2018 Volume 25 Issue 4 Pages 287-289
四肢切断後の幻肢痛の発生率は85%1)と高率であり,切断後6カ月以内に発症し何年間も続く1).幻肢痛には末梢,脊髄,および上位脳のメカニズムが関与し1,2),それらに応じた薬物療法,神経ブロック,脊髄刺激,ミラー療法,パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)など1,2)が行われるが,治療効果は一定でなく難治性である.PRFは高周波を間欠的に通電し42℃以下で電場を発生させ,ニューロモデュレーションにより鎮痛を得る治療法で,神経組織変性を起こしにくく安全性が高い2).坐骨神経PRFが,術後1カ月~6年経過した幻肢痛に対し4~7カ月間有効との報告がある3–6).大腿切断後の急性期幻肢痛に対しmultimodal analgesia(多様式鎮痛法)として臀下部坐骨神経PRFを行い,長期間の鎮痛効果を得た.
なお,本報告については患者から書面で承認を得ている.
患者は40歳代の外国人男性.熱傷後に左下腿腓腹部の難治性蜂窩織炎・疼痛を10年間繰り返し,膝上で大腿を切断された.術中は坐骨神経,大腿神経,外側大腿皮神経,閉鎖神経の末梢神経ブロックに全身麻酔を併用し,手術終了時より翌朝までデクスメデトミジンとフェンタニルを持続静脈内投与した.術後1日目よりトラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠の定時内服と頓用の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を開始し,断端痛は十分にコントロールされた.しかし,術後3日目から幻肢痛が出現し,術後12日目頃には数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)6/10に増強・頻発し,頻回のNSAIDs使用でも疼痛管理困難となった.術後17日目には,幻肢の下腿後面から左足底部・趾までチクチク刺すような,不快で強い(NRS 6/10)幻肢痛発作が一日中起こり,睡眠不良・食欲低下を伴った.同日,超音波ガイド下に0.75%ロピバカイン20 mlで臀下部坐骨神経ブロックを試み,幻肢痛は一時的に完全に消失した.さらに,トラマドール300 mg,プレガバリン150 mg,トリプタノール10 mgに増量したが,翌朝からNRS 2~4/10の趾先のチリチリする幻肢痛が再発した.そのため,術後22日目に超音波ガイド下に臀下部で坐骨神経を同定,局所麻酔後にスライター針を穿刺し,下腿後面から踵・趾先への放散痛を確認し,高周波熱凝固装置(NeuroThermTM NT500,アボットメディカルジャパン)を用いて42℃,360秒のPRFを行った.その後,0.75%ロピバカイン20 ml,デキサメタゾン1.65 mgを投与した.PRF直後にNRS 0/10と幻肢痛は消失したが,翌朝にNRS 3/10の幻肢痛が再発した.PRF施行1週間後(術後29日目)より,NRS 2/10と減弱し始め,PRF施行2週間後(術後36日目)にはNRS 1/10に軽減,以後NSAIDsの使用も減少し良好な鎮痛が得られた.術後56日目にリハビリテーション目的で転院した(図1).PRF施行5カ月後にはプレガバリン75 mg,トリプタノール10 mgに減量しNRS 1/10と良好な鎮痛効果が持続し義足歩行可能となっている.
治療経過
PRF施行後よりNSAIDsの頓用回数は減少,NRSは徐々に低下した.NB:坐骨神経ブロック,PRF:パルス高周波法,ENT:退院
本症例では,膝上大腿切断による急性期幻肢痛のmultimodal analgesia(多様式鎮痛法)の一つとして,臀下部坐骨神経PRFを急性期(切断後22日目)に行い,5カ月間の鎮痛効果を確認した.本症例で幻肢痛がPRF施行直後に消失し翌日に再発したのは,局所麻酔薬の一時的な効果による.その後,幻肢痛はPRF施行1週間後からNRS 2/10,同2週間後にNRS 1/10と緩徐に軽減し,NSAIDs使用量も減少した.PRF施行の前後にトラマドールを増量,アミトリプチリンも開始しているため,薬剤の効果や自然経過による治癒過程の可能性も否定できない.切断術の際に坐骨神経,大腿神経,外側大腿皮神経,閉鎖神経の末梢神経ブロックを行ったが,幻肢痛は下腿後面の坐骨神経支配領域のみに出現した.これは,同部位の長期間の強い炎症・疼痛持続により,術前から坐骨神経領域の神経障害・脊髄レベルで中枢性感作が起こっていた可能性を示す.
伊藤らは,膝下で下腿切断した70歳代女性の幻肢痛に対し,2週間の持続硬膜外ブロックの後,切断後32日目に膝下部で坐骨神経PRF(42℃,180秒間)を行い,2日後から6カ月間の除痛効果を報告している6).伊藤らと比し本症例で即時的効果がなかった理由として,硬膜外ブロックによる先行鎮痛の有無,坐骨神経PRFのアプローチの違いが考えられる.
いずれにせよ,四肢切断となる患者では糖尿病・虚血性心疾患・慢性腎不全の合併,透析や抗凝固療法のため,硬膜外ブロックが禁忌の場合も多い.また,硬膜外ブロックの効果が不十分なこともありえる.これらの場合に,硬膜外ブロックや脊髄刺激療法と比較して安全かつ簡便な手技である末梢神経PRFを,急性期幻肢痛に対するmultimodal analgesia(多様式鎮痛法)の選択肢の一つとして,早期に考慮するのもよい.