抄録
われわれの施設では,1990年から2008年にかけて頬粘膜扁平上皮癌の外側咽頭後リンパ節(LRPN)転移が2例みられた。原発腫瘍は頬粘膜後部から生じていた。断層画像では,患側の後咽頭間隙内に各々,17×12mm,15×12mmの大きさの転移性リンパ節が認められた。これら2症例と本邦における論文または予稿集で報告されている,LRPN転移を生じた他の頬粘膜癌4例を,原因となったリンパ路と臨床的特徴に重点を置いて分析した。
頬粘膜後部や臼後三角の癌は容易に頬筋および翼突下顎縫線に浸潤する。翼突下顎縫線には頬筋と上咽頭収縮筋が付着する。さらに,翼突下顎縫線は口蓋帆張筋が関係する翼突鈎に付着する。口蓋帆張筋と口蓋帆挙筋部にはLRPNのリンパ輸入管が走行することを既報告にて示した。これらの解剖学的関係からの推察では,翼突下顎縫線の領域から上咽頭収縮筋を通るか口蓋帆張筋の近傍を通るリンパ輸入管を介してLRPN転移は起こりえる。自験例と2例のT4症例では,臼後三角や翼突下顎縫線への浸潤が画像でみられるか臨床的に疑われた。T4の2例では,初回の画像検査でLRPN転移がみられた。一方,T2の自験例とT4の他の1例は術後5か月から8か月にLRPN転移がみられた。
よって,頬粘膜癌が臼後三角や翼突下顎縫線に浸潤した場合では常に,断層画像において外側咽頭後リンパ節に関心を寄せるべきである。