Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Retrospective study of malignant disease diagnosis at a pain clinic
Saori KIMURAMitsuko MIMURANahoko MIYAMOTO
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2018 Volume 25 Issue 4 Pages 263-267

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Abstract

ペインクリニックにおける診断の際には,常に悪性疾患を念頭に置く必要がある.当科受診により悪性疾患が判明した13症例について,主訴,判明した悪性疾患,症状の発現機序,他科からの紹介の有無,診断に至る経過について後方視的に検討した.13症例中10症例が他院紹介であった.主訴は4症例が帯状疱疹痛であり,9症例は悪性腫瘍原発巣または転移による痛みであった.症状出現から当科受診までの期間,受診から診断までの日数の中央値は各々35日,1日であった.10症例は当科での画像診断により悪性疾患が判明,うち7症例は初診当日のMRI,CT検査により診断された.当日診断に至らなかった6症例は,画像診断が再診以降となった4症例(診断まで3~14日)と,当科初診時に悪性腫瘍を疑い他科に精査を依頼後診断までに時間を要した2症例(28~30日)であった.ペインクリニックでは他科で診断を得たうえでの紹介症例が多いが,他に悪性疾患が潜在している症例もある.今回の研究では,身体所見,検査所見上悪性疾患を疑った場合はペインクリニックでイニシアチブを取り,精査を進めていくことが速やかな診断に結びつくという結論を得た.

I はじめに

ペインクリニックにおける診療の際には“痛みの診断と治療方針の立案”に加え,“悪性疾患を見逃さない”姿勢も重要である.これまでにも痛みを主訴としてペインクリニックを受診した患者に,悪性疾患を発見したとする症例報告が多数あるが14),多症例において診断までの経過を検討した報告は少ない.今回,当科で悪性腫瘍と診断した症例について後方視的に検討した.

II 対象および方法

2011年1月~2016年9月の期間,当科受診後に悪性疾患であることが判明した症例を対象に,以下の項目について診療録を用いて後方視的に調査した.年齢,性別,主訴,判明した悪性疾患,症状の発現機序,他院・他科からの紹介の有無,症状出現から当科受診までの期間,受診から診断までの日数,診断の方法について検討した.

本研究はNTT東日本札幌病院倫理委員会の承認を得て行った(東総人医札病第16–429号).

III 結果

調査期間における初診症例数は3,519症例であり,そのうち当科受診後に悪性疾患であることが判明した症例は13症例であった.各症例の年齢,性別,主訴,判明した悪性疾患,症状の発現機序を表1に示す.平均年齢は72±9歳,男女比は11:2,疾患の内訳は腎細胞癌2症例,原発不明癌,脊髄腫瘍,肺癌,脳腫瘍,膀胱癌,乳癌,腎盂癌,直腸癌,胆嚢癌,多発性骨髄腫,膵癌,各1症例であった.

表1 患者背景と判明した悪性疾患,症状の発現機序
症例 年齢
(歳)
性別 主訴 判明した悪性疾患 症状の発現機序
1 80 男性 左頸部~背部痛 原発不明癌 頸椎骨転移
2 70 男性 左背部痛 脊髄腫瘍 胸髄腫瘍
3 66 男性 右胸背部痛 肺癌 肋骨転移
4 63 男性 左顔面痛 脳腫瘍 症候性三叉神経痛(II・III枝)
5 67 男性 右腹部~背部痛,両下肢しびれ 膀胱癌 胸椎転移
6 57 女性 左臀部~下肢痛 乳癌 腸骨・仙骨転移
7 69 男性 左上腕痛 腎盂癌 鎖骨上リンパ節転移による腕神経叢浸潤
8 68 男性 肛門痛 直腸癌 尾骨仙骨浸潤
9 85 男性 右胸背部痛 胆嚢癌 胸膜播種
10 87 女性 胸背部痛(帯状疱疹) 多発性骨髄腫 帯状疱疹+胸椎圧迫骨折
11 74 男性 胸背部痛(帯状疱疹) 腎細胞癌 帯状疱疹+胸椎骨転移
12 74 男性 右前額部,上眼瞼痛(帯状疱疹) 膵癌 帯状疱疹(三叉神経I枝)
13 75 男性 右眼周囲,頬部痛(帯状疱疹) 腎細胞癌 帯状疱疹(三叉神経I・II枝)
  72±9 男:11     帯状疱疹痛:4症例
    女:2     悪性腫瘍原発巣・転移による痛み:9症例

痛みの原因は13症例中4症例が帯状疱疹痛であり,9症例は悪性腫瘍原発巣または転移によるものであった.帯状疱疹として紹介された4症例中,症例10,11では皮疹の部位は左胸部であったが両側の胸背部痛を主訴としたため,痛みの原因が帯状疱疹のみでは説明がつかず,精査により悪性疾患によるものと判明した.症例12,13では,皮疹に集簇性がみられるなど重症の帯状疱疹であったことより悪性疾患合併を疑い,computed tomography(CT)を施行して悪性疾患の診断を得た.

他院・他科からの紹介の有無,症状出現から当科受診までの期間,当科受診から診断までの日数,悪性疾患を疑わせた所見,確定診断を得た検査を表2に示す.13症例中10症例が他院,他科からの紹介であった.このうち7症例は,前医で悪性疾患を疑われることなく,異なる診断を得たうえで当科紹介となった.症状出現から当科受診までの期間の中央値は35日,当科受診から診断までの日数の中央値は1日であった.初診時にX線写真で異常所見が認められたのは症例3,7,9の3症例であり,その内訳は胸水2症例,無気肺,腫瘍性病変各1症例(重複あり)であった.また血液生化学検査で異常値が認められたのは症例3,7,10,12の4症例であった.

表2 診断に至るまでの状況および検査所見
症例 他院・他科からの
紹介
症状出現から当科
受診までの日数
当科受診から診断
までの日数
悪性疾患を疑わせた所見 診断の方法
1 (+) 14日 3日 神経学的所見 MRI(他院)
2   35日 当日 神経学的所見 MRI(当科)
3 (+) 2カ月 当日 XP異常・WBC・CRP上昇 CT(当科)
4   10カ月 当日 脳腫瘍の既往 MRI(当科)
5 (+) 16日 当日 神経学的所見 MRI(当科)
6 (+) 7カ月 14日 前医診断と症状との矛盾 MRI(当科)
7   14日 当日 XP異常・ALP上昇 MRI(当科)
8 (+) 6カ月 30日 前医診断と症状との矛盾 他院で精査
9 (+) 35日 28日 XP異常 他科で精査
10 (+) 14日 7日 TP上昇・腎機能低下・貧血・
痛みと皮疹部位の不一致
MRI(当科)
11 (+) 35日 当日 痛みと皮疹部位の不一致 CT(当科)
12 (+) 35日 当日 WBC・CRP上昇・
帯状疱疹重症皮疹
CT(当科)
13 (+) 25日 7日 帯状疱疹重症皮疹 CT(当科)
  紹介あり:10症例 中央値35日 中央値1日    
  (16~60日) (1~14日)    
  (±25/75パーセン
タイル)
(±25/75パーセン
タイル)
   

XP:X線写真

13症例中10症例は当科での画像診断により悪性疾患の存在が判明し,そのうち7症例は初診当日のmagnetic resonance imaging(MRI),CT検査により診断した.当日診断に至らなかった6症例の内容はMRIなどの画像診断が再診以降となった4症例および当科初診時に悪性疾患を疑い,他科に精査を依頼後診断までに時間を要した2症例であった.

IV 考察

当ペインクリニック外来における年間初診症例数は約600症例であり,今回の結果から,うち2~3症例が未診断の悪性疾患由来の症状で受診していたことになる.当ペインクリニックの初診症例の約50%が紹介症例であり,その多くが他院・他科で診断されてから痛みの管理目的に紹介される.今回,他院・他科からの紹介は13症例中10症例であり,そのうち7症例では,悪性疾患を疑われることなく異なる診断を得たうえで当科紹介となった.このような紹介症例では,診断名をもとに痛みの治療を優先させてしまいがちになる.これまでにも,悪性疾患を否定のうえで他科より紹介され,痛みの治療を先行させたことで,悪性疾患との診断が遅れた症例が報告されている5).ペインクリニックの初診症例において,まれではあるが悪性疾患が潜在する症例が含まれること,また前医の診断を鵜呑みにすることなく,再度新しい視点からの問診,検査が重要であることが今回の結果より示された.

帯状疱疹はペインクリニック外来でよくみられる疾患である.帯状疱疹が悪性疾患に合併することが多いことは,以前より報告6)されている.健常人では発症頻度が1%前後とされているが,悪性疾患症例では3.3%と高率になるとする報告7)がある.高齢者,悪性疾患,自己免疫疾患,白血病,悪性リンパ腫では重症化するとされており8),帯状疱疹の発症には細胞性免疫の低下が強く関与しているといわれている9).悪性疾患がある場合には重症皮疹となることが多く,汎発疹を15~27%で伴っており,悪性疾患のない場合の頻度1.5~4.3%に比べ約6倍も高くなるとする報告10)もあり,悪性疾患が基礎にある場合には帯状疱疹は重症になりやすく,汎発疹を伴いやすいといえる.このことより,帯状疱疹が重症である症例では,悪性疾患を合併している可能性が通常よりも高いことが予想され,このような症例では積極的に悪性疾患の検索を行うことが重要と考えられる.

今回の2症例(症例10,11)では,帯状疱疹の診断のもとに当科紹介となったが,問診により帯状疱疹痛以外の痛みも合併していることが明らかとなり,精査を施行する契機となった.帯状疱疹の発症部位に関する研究では,肺癌,乳癌では胸髄領域,卵巣癌では腰髄領域と,基礎疾患の罹患部位に多い傾向がみられたとの報告7)がある.このため,帯状疱疹痛と悪性疾患由来の痛みの鑑別が困難な場合もあるが,常に悪性疾患の可能性を念頭に置き,詳細な問診,検査をすることが必要であると考えられる.

悪性疾患による病的骨折であればX線写真のみで診断できる場合もあるが,X線写真で悪性疾患を疑う異常所見を指摘できた症例は28%にすぎなかったとの報告11)もあり,X線写真のみでの診断は容易ではないと思われる.われわれの結果では,初診時にX線写真で異常所見を得たのは13症例中3症例であり(全体の23%),13症例中10症例は当科でのCT,MRI検査により悪性疾患が判明した.今回の結果より,詳細な診察による身体所見,X線異常所見,血液生化学検査などの検査所見をもとに,CT,MRIなどの画像診断を行うことは悪性疾患の速やかな診断に有用であると考えられた.

当科受診から診断までの日数の中央値は1日であり,比較的短期間のうちに悪性疾患の診断を得た.しかし,当科初診時に悪性疾患を疑い,他院・他科に精査を依頼後,診断までに時間を要した2症例(28~30日)があった.悪性疾患の診断のため専門領域の科に精査の依頼をする場合には,短期間に確定診断が得られるよう,迅速に必要な情報提供を行うなどペインクリニックとしても積極的にかかわる姿勢が大切と考えられた.

今回,当科受診により悪性疾患が判明した13症例について,診断に至るまでの経過を後方視的に検討した.ペインクリニックを受診する症例の痛み,感覚・運動障害の領域は全身各所に及び,その原因も多岐にわたる.身体所見,検査所見上悪性疾患を疑った場合は,積極的にCT,MRIなどの画像診断を行い,ペインクリニック科でイニシアチブを取り精査を進めていくことが,速やかな診断に結びつくということが明らかになった.

この論文の要旨は,第64回日本麻酔科学会総会(2017年6月,神戸)において発表した.

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