2019 Volume 26 Issue 1 Pages 58-61
頸原性頭痛に対し高周波熱凝固法を用いたC2神経根ブロックが有効であった症例を報告する.症例は29歳の女性.X−8年,ベッドからの転落を契機に左後頭部痛が出現,薬物療法で軽快したが,X−4年左後頭部痛が再発し,画像上C2左側外側塊骨折後の変形治癒と思われるC1/2左側椎間孔の狭窄を認めた.C2神経根除圧術を施行し疼痛は消失したが,X−1年11月より左後頭部痛が再々発し,画像上C1/2左側椎間孔の再狭窄を認めた.薬物,理学療法を行ったが効果不良で,X年2月にペインクリニック科に紹介初診となった.初診時左後頭部に数値評価スケール(NRS)7の持続的な痛みがあり,頸部運動でNRS 10となり数分間の持続を認め,夜間不眠,就業不能の状態であった.局所麻酔を用いたC2傍脊椎ブロックで効果を認めたため,後日透視下に70℃・90秒の高周波熱凝固法を施行したところ,NRS 3となり就業可能となった.初回熱凝固施行約1カ月後に左後頭部痛の増悪を認め,2回目の高周波熱凝固法を行い,以降は内服治療を行いながらNRS 3で経過した.診断的ブロックで効果を認めた頸原性頭痛に対し,高周波熱凝固法は手術療法までの患者のQOLを長期間改善し有用であった.
頸原性頭痛はその複雑な疾患特性のため,個々の病態に応じ薬物療法,理学療法,神経ブロック療法,外科療法など多面的なアプローチを要することがある.今回C2神経根に対する高周波熱凝固法により,良好な鎮痛を得られた頸原性頭痛の症例を報告する.
本報告は患者からの承諾を得ており,報告すべき利益相反はない.
患者は29歳,女性.身長160 cm,体重44 kg.X−8年に自宅でベッドから転落したことを契機に左後頭部痛を自覚したが,画像所見に乏しく,対症療法で経過観察となり徐々に疼痛は軽減した.しかしX−4年に左後頭部痛が増強し,再度画像評価を行ったところC2左側外側塊骨折後の変形治癒と思われる骨棘による,C1/2左椎間孔の狭窄を認めた.これが左後頭部痛の責任病変とされ,C2神経根の除圧術が施行された.術後,後頭部痛は消失したもののX−1年11月に左後頭部痛が再び出現したため,再度画像評価を行ったところ,骨棘の再発と骨棘によるC1/2左椎間孔の著明な再狭窄を認めた(図1).再手術が検討されたが,侵襲が大きくなることに加え本人の希望もあり,まずは薬物療法と理学療法を行うこととなった.トラマドール100 mg/日とプレガバリン50 mg/日の内服治療を開始したが3カ月経過したあとも疼痛は軽減しなかった.疼痛は増強し,睡眠や仕事に支障をきたすようになったため,診断的ブロックと今後の治療方針についてペインクリニック科に紹介初診となった.
初診時の3D-CT
C2左側外側塊変形治癒によりC1/2左椎間孔が閉塞している.
当科初診時,左後頭部に持続痛な鈍痛を認め,夜間不眠で,就労不能の状態であった.疼痛の程度は数値評価スケール[numerical rating scale(NRS),0:痛みなし,10:想像しうる最大の痛み]で7/10であった.疼痛は頸部左側回旋でNRS 10/10となり数分間持続し,頸部左側回旋の制限を認めた.0.25%レボブピバカイン10 mlとデキサメタゾン3.3 mgを用いたC2の左側傍脊椎ブロックを行ったところ効果を認め,画像所見とあわせてC2神経根由来の頸原性頭痛と診断し,高周波熱凝固法を用いたC2の神経根ブロックを行うこととした.
熱凝固はニューロサーモNT500を使用し,腹臥位で透視下に行った.画像所見で認めたC1/2の骨棘をメルクマールとし,透視下に電極針を骨棘に進めたところ,元来の左後頭部痛が誘発された(図2).同部位に0.5%リドカイン1.5 mlを注入したのちに80℃で高周波熱凝固法を開始したところ疼痛が強く,温度を下げ70℃で90秒高周波熱凝固を施行した.施行直後より疼痛はNRS 0/10となり,翌日退院となった.その後NRS 3/10と自制内で経過し,職場復帰も可能となった.退院1カ月後に突然NRS 10/10の左後頭部痛を自覚したため,1回目同様に2回目の高周波熱凝固を施行した.2回の高周波熱凝固法施行後はNRS 3/10程度の安静時痛は残るものの,頸部運動による疼痛の増強が起こることはなくなり,就労可能な状態であった.しかし疼痛が残存するため待機的に整形外科で再手術を検討し,2回目の熱凝固療法施行から4カ月経過後に,椎弓部分切除術が施行された.再手術施行後左後頭部痛は消失し,術後7カ月経過した現在,しびれに対しプレガバリン50 mg/日を内服している.
高周波熱凝固法施行時の透視画像
頸原性頭痛とは,1983年にSjaastadらにより提唱された概念である1).現在の国際頭痛分類第3版によると,頸椎とそれを構成する骨質,椎間板および軟部組織の疾患による通常の,しかし常にではない頸部痛を伴う頭痛と解説されている2).
頸原性頭痛の原因としては,第2/3頸椎の椎間関節を原因とした第3後頭神経由来が最も多く頸原性頭痛の70%を占め,次に環軸関節を原因とした第2頸神経由来が次ぐ.他にも環椎後頭関節,第2/3頸椎椎間板,第3/4頸椎の椎間関節などが原因となりうる3).第2頸神経由来の大後頭神経は,後頭部~側頭部までの支配領域をもち,第1頸椎と第2頸椎の間の椎間孔から出てくる第2頸神経が圧迫されることで,本症例のように同部位の頭痛が生じうると考えられる.後頭部を中心とした頭痛患者では頸椎の変形が頭痛の原因になっている可能性があり,頸部X線撮影などの画像診断が診断の一助になる可能性があることを念頭におく必要があるが,画像所見に乏しい症例も多い.片側性の,頸部の運動や一定時間の姿勢,あるいは上位頸椎や後頭部の圧迫により誘発される後頭部痛で,責任部位と思われる部位への局所麻酔薬投与で消失する頭痛は頸原性頭痛を念頭におく必要がある4).
頸原性頭痛の治療には,多面的アプローチを要することが多い.薬物療法,理学療法などの保存的治療で効果が得られない症例では,神経根ブロック,大後頭神経ブロックなどの神経ブロック療法,さらには神経切除,神経除圧術などの手術療法が考慮される5).
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン6)をもとに本症例に対する薬物療法を検討したところ,第一選択薬に,アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬があったが,タイトレーションを要するため緊急性の高い本症例では適さなかった.第二選択薬にワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液があげられるが,これも鎮痛効果発現まで一定期間を要するため本症例では使用しなかった.
当院初診時に,すでに整形外科医より処方されていたトラマドールとプレガバリンについては,増量の余地はあった.しかし当科初診時には,強い疼痛で日常生活を送ることができない緊急性の高い状態であったため,薬物療法の調整を行わずに,速やかな効果が期待できる局所麻酔薬を用いた神経ブロックを行うこととし,良好な効果が得られたため高周波熱凝固療法を行うことにした.
頸原性頭痛はその複雑な疾患特性により,高周波熱凝固療法の有用性のエビデンスは非常に限られており,推奨される治療法の確立には至っておらず7),現時点では個々の症例に応じた治療法が必要となる.本症例では画像診断,診断的ブロックによりC2左側外側塊骨折後の骨棘による椎間孔狭窄が明らかな責任病変と推察できたことから,同部位への高周波熱凝固療法の効果が期待できた.
Sjaastadが頸原性頭痛に対する高周波熱凝固療法を施行し,長期的効果があることを報告8)して以来,ペインクリニック領域で多く施行され,効果の検討がなされてきた.Lordらは頸椎椎間関節への診断的ブロックで効果が得られた症例に対し熱凝固療法を行い,約9カ月間痛みが軽減したと報告している9).Govindらは,第3後頭神経への診断的ブロックで効果が得られた症例に熱凝固療法を行ったところ約9割で効果があったが,そのうち約3割の症例で再度熱凝固療法を要したと報告しており10),初回熱凝固療法後,疼痛が再発,残存した症例では,再び熱凝固療法を検討する必要がある.本症例のような環軸関節外側,第2頸椎神経根由来の頸原性頭痛に対する高周波熱凝固療法は,手技が困難であるという理由から複数の研究において除外されている.しかしHalimらは,環軸関節外側への高周波熱凝固療法について,86名の患者で,施行後数時間後頭部痛が悪化した1例を除いて,安全に施行できたとしており11),試みる価値があると考えられる.
HamerらはC2後根神経節と第3後頭神経に80℃・90秒間の高周波熱凝固療法を施行した頸原性頭痛患者40例を後ろ向きに検討し,7割の患者で80%以上疼痛が軽減したと報告している12).また,Parkらは下位頸椎(C4~7)の内側枝に90℃・60秒間の高周波熱凝固療法を施行した頸原性頭痛患者11例を後ろ向きに検討し,6カ月後の視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)値が60%低下したとしている13).これらの報告をもとに,目標温度を80℃とし高周波熱凝固法を開始したが本症例においては疼痛が強く,温度を下げながら施行し,最終的には70℃・90秒間で施行した.
高周波熱凝固法による疼痛の完全消失は得られず,最終的に外科的治療を必要としたが,急性期の疼痛をコントロールし,待機的な外科的治療までの橋渡しができたと考えられる.
頸椎神経根由来の大後頭神経痛に対し,高周波熱凝固法を用いたC2神経根ブロックが有効であった症例を経験した.診断的ブロックで効果を認めた頸原性頭痛に対し,高周波熱凝固法は手術療法までの患者のQOLを長期間改善し有用であった.
この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第51回大会(2017年7月,岐阜)において発表した.