抄録
著者らは1999年から痛みの緩和が困難ながん性痛に「くも膜下ベタメタゾン投与法」を施行してきた.今回,2年で計18回2クールのくも膜下ベタメタゾン投与法を施行した症例を経験した.患者は70歳男性で,第12胸椎悪性腫瘍に伴う腰下肢痛があり,放射線や薬物治療は無効で寝たきり状態となった.ベタメタゾンの腰部くも膜下投与を2回行ったところ,痛みは半減し,3回施行後からさらに痛みが減弱して補助具での歩行が可能となった.5カ月間の治療後も1年以上の優れた鎮痛が得られた.しかし,同腫瘍が増大して右下肢痛の増強と歩行困難が生じた.第2クールを開始したが,2~3日の鎮痛効果しか得られず,ADLが低下して全身状態も悪化した.不十分な効果は,腫瘍の増大と脊椎の支持性低下によると考えられた.この方法は,がん病変の進行による効果減少の問題はあるが,合併症や副作用は観察されず,第1クール治療後には長期間の良好な痛みの緩和と活動性の改善が得られており,脊椎腫瘍によるがん性痛に対して病期によっては有効な鎮痛法の一つとなりうる可能性を持っている.