Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Adverse events in pain treatment setting during 2014: a report on adverse events from the Committee on Safety of the Japan Society of Pain Clinicians
Nobuhiko TANAKAShigeru SAITOKazushige MURAKAWAHiroshi SEKIYAMANaomi HIRAKAWALynn MAEDARitsuko MASUDAMiyuki YOKOTA
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2018 Volume 25 Issue 1 Pages 1-8

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Abstract

日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年より学会認定ペインクリニック専門医指定研修施設を対象に有害事象収集事業を開始した.本稿では2014年の1年間を対象とした第4回調査の結果について報告する.第4回調査では,343施設中173施設(50%)から回答が得られた.これまでの調査結果と同様に,有害事象のほとんどが鎮痛薬・鎮痛補助薬の副作用,または神経ブロック・インターベンショナル治療の合併症であった.鎮痛薬・鎮痛補助薬に関しては,非ステロイド性抗炎症薬,プレガバリンおよびトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の副作用が多く報告された.神経ブロック・インターベンショナル治療に関しては,局所麻酔薬の血管内注入による意識消失や呼吸循環不全,肋間神経ブロックやトリガーポイント注射による気胸,化膿性脊椎炎や硬膜外膿瘍などの感染性合併症,頸部血腫や硬膜外血腫などの出血性合併症が報告された.これらの有害事象に関する情報を学会員間で共有し,痛み診療における危機管理意識を高める必要がある.

I はじめに

日本ペインクリニック学会安全委員会では,痛み診療における有害事象を学会員間で共有するため,2009年より学会認定ペインクリニック専門医指定研修施設(以下,指定施設)を対象に有害事象収集事業を開始した13).今回,第4回調査として2014年1月から12月までの1年間に指定施設で発生した有害事象について,後ろ向きアンケート調査を行ったので報告する.

II 対象と方法

第4回調査では,前回の調査3)と同様に,ウェブアンケート方式とし,指定施設(343施設)の代表専門医に回答を依頼した.本調査における有害事象とは,①28日以内に死亡に至ったもの,②心身に後遺障害を生じたもの,③後遺障害は生じなかったが,想定外治療を要したもの,④薬物に関わる社会問題の4項目と定義した.想定外治療とは,入院治療を検討したもの,または入院期間が遷延する可能性があったものとした.さらに想定外治療を要した事例の中で重大な有害事象として詳細に報告された事例は,重度副作用あるいは重度合併症として分類した.薬物に関わる社会問題とは,乱用などの不適切使用や違法的使用の強要などの不適切行為があったものとした.

有害事象の発生状況として発生場所と患者区分を調査した.有害事象の内容は薬物,治療・処置,医療機器,医療材料および画像検査・透視に分けて調査した.さらに鎮痛薬および鎮痛補助薬については26項目,神経ブロック・インターベンショナル治療については日本ペインクリニック学会治療指針改訂第4版4)に掲載されている31項目を対象とし,これらの有害事象の有無,年間発生件数および発生要因を詳細に調べた.

III 結果

アンケートを依頼した343施設中,回答が得られたのは173施設で,回答率は50%であった.今回と同じウェブアンケート方式をとった第3回調査3)と比べ,回答率が14%低下した.

1. 有害事象の発生状況

有害事象が発生した場所では,外来処置室(ブロック実施場所)が36件と最も多かった.

患者区分のうち発生件数を年齢別にみると,65~79歳が27件と最も多く,15~64歳で23件,80歳以上で10件であった.このうち28件は外来通院中に発生し,11件は入院中に発生した.

2. 有害事象の内容

有害事象の内容は,これまでの調査結果13)と同様に鎮痛薬・鎮痛補助薬の副作用と神経ブロック・インターベンショナル治療の合併症に集中していた.

1) 薬物に関する有害事象(図1表13
図1

鎮痛薬・鎮痛補助薬に関する有害事象報告件数

表1 重大な薬物有害事象
薬  剤 内  容(件数)
NSAIDs 消化管出血(2)
アセトアミノフェン 点滴中に気分不快となり入院(1)
モルヒネ 呼吸抑制(1)
フェンタニル トラマドール・アセトアミノフェン配合錠との併用で傾眠(1)
トラマドール 嘔吐・食欲不振で点滴加療(1)
カルバマゼピン スティーブンス・ジョンソン症候群(1),薬疹(2)
プレガバリン 重複処方で傾眠(1),ふらつき・転倒(2),血小板減少(1)
催眠(睡眠)導入薬 転倒・圧迫骨折(1)
その他  
 漢方薬 複数の漢方薬(甘草を含有)内服で高血圧(1)

鎮痛薬・鎮痛補助薬については,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)およびプレガバリンが最多の68件で,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠が45件であった(図1).どの薬物も副作用に関する報告が多かった.重度副作用として,プレガバリンによる傾眠1件,ふらつき・転倒2件および血小板減少1件が報告された(表1).フェンタニルとトラマドール・アセトアミノフェン配合錠との併用による傾眠も1件報告された.また,催眠(睡眠)導入薬による転倒・圧迫骨折1件,カルバマゼピンによるスティーブンス・ジョンソン症候群1件および薬疹2件,NSAIDsによる消化管出血2件,モルヒネによる呼吸抑制1件,甘草を含んだ複数の漢方薬内服による高血圧1件が報告された.薬物に関わる社会問題としてNSAIDs,フェンタニル,プレガバリンおよび催眠(睡眠)導入薬・抗不安薬による乱用6件が報告された(表2).

表2 薬物に関わる社会問題
薬  剤 内 容(件数)
NSAIDs 乱用(1)
フェンタニル 乱用(2)
プレガバリン 乱用(1)
催眠(睡眠)導入剤・抗不安薬 乱用(2)

有害事象の発生要因に関しては,副作用(処方・管理・服薬に問題なし)が37件と最も多く,患者側要因(服薬間違い・自己判断)6件,説明不十分4件,不適切処方(重複処方・日数間違いなど)3件,投与方法(経路間違い)1件が報告された(表3).

表3 薬物に関わる有害事象の発生要因
薬 剤 第一要因(件数)→第二要因(件数)
NSAIDs 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(4)
 →患者側要因(服薬間違い,自己判断)(1)
  患者側要因(服薬間違い,自己判断)(1)
アセトアミノフェン 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(1)
モルヒネ 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(1)
  患者側要因(服薬間違い,自己判断)(1)
オキシコドン 患者側要因(服薬間違い,自己判断)(1)→説明不十分(1)
コデイン 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(1)
トラマドール 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(3)
トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(3)→説明不十分(1)
  重複処方(1),処方間違い(日数間違い)(1)
ブプレノルフィン 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(1)
カルバマゼピン 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(5)
 →患者側要因(服薬間違い,自己判断)(1)
  患者側要因(服薬間違い,自己判断)(1)
その他の抗てんかん薬 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(5)
プレガバリン 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(10)→説明不十分(2)
  重複処方・薬局業務に関する問題(連絡不足など)(1)
催眠(睡眠)導入剤・抗不安薬 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(1)
その他(漢方薬,抗菌薬など) 副作用(処方・管理・服薬に問題なし)(2)
  投与方法(経路間違い)(1)

2) 神経ブロック・インターベンショナル治療に関する有害事象(図2表46
図2

神経ブロック・インターベンション治療に関する有害事象報告件数

表4 神経ブロック・インターベンショナル治療の重大な有害事象
手  技 内  容(件数)
星状神経節ブロック 血管内注入(4),頸部血腫(1),頸部感染(1),化膿性脊椎炎(1)
頸・胸部硬膜外ブロック 硬膜外血腫(2),くも膜下注入(1),血圧低下(1),安静解除後の起立時に意識消失(1)
腰部硬膜外ブロック 硬膜外膿瘍(1),皮下膿瘍(1),くも膜下注入(2),高度徐脈(1),硬膜穿刺後頭痛(2),詳細不明(1)
硬膜外カテーテル挿入・留置 硬膜外膿瘍(1),皮下膿瘍(2)
神経根ブロック 気胸(1)
眼窩下神経ブロック 皮下出血(2)
腕神経叢ブロック 血管内注入(1)
肋間神経ブロック 気胸(3)
トリガーポイント注射 気胸(1)
硬膜外脊髄刺激療法 感染(1),皮膚潰瘍(1)
エピドラスコピー 先端外皮の剥離(体内遺残の可能性あり)(1)
持続坐骨神経ブロック 感染(1)

硬膜外ブロック・カテーテル関連が55件(腰部21件,頸胸部7件,仙骨部18件,カテーテル関連9件)と最も多く,トリガーポイント注射が21件,星状神経節ブロックが13件であった(図2).

重度合併症として,星状神経節ブロックによる局所麻酔薬の血管内注入が4件報告され,そのうち一過性の意識消失と呼吸停止を生じた事例が1件,意識消失と痙攣を生じた事例が1件報告された.また腕神経叢ブロック時に血管内注入となり心停止となった事例も1件報告されたが,すべての事例が後遺障害を生じることなく回復していた(表4).

今回の調査でも肋間神経ブロックによる気胸が3件,神経根ブロックおよびトリガーポイント注射による気胸がそれぞれ1件ずつ報告された.感染性合併症として星状神経節ブロックによる頸部感染が1件,化膿性脊椎炎が1件,硬膜外ブロック・硬膜外カテーテル留置による硬膜外膿瘍が2件,皮下膿瘍が3件報告された.また,硬膜外脊髄刺激療法と持続坐骨神経ブロックによる感染もそれぞれ1件ずつ報告された.出血性合併症として星状神経節ブロックによる頸部血腫が1件,硬膜外ブロックによる硬膜外血腫が2件,眼窩下神経ブロックによる皮下出血が2件報告された(表4).

死亡および後遺障害の事例として,サドルブロックによる仙骨部の知覚脱失部位に褥瘡ができ,褥瘡部からの感染により敗血症となり死亡に至った事例が報告された(表5).

表5 後遺障害事例
手  技 内  容(件数)
くも膜下フェノール・サドルブロック 知覚脱失部位に褥瘡・敗血症(1)

有害事象の発生要因に関しては,今回の調査でも未熟7件や不適切操作10件といった技術上の問題を要因とする報告が多かった.また,不適切な診断・適応判断2件,術前評価不十分2件などの診断や術前評価の問題,術中の誤った対処1件,術中対処不十分1件や術後観察不十分2件などの術中対処や術後観察の問題を要因とする報告があった(表6).

表6 神経ブロック・インターベンショナル治療に関わる有害事象の発生要因
手  技 要  因(件数)
星状神経節ブロック 未熟(2),不適切操作(2)
硬膜外ブロック 未熟(4),不適切操作(2),不適切な診断・適応判断(1),術後観察不十分(2)
神経根ブロック 未熟(1),術前評価不十分(1)
腕神経叢ブロック 術中の誤った対処(1)
肋間神経ブロック 不適切操作(3)
傍脊椎神経ブロック 不適切操作(1)
トリガーポイント注射 不適切操作(1)
関節内注入 不適切な診断・適応判断(1)
高周波熱凝固 術中対処不十分(1)
くも膜下フェノール・サドルブロック 術前評価不十分(1)
その他 不適切操作(1)

3) 上記(鎮痛薬・鎮痛補助薬および神経ブロック・インターベンショナル治療)以外の区分に関する有害事象

造影剤によるアレルギー(皮疹)が1件報告された.また,医療材料に関連したものとして,エピドラスコピー施行中に先端(18 mm)の外皮が剥離し,体内遺残が疑われた事例が報告された.また,硬膜外カテーテルのコネクターの不具合に関する事例が2件あり,メーカーに改善を依頼したとの報告があった.

IV 考察

第4回調査として2014年1月から12月の1年間に指定施設で発生した有害事象を調査した.第3回調査3)からウェブアンケート方式を採用し,今回が2回目となった.前回は暫定的に紙面媒体による回答方式も可能としたが,今回はウェブアンケート方式のみで行った.その結果,アンケート回答率は50%で,前回より14%低下した.回答率低下の要因は,紙面媒体による回答方式を中止したことも関係しているであろうが,調査の目的や意義が十分に理解されていなかったことなども考えられることから,この有害事象調査の目的や意義を周知徹底し,回答者が回答しやすい調査方法を検討する必要がある.

有害事象の内容は,これまでの調査結果と同様に鎮痛薬・鎮痛補助薬と神経ブロック・インターベンショナル治療に関する報告に集中していた.

1. 薬物に関する有害事象について

NSAIDs,プレガバリンおよびトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の有害事象報告の割合が高く,実数も前年より増加していた.

NSAIDsによる重度副作用として消化管出血2件,社会問題として乱用1件の報告があり,漫然と長期投与しないように注意すべきである.プレガバリンによる傾眠やふらつきなどの一般的な副作用以外に,重度副作用として血小板減少が1件報告された.この事例に関しては,プレガバリンの投与量や投与期間,そして血小板数などの詳細は不明であるが,添付文書上でも血液およびリンパ系障害(0.3%未満)の記載がある.プレガバリンに限らず,薬物療法中の患者には定期的な血液検査を行うべきである.

NSAIDsとプレガバリン以外での重度副作用として,カルバマゼピンに起因するスティーブンス・ジョンソン症候群や薬疹が報告された.これまでの有害事象調査でもカルバマゼピンによる重篤な皮膚症状は複数回報告されている.これらの重篤な皮膚症状の多くは投与開始から3カ月以内に発症することから,投与初期には特に留意すべきである5)

今回,甘草を含んだ複数の漢方薬内服による高血圧が1件報告された.第3回調査3)でも漢方薬による低カリウム血症の報告があり,また芍薬甘草湯を内服中に肺うっ血と低カリウム血症を発症した症例も過去に報告されている6).今後,ペインクリニック領域での漢方薬処方の増加に伴い,有害事象も増加する可能性がある.甘草の主成分グリチルリチンによる偽性アルドステロン症をはじめとする漢方薬の副作用について正しい知識を身につける必要がある.

薬物に関わる社会問題として,乱用が6件報告された.前述のNSAIDs以外にフェンタニル2件,催眠(睡眠)導入剤・抗不安薬2件およびプレガバリン1件であった.オピオイドや向精神薬に限らず,ペインクリニックで処方する機会の多いNSAIDsやプレガバリンでも乱用の危険性があることを認識し,処方は必要最小限の投与量にとどめるべきである.

今回,有害事象の要因として副作用(処方・管理・服薬に問題なし)以外に,患者側要因(服薬間違い・自己判断),説明不十分,不適切処方(重複処方・日数間違いなど)および投与方法(経路間違い)が報告された.服薬間違いや自己判断といった患者側要因も医療者が十分に説明していれば予防できた可能性がある.重複処方による傾眠が報告されていることからも,薬局との連携強化による処方管理と十分な説明(服薬指導)が重要であることを再認識すべきである.

2. 神経ブロック・インターベンショナル治療の有害事象について

今回の調査でも,外来にて施行することが多い硬膜外ブロック,トリガーポイント注射および星状神経節ブロックによる有害事象の報告件数が多かった.神経ブロックが直接的要因となって後遺障害を生じたり,死亡に至った症例は報告されなかったが,重度合併症として局所麻酔薬の血管内注入による意識消失や呼吸循環不全,肋間神経ブロックやトリガーポイント注射による気胸,化膿性脊椎炎や硬膜外膿瘍などの感染性合併症,星状神経節ブロックによる頸部血腫や硬膜外血腫などの出血性合併症が報告された.これらの有害事象は,発見や対応が遅れると後遺障害や死亡に至る可能性が十分にあることから,早期発見と迅速な対応ができるように,患者への十分な説明と外来の環境整備を常に心がけるべきである.

今回の調査では,神経破壊薬使用による知覚脱失部位の感染から敗血症となり,死亡に至った事例が報告された.神経ブロックが死亡の直接的要因ではないが,非常に貴重な報告である.三叉神経痛4)やがん性痛7)に対して神経破壊薬や高周波熱凝固による神経ブロックが行われることも多く,知覚脱失部位の皮膚・粘膜のケアと感染予防を十分に留意すべきであることを認識することができた.

神経ブロック・インターベンショナル治療における有害事象の要因として,未熟や不適切操作といった技術上の問題が最も多く報告された.また,術前評価,術中対処や術後観察の問題も数件ずつ報告された.安全で確実な手技を取得するための努力を惜しまないことは当然であるが,さらに神経ブロック・インターベンショナル治療の適応とリスクの評価を正しく行い,術中・術後の観察および対処を怠らないようにすべきである.

3. 上記(鎮痛薬・鎮痛補助薬および神経ブロック・インターベンショナル治療)以外の区分に関する有害事象について

エピドラスコピーおよび硬膜外カテーテルの医療材料に関連した事例が報告された.硬膜外カテーテルのコネクターの不具合については,回答者からメーカーに改善を依頼していた.今後,このような医療材料の不具合についても安全委員会として積極的に情報を収集し,メーカーに対してもそれらの情報を提供していきたい.

V おわりに

安全委員会では,紛争に拡大する可能性のある重大な有害事象の収集と学会員への注意喚起をどのように行っていくべきかということが今後の課題となっている.

今後も学会員間で有害事象に関する情報を共有し,痛み診療における危機管理意識が高まるように,調査を継続し結果を報告する予定である.

この論文は,日本ペインクリニック学会安全委員会による有害事象収集事業として学会理事会の承認を得て調査した結果に基づく報告書である.要旨は日本ペインクリニック学会第49回大会(2015年7月,大阪)において発表した.

謝辞

今回の調査に回答いただいた代表専門医の方々に改めて感謝いたします.

文献
 
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