には様々な型があり,動脈の本数や分岐位置を術前に把握しておくことは極めて重要である.我々の施設では,放射線科医と定期的に合同カンファレンスを行い,術前の画像検査から得られる解剖学的な情報を共有し,手術アプローチを検討している.
当院では小児麻酔科医により,気管支鏡下にFogartyカテーテルを用いて健側気管支のブロックを行い,分離肺換気下に手術を行っている.
2. 手術手技 1) トロッカー挿入肩甲骨から1 cm尾側,後腋窩線上の肋間よりOpticalトロッカーを用いてClosed法にてFirstトロッカーの挿入を行う(後にこのトロッカーは助手用となる).続いて,前腋窩線上第6肋間に5 mmカメラ用トロッカー,前腋窩線上第4肋間と第8肋間に,それぞれ5 mmトロッカー(術者操作用)を留置する.また,後腋窩線上第10肋間にトロッカーを1本追加(第5トロッカー)し,カメラを同トロッカーから挿入することで,後方から肺門部を確認できるため,より安全・確実な手術を行うことができる.
2) 肺動脈・肺静脈の処理フック型電気メス,Kelly鉗子を用いて肺動脈・肺静脈の剥離を行う.いずれの血管も完全にエンサークル可能となるように十分に剥離を行う.縦隔側,末梢側のwindowが確保され,クリップによる切離が可能なことを確認し,中枢側をヘモロックで処理後,LigaSureTMでシーリングを行う.上肺静脈後壁は気管支と接しているため,炎症性癒着がある場合には剥離に注意を要する.
3) 葉間の処理分葉がはっきりした症例では,葉間の血管処理は比較的容易である(Fig. 2).一方,不全分葉や炎症による葉間同士の癒着を認める場合は,葉間内に走行している血管を露出・処理を行い,LigaSureTMやENSEAL®を用いて葉間形成を行う.前方中枢側より後方に向けて肺動脈に沿ってトンネリングし葉間切離を行うが,術中の出血や術後のleakageのリスクが問題となる.これらの合併症を避けるために,葉間形成を肺葉切除の最終段階で行うFissureless lobectomy が有用である4,5)(Fig. 3).すなわち中枢側より肺静脈・気管支を肺動脈より先行して処理し,葉間とともに肺動脈枝を一括処理する.
完全分葉
葉間がはっきりと分かれており,肺動脈を透見できる.
不全分葉
葉間形成がされておらず,肺動脈を透見できない.
肺動脈および肺静脈を処理した後,肺動静脈周囲のリンパ節を含む結合織を十分に剥離すると気管支の茎が露出する.気管支は,第5トロッカーよりStaplerを挿入し,切離する.その際,切離前にStaplerで気管支を把持し,分離肺換気を解除して残存する肺葉が十分に膨らむことを確認した後に,気管支を切離する.切離後,再度air leakの有無を確認する.
5) 切除肺の摘出とドレーン挿入第5トロッカーの創を約2 cm程度に延長し,同部位から切除肺を回収する.術後の胸水ドレナージやInformationとしてドレーンチューブを挿入する.胸水量の増悪がなければドレーンは術翌日,または2日目に抜去する.
術前の画像評価が手術アプローチ決定に有用であった1例を紹介する.
症例は,2歳の男児.胎児診断の左下葉CPAMで,呼吸状態が安定していたために,外来経過観察されていた.体重増加を待ち,手術を施行した.
1. 術前造影CT検査左下葉(S10)に限局した最大径35 mm大の嚢胞を認めた(Fig. 4).また,A6が2本認められた(Fig. 5).A6の分枝型は左では1本のみが約80%,2本が約20%あるとされ,手術時には亜型を念頭に置きA6の剥離を行う6)(Fig. 6).さらには,A6の重複枝は本枝の背尾側より分岐しており,前方からは確認しづらいため注意が必要である.
術前CT
S10に最大35 mm大の嚢胞性病変を認める.
術前造影CT
A6が2本の分岐型である.
①右側臥位,分離肺換気下に,上述の通りカメラポート,鉗子用トロッカーを挿入.
②主要病変部であるS10付近に嚢胞と胸膜の炎症性癒着あり,フック型電気メスで切離.
③肺靭帯を横隔膜より切離した後,上下葉間の不全分葉を剥離し,肺動脈下幹を露出.
④A6の1本を5 mmクリップでclippingした後LigaSureTMにて切離.その後肺を前方に圧排し,後方から覗き込むようにして肺動脈下幹を剥離していくとA6の重複枝が露出し,LigaSureTMを用いて切離.
⑤A8,A9 + 10も同様に切離.
⑥下肺静脈・気管支を露出させ,Staplerを用いて切離.
⑦上葉からの出血・エアリークがないことを確認し,14Fr胸腔ドレーンを肺尖部に留置.
CPAMの胎児診断例では縮小傾向を示す症例があること,3歳までは肺の発育が継続するため肺切除後の代償が期待できること,肺炎を起こすと嚢胞周囲の癒着により手術リスクが高まること,さらには悪性腫瘍の発生母地となりうることを考慮し手術時期を決定している7,8).広部ら9)は,1歳までに肺切除が施行された症例では術後の肺機能に問題はなかったが,それ以降の手術例ではシンチグラムを用いた肺機能検査で差異が認められたと報告している.
出生後早期に呼吸器症状(陥没呼吸・多呼吸)・縦隔偏位・気胸などの症状を呈した症例に対しては速やかに手術が施行される.一方で,無症状の症例に対する手術の至適時期を検討した prospective studyは少なく,各施設の方針によることが多い.当科では,無症状経過観察症例に対しては,患者家族に十分なインフォームド・コンセントをした上で,幼児期までに手術を行っている.
胸腔鏡下肺葉切除術は従来の開胸手術に比べ,低侵襲であり,術後の回復も早い.また,整容面や成長に伴う骨格変形防止の点からもメリットが大きい.胸腔鏡下肺葉切除を安全・確実に施行するためには,術前の画像評価が極めて重要である.