Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
[title in Japanese]
[in Japanese][in Japanese][in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 31 Issue 10 Pages 227-228

Details

I はじめに

両側胸部傍脊椎ブロック持続カテーテル法(以下,両側傍脊椎ブロック)は硬膜外持続カテーテル法(以下,硬膜外麻酔)と同等の鎮痛効果を持っているとの報告がある1).また,両側傍脊椎ブロックの利点は超音波ガイド下での実施が普及しており全身麻酔下でも安全に行いやすい点であるが,婦人科手術における下腹部正中切開手術への実施の報告は少ないため報告する2)

学術発表について本稿作成にあたっては本人に口頭で説明し,文書にて同意を得た.

II 症例

1. 現病歴

40歳,女性.169 cm,59 kg.

既往歴:特記すべきことなし,内服歴:特記すべきことなし.

喫煙歴:なし.

20XX年10月,月経異常を主訴に近医より当院の産婦人科に紹介され多発子宮筋腫によるものと診断された.挙児希望もあり手術方針となった.

2. 経過

子宮筋腫の数と大きさから下腹部正中切開(臍下2横指~恥骨結合上2横指)にて手術が予定された.患者は硬膜外麻酔の処置への痛みに対する不安が非常に強く全身麻酔導入後に超音波ガイドにて両側傍脊椎ブロックを実施する方針となった.

手術は全身麻酔および両側傍脊椎ブロックで実施された.麻酔導入はプロポフォール[target-controlled infusion(TCI):4.0 µg/ml],フェンタニル(50 µg),ロクロニウム(50 mg)を投与し,気管挿管時には4%リドカイン液を気管内に噴霧した上で気管チューブを留置した.その後,左側臥位にて超音波ガイド下(SonoSite SII,リニアプローベ)で左右Th10より両側傍脊椎ブロック(肋間アプローチ,平行法)を実施し持続カテーテル(NRFit® ぺリフィックスカテーテルセット)を留置した(図1).カテーテル位置はベーベルを頭側に向け針先端より2 cm先とし右側10 cm,左側8 cmで留置した.その後,手術が開始された.

図1

両側傍脊椎ブロックを実際に留置した様子

赤丸:左右のカテーテル刺入部.

執刀直前に0.375%ロピバカインを左右10 mlずつボーラス投与し,その60分後に0.2%ロピバカインを左右5 ml/hで持続注入した.維持麻酔薬はプロポフォール(TCI:2.8~3.7 µg/ml),ロクロニウム[train of four(TOF):1未満],レミフェンタニル(0.05~0.1 µg/kg/min)であった.術中の脈拍・血圧は手術開始時(脈拍70 bpm,血圧110/50 mmHg)の±20(bpm,mmHg)で終始安定し,手術終了後は麻酔薬中止から10分程度で覚醒し抜管された.覚醒時のnumerical rating scale(NRS)は0であった(手術時間は約180分).

病棟への帰室後はカテーテル抜去までの約48時間で,術後15時間後の離床開始の時点のみでNRS 3に対して患者希望で追加の鎮痛薬(静注用アセトアミノフェン1,000 mg)を投与したが,その他の診察時NRSはすべて0~1(術後1,3,7,11,19,23,30,35,40,48時間後)で推移した.

麻酔覚醒直後から退院まで明らかな神経障害,下肢筋力低下,尿閉,発熱といった合併症も舌や口のしびれ感,耳鳴り,めまい,ふらつき,興奮,多弁など局所麻酔中毒を疑う所見もなく,血圧・脈拍(80~100 mmHg,70~80 bpm)も落ち着いていた.

抜去後はアセトアミノフェン錠400 mg/回を術後3日目に2回,4日目に1回内服したのみで,術後9日目に退院となった.

III 考察

下腹部手術で硬膜外麻酔は適応となるが現状では覚醒下での穿刺が一般的であり,今回のように全身麻酔下では第一選択肢となりづらい.一方で両側傍脊椎ブロックは血管外科手術では実際に人工血管置換術などの下腹部切開創を含む術式の鎮痛も十分に行った報告がある3).本症例のように下腹部正中切開手術で硬膜外麻酔が実施できない場合の持続鎮痛法として有用と考えられる.

傍脊椎ブロックにおける局所麻酔薬については,ロピバカインを20 mlボーラス投与すると中央値で6分節,0.2~0.5%ロピバカインを6 ml/hで持続投与すると中央値で4分節の鎮痛領域が得られるとされており,本症例では下腹部(Th10~12)の3分節をターゲットにしており両側へのボーラス投与が必要であるため各々10 mlずつとし,局所麻酔薬の上限量を目安に濃度は0.375%とした1).持続投与については当院のインフューザーポンプの規格上限である5 ml/hとし,濃度は局所麻酔中毒や血圧低下を考慮し0.2%とした.また,刺入点より尾側に拡がりやすく両側Th10で穿刺した4)

局所麻酔薬中毒対策として,常にlipid rescueの準備は必要である.またロピバカイン血中濃度はボーラス投与から20~60分程度でピークアウトするとされ,ボーラス投与から持続投与開始まで60分の間隔を設けた5).特に,肝・腎機能障害のある症例,長時間手術,大量出血症例ではリスクが高くpostanesthesia care unit(PACU)などを経由した上で一般病棟に退室したほうが安全と考える.

本症例では,当該ブロック以外の鎮痛手段はレミフェンタニル0.05~0.1 µg/kg/min(フェンタニルは挿管時に50 µg静注)と静注用アセトアミノフェン1,000 mgのみで執刀時から手術終了まで前述のとおり血圧・脈拍の変動は少なく,両側傍脊椎ブロックの術中の鎮痛効果は比較的良好であったと考える.術後についてもカテーテル留置中は離床時以外NRS 0も含めてすべてNRS<2で経過していた.回診時の表情は穏やかで手術翌日から離床できたことからも,本ブロックは術後鎮痛に一定の効果を発揮していたと考えられる.

両側傍脊椎ブロックは下腹部正中切開手術の周術期疼痛管理に有効である可能性がある.

文献
 
© 2024 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top