2019 Volume 26 Issue 2 Pages 154-156
日 時:2019年3月10日(日)
会 場:福井大学医学部附属病院臨床教育研修セター2階白翁会ホール
会 長:重見研司(福井大学医学部麻酔科蘇生科)
上野博司
京都府立医科大学附属病院疼痛緩和医療部
慢性疼痛は,治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛みであり,概ね3カ月以上痛みが続く状態を指す.わが国の慢性疼痛の患者数は2,700万人,慢性疼痛による経済損失は年間2兆円に及ぶとされ,慢性疼痛治療の標準的指針を示すことは喫緊の課題であった.2018年4月に慢性疼痛に関わる7学会が合同で日本発の慢性疼痛治療ガイドラインを発表した.そのなかで,慢性疼痛治療は,痛みを取り除くことではなく,患者のQOLを改善することを目標とし,診療科・職種横断的に集学的治療を展開することの重要性が強調されている.慢性疼痛の診療に当たっては,まず詳細な問診と検査によって痛みの原因を診断し,その要因を侵害受容性,神経障害性,心理社会的の3つの側面からとらえ,それに応じて治療を行う必要がある.治療には,薬物療法,神経ブロックや外科的手法を用いるインターベンショナル治療,認知行動療法を中心とした心理的アプローチ,運動療法や作業療法などのリハビリテーションの4つのカテゴリーがあり,個々の患者に応じて必要な治療を組み合わせたテーラーメイド治療を行うことが理想である.このカテゴリーのなかで,薬物療法は大きな柱であり,病態に応じてさまざまな鎮痛薬,鎮痛補助薬を適切に処方することが求められる.神経障害性疼痛に対しては,鎮痛補助薬の役割が大きく,最近では下行性疼痛抑制系を賦活する薬剤であるデュロキセチンやガバペンチノイドの有効性に対するエビデンスが蓄積され,推奨度が高まっている.また,非がん性慢性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬の使用が有効な場合があるが,その際にはオピオイド鎮痛薬の依存・乱用といった不適切使用の防止に十分に配慮し,適切な患者選択と処方時の薬物適正使用モニタリングが必須となる.非がん性慢性疼痛に対して,オピオイド鎮痛薬を使用する場合は,疼痛治療の専門家の関与のもとに行うべきである.
岩本貴志
医療法人岩本整形外科
いつの世も時代ごとに国民病と呼ばれるものが存在していた.過去には結核がそうであった.当時,どの診療科でもその時代には結核への対応が求められていた.肺結核を始めカリエス,腎結核など全ての診療科が関わってきたのである.
最近は悪性腫瘍がこれにあたる.各臓器の悪性腫瘍だけではなく,がんリハビリ,がんロコモ,がん性疼痛と多岐に仕事は存在している.特にがん対策基本法が制定されて以降,緩和医療は医療者の心構えの様な当たり前の様なものになってきている.したがってペインクリニック領域でも各種オピオイドや多彩な鎮痛薬や補助薬に加えて神経ブロックなどのインターベンショナルな手技も必要になってきている.
そこで今回は神経ブロックを中心に緩和医療領域の疼痛コントロールに関してがん性疼痛とのペインクリニック的な関わりを代表的な手技を中心に考察していきたいと思う.
緩和医療の領域での代表的な手技をマスターして他科との連携を深めて多くの患者の期待に応えて行きたいものである.
本間恵子 小川真生 土田英昭
金沢医科大学麻酔学講座
【症例】71歳,男性,肺がん治療中.左半身の原因不明のしびれ痛み感覚に対し,フェンタニル貼付薬3 mg,オキシコドン速放性製剤5 mg/回が前医(循環器科)から処方されていた.転居に伴い当院呼吸器内科受診していたが,夜間のレスキュー使用が多く,意識障害を生じたため緊急入院した.肺がんの治療効果は良好であり,PET-CTでは異常集積を認めず,がん性疼痛は考えにくい状況であった.問診により,「痛みで眠れない」ためオキシコドン速放性製剤の処方が開始され,「眠れること」を求めてエチゾラムを併用していたことが分かった.ケミカルコーピングと考え,まず,夜間のレスキューを少量のオキシコドン徐放剤へ変更した.痛みの増強がなく,睡眠に対しても満足感があったため,フェンタニル貼付薬3 mgからオキシコドン徐放剤30 mg/日へのスイッチを行った.さらにトラマドール徐放錠200 mgに変更したが,痛みの変動なく過ごすことができた.
【考察】緩和ケアの知識の普及に伴い専門家以外がオピオイドを処方する機会が増えており,適応を十分検討せず安易に処方,増量されている症例が散見される.今後はオピオイドが持つ負の側面も併せて教育していくことが必要である.
ストロンチウム治療により除痛が得られた十二指腸乳頭部がん多発骨転移の1症例石塚啓祐 山田圭輔 谷口 巧
金沢大学附属病院麻酔科蘇生科
76歳の女性.X−5年,十二指腸乳頭部がんと診断され,膵頭十二指腸切除術が施行された.X年,第2,3腰椎転移による腰下肢痛を生じ,後方除圧固定術と放射線治療が行われた.一時的に疼痛は軽減したが,3カ月程度で痛みが再増悪し,疼痛管理目的に当科に紹介された.非オピオイド鎮痛薬に加え,オキシコドン徐放薬10 mg/日,速放薬2.5 mg/回を開始し,経過中にフェンタニル貼付薬3 mg/日と舌下錠100 µg/回に変更したが,体動時痛の軽減は困難であり,便秘や悪心も生じコントロールに難渋した.頻回に速放薬を使用することにより傾眠傾向となり,活動性がきわめて低い状態が続いた.外科手術,放射線治療の再試行は困難と考えられた.ストロンチウム治療を行い,治療後2週間頃より疼痛軽減と活動性の著明な改善が認められた.骨髄抑制や一時的疼痛増強といった副作用は認めなかった.リハビリテーションにも積極的に取り組めるようになり,本人・家族の希望に沿って退院し自宅療養へと移行できた.退院後は死亡に至るまでの約2カ月間を,疼痛が増悪することなく自宅で過ごすことができた.
【考察】本例は,腰椎転移による体動時痛に対し,外科および放射線治療,薬物療法ではコントロールが困難であった.ストロンチウム治療は,本例のように一般的な骨転移に対する疼痛治療では疼痛コントロールが困難である場合に考慮される.過去の報告では,ストロンチウム治療は特に乳がんおよび前立腺がんからの骨転移による疼痛に対し有効性が示されているが,十二指腸乳頭部がんからの骨転移にも有効で,数カ月効果を維持できた.
硬膜外カテーテルの留置で一過性の膀胱直腸障害が出た1例小原洋昭*1 松田修子*2 松木悠佳*2 竹内健二*2 藤林哲男*2 重見研司*2
*1福井勝山総合病院麻酔科,*2福井大学医学部麻酔科蘇生科
78歳男性.以前から頸部脊柱管狭窄症を指摘されており,4年前に転倒した際にはC3/4を中心に頸髄を不全損傷した.両上肢のしびれ,深部感覚障害に伴う歩行障害が出現したが,椎弓切除で除圧した後は症状の進行はなかった.しかし2年前からは腰部脊柱管狭窄症の症状が強まり,次第に両膝以下のしびれと痛みが強くなってきて,内服薬ではあまり改善しないとのことで来院した.画像ではL2/3~4/5にかけての脊柱管狭窄所見があった.L1/2からの硬膜外ブロックで2日ほど症状は改善したが,効果は一時的だった.手術療法の適応と判断したが,保存療法を希望したため入院して持続硬膜外ブロックを行うことにした.透視下にL1/2から19 Gカテーテルを頭側に向け4 cm刺入した.神経症状の増悪がないことを確認したのちに,0.2%ロピバカイン4 mlをボーラス投与し,2 ml/hrで持続投与を開始した.その後入眠時まではしびれも痛みも普段の3割程度まで改善していたが,翌朝6時の起床時に尿失禁と,両側のL5/S1領域にピリピリした痛みを伴う感覚異常がみられた.馬尾が圧迫されたことによる膀胱直腸障害と判断して直ちにカテーテルを抜去した.その後は2日ほどかけて徐々に障害は消失した.MRIでも著変はみられなかった.翌々日からは単回の硬膜外投与として,5日間の入院ののちに退院した.退院後は2割程度の症状の改善がみられたが,症状の進行を防ぐ目的もあり,4カ月後に腰椎開窓術を施行した.
今回の原因はカテーテルと薬液による圧迫が考えられる.抜去後は徐々に障害が消失したこと,またMRIで著変がみられなかったことから緊急での手術は必要なしと判断したが,膀胱直腸障害が出た場合は速やかに手術が必要となる場合もあるため注意を要する.
フェンタニル貼付剤0.5 mgを用いて脱したオピオイド離脱症候群の1例竹村佳記 服部瑞樹 堀川英世 山崎光章
富山大学大学院医学薬学研究部麻酔科学講座
【症例】50代女性.発症後約2週間経過した帯状疱疹の痛みコントロール目的にて当科紹介受診となった.トラマドール25 mg×4回/日を内服していたが,内服4時間後の効果の切れ目に非常に強い痛みが生じていたため,短期間限定でフェンタニル貼付剤1 mgを導入した.その後,痛みはコントロールできたので,導入3週間後にフェンタニルからの離脱を開始した.その晩の入浴前にフェンタニル貼付剤を剥ぎ,12時間後の翌朝からトラマドール25 mg×4回/日定期内服(フェンタニル貼付剤0.7 mg相当)を開始する予定であったが,トラマドール内服2時間前より発汗,嘔気,瞳孔散大などの症状がみられ,トラマドールの頓服により消失したため,オピオイド離脱症候群と診断した.速やかにフェンタニル貼付剤1 mgに戻したところ,それ以降上記症状は消失した.その後に発売されたフェンタニル貼付剤0.5 mgをトラマドール25 mgと併用し,各々の薬物動態を考慮して症状を見ながら徐々に減量することで,フェンタニルから離脱することができた.
【考察】今回,フェンタニル貼付剤からの離脱中にオピオイド離脱症状が生じたため,オピオイドの血中濃度を急激に低下させないことが大切であると考えた.そこで,オピオイドの減量の際に,血中濃度が安定しやすいフェンタニル貼付剤0.5 mgをトラマドール錠と併用し,オピオイドの血中濃度を段階的に低下させることで,オピオイド製剤を減量および終了することができたと考える.
【結語】オピオイドから離脱する際,用量の異なるフェンタニル貼付剤を段階的に使用し,オピオイドの血中濃度を緩徐に低下させることで,オピオイド離脱症状を回避することができた.