Japanese Journal of Behavioral Medicine
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Health Promotion and Behavioral Medicine
Health Promotion for the Victims and Evacuees of the Great East Japan Earthquake
Ryo MOTOYA
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2013 Volume 19 Issue 2 Pages 68-74

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要 約

東日本大震災の被災者・避難者の多くは、心身両面においてさまざまな健康問題を抱えている。健康問題の例としては、PTSD症状の出現、抑うつ、不安、焦燥、怒りの増加、睡眠障害、血圧上昇、アルコール依存症、生活習慣病、あるなどがあげられる。震災がもたらしたこのような健康問題は、震災直後の急性期のみならず、中長期においても大きな問題となっており、被災者に対する継続的なアプローチが必要である。今回の震災では、津波や原発事故のために、強制的に避難をせざるをえず、震災後、住環境が大きく変化した者も多い。動かないことで全身の心身機能が低下する“生活不活発病(廃用症候群)”も、避難している高齢者を中心に散見され、心身の健康問題の悪循環を生んでいる。加えて被災三県の中でも放射線の影響が懸念されている福島県では、住民の屋外活動の減少や食品摂取の過剰制限など、放射線不安が要因で引き起こされている健康問題への対応も課題の一つとなっている。被災者・避難者の抱える健康問題に関しては、ハイリスク者の早期発見、早期支援を行うことが重要である。また、ハイリスク者や対応困難者に対しては、医師、看護師、保健師、心理士など多職種がチームとなって連携したアプローチをすることが不可欠であり、支援に臨床心理学的視点や行動医学的視点が必要となることもある。そして、被災者・避難者の健康増進を考える際には、個々人に対するアプローチに加えて、地域やコミュニティーに対するアプローチも非常に重要であり、いかに地域やコミュニティーを取り込んだアプローチができるかが長期におよぶ被災者・避難者の健康増進のカギとなる。

はじめに

東日本大震災による避難・転居者数は、復興庁の報告[復興庁 全国の避難者の数 http://www.reconstruction.go.jp/topics/20130315_hinansha.pdf](2013年3月15日付)で、避難所や親族・知人宅等への避難者が15,471人、仮設住宅、公営住宅、民間住宅、および病院等への転居者が297,858人である。つまり、震災から2年が経過した時点においても、約310,000人が、震災前の住居からの移動を余儀なくされている。また、自県外への避難・転居者数をみると、岩手県と宮城県からそれぞれ1,603人、7,945人であるのに対して、福島県からが56,920人であり、震災で甚大な被害を受けた東北三県の中でも福島県が突出している。この結果は、福島県に立地している福島第一原子力発電所(以下、原発)の事故に伴う放射性物質の放出により、福島県民の多くが、政府による強制措置のためや身体への影響を懸念した自己判断のために県外へと転出したことを表している。

東日本大震災の被災者・避難者の多くは、心身両面においてさまざまな健康問題を抱えている。心理的側面での例としては、被災体験や家族・知人の喪失に伴うPTSD症状の出現、抑うつ、不安、焦燥、怒りの増加などがある。一方、身体的側面では、睡眠障害、血圧上昇、生活習慣病の発症・悪化、頭痛や腹痛を代表とする心身症などがあげられる。震災がもたらしたこのような健康問題は、震災直後の急性期のみならず、中長期においてもみられる大きな問題であり、被災者に対する継続的なアプローチが必要である。とりわけ、今回の震災では、大地震のほか、津波や原発事故のために、避難を強いられている者が多数であり、被災そのものから受けるストレスに加えて、避難に伴って生じるストレスも被災者・避難者の抱える健康問題に多大な影響を与えている。

筆者は、東日本大震災直後に結成された「福島医大こころのケアチーム」(福島県立医科大学神経精神医学講座と看護学部精神看護の教員などによるチーム)の一員として、被災地におけるこころのケアに携わってきた。こころのケアは、単に心理的側面へのアプローチのみではなく、被災者・避難者の身体的側面や抱える健康問題全般へのアプローチも含まれる。これまで、個別面談、避難所巡回、仮設住宅訪問、全戸支援(ローラー支援)、母子健康相談といった個に対するアプローチに加えて、高齢者サロンや母親サロンでの健康教育、地域住民や支援者への健康支援などのコミュニティーに対するアプローチを行ってきた。本稿では、被災者・避難者の抱える問題を整理するとともに、筆者が被災者・避難者に対するこころのケアで取り組んできた活動を通して、現場で求められる健康増進へのアプローチと課題について述べる。

被災者・避難者の抱える問題

1. 仮設住宅入居者の問題

東日本大震災に伴う転居者の多くは、今なお仮設住宅で生活している。震災直後の避難所から仮設住宅へと住居が変わることにより、日常生活を送る上での最低限のプライバシーは確保されるようになった。しかしながら、仮設住宅での生活には、環境的側面と心理社会的側面においてさまざまな問題点が存在している。環境的側面では、まず、仮設住宅の構造上の問題がある。例えば、一般的なプレハブの仮設住宅であれば、高湿度であり、夏暑く、冬寒い作りになっているほか、網戸がなく窓が開けにくいことや室内の壁が薄く生活音が外へ漏れることなどがある。また、住宅から徒歩圏内に日用品や食料を購入できるスーパー、幼稚園・小学校・中学校などの教育機関、医療機関、および保健福祉施設が少ない、あるいはまったくないこともある。さらに、こうした商店や施設を利用するために、車やバスなどの交通手段を利用しなければいけないという生活の利便性に難がある場合も多い。このような問題は、すべての仮設住宅に共通することではないが、希望通りの住居へ入居できる被災者・避難者は限られている上、仮設住宅での生活が長期化し、かつ生活再建の目途が立たない現状にあっては、看過できない。中でも、高齢者や身体に不自由を抱える住民の多くは、こうした生活に伴う身体的、精神的負担を一層強く感じている。

加えて、震災前、同じ地区に居住を構えていた住民らが、震災後、離散し、それまでの居住地とは全く別の地へ転居する場合が多い。そのため、震災以前に構築されていた地区のコミュニティーは崩壊し、被災者・避難者が孤立しやすい点も大きな問題である。

一方、心理社会的側面の問題としては、経済的圧迫、将来に対する不安、人間関係の軋轢などがあげられる。住居は確保したものの、元々の住宅や職を失い、生活用品を含めた家財、社会的資源、および収入源が限られる中での生活であり、経済的負担は非常に大きい。また、復興や再建の見通しが立たない地域も多く、将来に強い不安や失望を抱く住民が多いのも実状である。仮設住宅は、避難所と比較してプライバシーが確保されたとはいえ、十分ではない。例えば、「外に洗濯物が干せない」、「隣りに声が漏れるため、自由に会話ができない」、「仮設住宅棟では個々の住居間の距離が近いために、常に人が気になる」などは、住民の声としてよく耳にする。そして、仮設住宅と一口に言っても、さまざまな形態があり、プレハブ仮設の他に、木造のログハウス仮設もある(Fig. 1)。見た目も大きく異なるが、ログハウス仮設は、1戸建てであることが多く、プレハブ仮設と比較してプライバシーが確保されやすい上、構造上も通気性が良く、夏涼しく、冬暖かく、生活しやすいといわれている。そのため、同一地域の中に、プレハブ仮設とログハウス仮設が隣接する場合には、住民間で不公平感も生まれ、実際、人間関係における軋轢が生じることもある。

Fig. 1.

ログハウス仮設住宅が立ち並ぶ地区.

2. 震災に伴うストレス反応

震災後は、感情面、思考面、身体面、行動面においてさまざまなストレス反応が生じる。感情面では、落ち込み、不安、恐怖、孤独感や罪悪感、焦燥感、怒りなどがみられ、思考面では、集中できない、考えがまとまらない、忘れやすい、判断ができないといった混乱状態がみられる。身体面としては、胃腸の不快感、食欲不振、血圧上昇、不眠、頭痛や倦怠感を主とする不定愁訴などがしばしば認められる。

また、飲酒量や喫煙量の増加や攻撃行動の増加など、行動面でのストレス反応が出現する。特に、アルコール依存症は、今回の震災後、被災者・避難者での増加が報告され、被災者支援における重要な取り組みの1つであった。震災後にアルコール摂取が増加する理由はさまざまだが、家族や近親者との死別に加えて、職の喪失やコミュニティーの崩壊などを同時に経験する中で、不眠などの睡眠問題、抑うつ、不安、悲嘆感情への不適切な対処となっていることが多い。アルコールの過剰摂取は、身体に悪影響を及ぼすだけではなく、引きこもりを助長し、社会生活からの距離が生まれ、一層の孤立を導く。社会からの孤立は、自殺の危険性を高めるため、被災者・避難者でアルコール摂取量が増加していることが観察される場合には、ハイリスク者として要支援の対象として考えるべきである。

津波や原発事故によって、特に岩手県、宮城県、福島県の沿岸地域では、家屋や土地を含むすべての生活空間の損失を伴う甚大な被害を受けた(Fig. 2)。沿岸地域からの避難者の中には、県内の内陸部、あるいは遠く離れた県外の地へ転居した者も多い。そのため、避難者の中には、住み慣れた家や土地を離れ、天候や文化など地域特性の異なる場所で生活をしている者も少なくない。そのため、避難者は震災に伴うさまざまな喪失体験によるストレスに加えて、気候や文化の異なる環境での生活によるストレスも抱える。当然のことながら、生活環境の変化は、就労、就学、人間関係、社会的援助にも影響を及ぼし、震災前のライフスタイルの見直しを迫られる例が多々あり、支援者は被災者のストレス反応を理解する上で、上述した被災者の背景も理解しておく必要がある。

Fig. 2.

津波により更地となった地区(2012年4月:いわき市).

3. 食生活の乱れと生活習慣病

被災者・避難者における健康問題として、多く見られたのが食生活の乱れやそれに伴う生活習慣病である。食生活の乱れに関しては、震災後に生活環境や生活リズムが一変することによって、外出せず住居内で過ごす時間が増加し、間食回数が増えた、食事量が増加した、などが聞かれた。別の例では、日常的に徒歩で行くことができる食材の購入場所が限定されることにより、レトルト食品や既製弁当が増えた、魚を食べる回数が減った、などといった高カロリー食品の摂取や偏食傾向が伺えた。

また、ある高血圧と糖尿病を合併していた患者の場合、訪問支援で保健師や看護師から「水分摂取が日常的に必要である」とのアドバイスをうけた結果、「水の入手が難しい時期に、水分であれば、何でも代替が可能であろうと自己判断し、毎日、水分補給として市販のジュースを飲んでいた」ということがあった。別の例として、「疲れた時には甘い物を摂ると良い、とのアドバイスをうけた」とし、「支援物資として提供されていたチョコレートを多く食べるようになった」と言い、実際、血圧と血糖値が上昇し、経過観察を指摘される場合もあった。これらは、栄養指導の内容が被災者・避難者に十分に理解されず、かつ限られた食材や行動範囲の影響も重なり、不適切な食習慣が維持されていた例である。同じような状況は、特に、高齢者で多く見られたが、単に情報を伝えるのではなく、相手が情報を正しく理解できているか確認しながら、丁寧、かつ正確に情報を伝達する工夫が必要である。

生活習慣病については、山岸・岡村1)が、震災後急性期(1ヵ月)における患者を対象とした調査報告があり、その報告によると高血圧患者100人のうち65人が余震、避難生活に伴うストレス、不安や不眠などによって血圧が上昇したことを明らかにしている。また、急性期における外来患者100人を対象として血糖、脂質(中性脂肪、LDL-コレステロール)の値の変化をみたところ、過去3回のデータ平均と比較して10%以上上昇した者がそれぞれ41%(血糖)、31%(中性脂肪)、47%(LDL-コレステロール)であった。一方で、血糖と脂質が10%以上低下した者も47%(血糖)、34%(中性脂肪)、39%(LDL-コレステロール)いる結果であり、震災後は、食事量の減少などの生活習慣の変化により、糖や脂質プロフィールが改善、あるいは低下したために投薬を中止した症例があったことも報告されている1)

一方、急性期以降の影響として、糖尿病、高血圧、脂質異常症を合併した患者20人での、血圧、血糖、脂質の変化を検討した結果、急性期が過ぎた場合でも、余震やストレスの減少により血圧が正常化したのに対し、食糧事情の改善と過食により、血糖と脂質はリバウンドを示し、震災6ヵ月後は震災前と比較して有意な上昇が認められるとの報告がある1)。中越沖地震でもI型糖尿病、II型糖尿病のいずれにおいても、震災6ヵ月後に有意な悪化が認められる2,3)ことから、生活習慣病を抱える方への支援に関しては、震災後の状態が慢性化した時期でも震災の影響を受けることを頭に入れておくべきである。

4. 生活不活発病

今回の震災では、動かないことで全身の心身機能が低下する“生活不活発病(廃用症候群)”が、主に避難している高齢者や障害を抱える人でみられ、心身の健康問題の悪循環を引き起こしていることが問題となっている。“生活不活発病”とは、身体を動かす、ものを考える機会が減ることで心身の機能が低下し、筋力や体力などが衰えることを指し、心肺機能低下、消化器機能低下、骨間筋萎縮、関節拘縮、静脈血栓症、褥瘡などの身体症状や抑うつ、知的活動低下、運動調節機能低下などの精神・神経症状を引き起こすといわれている4)。東日本大震災の7ヵ月後に実施された宮城県南三陸町の全町民に対する生活機能の実態調査では、非要介護認定高齢者であっても23.9%に歩行困難が出現し、未回復の状態であると報告されている。また、生活機能の低下に関しては、震災以降に住環境が大きく変わった仮設住宅生活者の約30%が該当する一方で、自宅生活者でも、直接的な津波の被災地で21.3%、直接被災していない地域でも14.3%があてはまる5)など、震災に伴う生活機能の低下は、必ずしも限定した住居形態のみで生じているものではなく、住環境やコミュニティーの変化でも生じるものと理解すべきである。

“生活不活発病”を代表とする生活機能の低下の予防や対策が被災者の健康問題に対して重要であるといわれるが、実際の支援で関わった方々の状況を踏まえると生活機能が低下する仕組みは次のように考えられる。被災前に属していたコミュニティーは崩壊し、住環境や家族構成が大きく変化する中で、外出する機会は減り、筋力や体力の低下を引き起こす。その結果、活動水準が低下し、外出が億劫になり、家の外ですることがないという考えをもつようになる。そのため、ますます外出機会が減少し、住民同士の交流の場も失われていく。つまり、することがないという理由で外出せず、外出しないために体力が落ち、意欲も低下する。そして、外出機会が減少し引きこもる状態が繰り返されることとなる(Fig. 3)。また、外での活動水準の低下は、家の中での活動減少を引き起こし、自宅の中でも何もしたくない、何もできないという状態となり、最低限の生活維持すら難しくなる場合もある。

Fig. 3.

外出機会の減少に伴う生活機能低下の仕組み.

実例に基づく典型的な仮想症例をTable 1に示す。震災前は、知人らと外出するなど、交流が見られていたが、仮設住宅入居後は、知人がほとんどおらず、趣味であったパークゴルフを行う場所もないことから、自宅で過ごす時間が長くなった。仮設住宅に集会場があり、定期的にお茶会、講演会、健康相談会などが実施されているが、参加せず、保健師の訪問にも否定的であった。元々の自宅近くには、徒歩で行くことができるショッピングセンターやスーパー、医療機関があったが、現在は、コンビニエンスストアが1軒立つのみであり、ショッピングセンター、スーパー、医療機関等へは、バスに20分程度乗らなければ行くことができない状態である。同じ仮設住宅に住む知人や保健師からは、「ずっと家にいるのはよくない」、「また、家にばかりいて」、「集会場に来たら楽しいから」などの言葉がかけられるが、逆にプレッシャーと感じ、無力感を強め、ますます他者と距離をとり、外出行動は制限される状態であった。本例に対しては、単なる生活指導や集会への促しのみでは、行動が変わらない可能性が考えらえるため、家族への協力依頼を行うなどサポート体制を整えることや医療・福祉サービスへの接続を考えることが重要である。また、同一の支援者が定期的に連絡し、関係性を構築するとともに、本人の心身における変化を把握し、本人が相談しやすい環境を整備することが必要である。本人の外出行動を増やすには、背景にある不安や焦燥感を減らすよう関わるとともに、本人が無理なく取り組めるような行動目標をスモールステップで設定し、実際に取り組んだ行動に対し、その都度、プラスのフィードバックを言語的、あるいは視覚的に行うといった支援者の一貫した対応も行動変容を促す手がかりとなりうる。

Table 1. 仮想症例:60歳代女性(震災後6ヵ月)
・ 震災前、沿岸地域に住んでおり、震災当日は、自宅周辺で被災。津波にのまれたが、一命をとりとめる。夫と長男は、沿岸部の職場で被災し、死去。
・ 長女(既婚)は、県外で生活。
・ 自宅は全損であり、地区は地震と津波で壊滅的被害。
・ 震災後1ヵ月間、避難所3か所を転々とした後、内陸部の仮設住宅に入居。
(震災前の状況)
・ 持病として腰痛を抱える他には、身体的異常は指摘されていない。
・ 同地区の知人らと月に数回のお茶会やサロンを行うほか、趣味のパークゴルフも定期的に行っていた。
(震災後の状況)
・ 高血圧と不眠を指摘され、地区担当保健師らが定期的に訪問している状態であった。
・ 訪問時に保健師が、外出を促すも、膝の痛みを訴えるとともに、意欲の低下を認めた。

中長期支援としての取り組み

1. 仮設住宅等入居者への訪問

震災後急性期の避難所から仮設住宅等の住居へ移動することは、被災者・避難者の生活形態が「集団」から「個」へ変化することを意味する。避難所では、プライバシーの問題がある一方で、支援全般、医療、福祉、行政を含めた生活に関する情報が集まり、支援者も避難所の担当スタッフと連携をとることができるなど、被災地域や被災者・避難者の健康状況をある程度、把握することが可能であった。つまり、避難所の中でも被害の甚大であった地域の被災者が多くいる所、元々の地域のコミュニティーが解体している地域住民が集合している所、避難所内での観察経過からPTSD等の危険性が高い住民のいる所などの情報が支援者に入り、早い段階で専門スタッフによる適切な支援を受けることが可能であった。しかし、仮設住宅等へ移動することで、住居者とのコンタクトが難しくなり、避難所にて糖尿病、高血圧、腎臓疾患などの身体症状の悪化、自殺の危険性、アルコール依存症、大うつ病性障害や外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)などの精神疾患への進展が懸念される対象者がいた場合でも、フォローできないことが生じた。そのため、仮設住宅等へ転居された全被災者・避難者を対象とした、全戸訪問を実施した。具体的には、医師、看護師、保健師、臨床心理士ら2人ないし数人が、チームとなって、避難先住民の健康状態を確認するというものである。特に、「福島医大こころのケアチーム」として筆者が参加したいわき市では、訪問看護師らが避難先住民を訪問し、その際の状況から、何らかの医学的介入が必要な場合には医師、心理的アセスメントや心理的援助を要すると判断された場合には心理士が、再訪問するという形式をとっていた。上述した多職種連携による訪問支援の目的は、被災者・避難者に対する継続支援の提供とハイリスク者の早期発見と早期介入であり、限られたマンパワーと支援体制の中では、効果的な活動であった。

2. コミュニティーへの支援

筆者らはコミュニティーへの支援として、地域で開催されている高齢者サロンや母親サロンへの参加や相談会を実施した。また、支援の一環として、一般市民や民生委員を対象としたワークショップや講演会なども行った。サロンとは、住民同士が交流を図るとともに、保健師らに健康面や日常生活に関する相談ができる集会のことである。通常は、住居地区ごと、定期的に開催されている。震災後、コミュニティーが崩壊した地区も多かったが、可能な地区ではサロンを継続し、住民同士の不安の低減を含む精神的安定や健康状態の確認を計る目的で実施されていた。筆者らは、高齢者サロンや母親サロンに参加し、震災後に生じた心身の不調や子どもの問題行動に関する相談、放射線に関する相談を担当したほか、ストレス対処方法、リラクセーション方法、自殺予防などに関する講話会を行った。

コミュニティーへの支援で重要な点は、単に相談会や講話会を行うことではなく、支援を通して、地区の担当スタッフと地域住民をつなぎ、活動を再開させ、地域の活動力を回復させることである。また、サロンへの参加状況を通して、「個」で把握できない住民の抱える問題や健康状態などを理解するきっかけにもなりうる。すなわち、毎月1度開催しているサロンに関し、声をかけているものの3ヵ月連続で返信がなく参加しない場合、電話口では変わりないと言うが、実際、サロンに参加すると明らかに体重が減少し、不眠を訴える場合、誰とも会いたくないと拒絶する場合など、サロンをきっかけとして個の支援に結びつく場合も少なくない。

3. 支援者への支援

震災後の支援対象では、被災者・避難者に加えて、支援を提供する側も非常に重要である。具体的には、消防職員、医療従事者、行政職員、ボランティアなどに対してである。震災後の人命救助をはじめとするさまざまな災害支援に携わるスタッフは、自らが被災者であるにも関わらず過重労働が続き、心身の疲労は極限の中、使命感のもと、作業に従事している場合が多い。しかし、そのような状況では、感情が高揚し、疲労の自覚が乏しいため、バーンアウト状態となり、無力感や倦怠感に苛まれる危険性が非常に高くなる。そのため、支援者に対しては、一人で問題を抱えないこと、同僚と体験を話し合い、気持ちを分かりあうこと、少しの時間でも気分転換やリラックスの時間を作ること、自分自身の心身状態の変化に気づくよう心がけることなどを繰り返し伝え、相談してもよいということを理解してもらう。

支援者は、Fig. 4に示すような強い責任感と休むことへの罪悪感を抱え、「大変なのは誰しも同じであるし、被災者が苦しんでいる中、支援者である私が相談になどいけない」と相談を拒否的に捉えている傾向にある。支援者への支援の際には、支援者が口にする「大丈夫」、「まだ頑張れます」という言葉を鵜呑みにせず、むしろ注意サインである場合があることを頭にいれ、休息を勧める、あるいは組織にその支援者の現状を伝えるなどの措置が必要である。支援者への支援は、個人に対してというよりはむしろ集団で取り組むべき問題であるため、可能な場合には、支援者をマネジメントしている組織、管理者、上司などと連携をはかり対処していくことが肝心である。加えて、今回の震災では、遺体関連業務に関わった支援者も少なくない。日々、ご遺体やご遺族に関わるスタッフが受ける、いわゆる惨事ストレスは、想像を絶するものがあり、PTSD等の発症率が高くなることも理解しておくべきである。

Fig. 4.

支援者に多く見られる認知の歪み.

原発事故問題と対応

被災三県の中でも原発事故に伴う放射線の影響が懸念されている福島県では、住民の屋外活動の減少や食品摂取の過剰制限など、被ばくの不安が要因で引き起こされている健康問題への対応も課題の一つとなっている。また、福島県内の各所には、空間放射線量を測定するモニタリングポスト(Fig. 5)が設置され、テレビニュースでも毎日、空間放射線量が報道されているなど、常に放射線量を確認できる。逆に言うと、住民らは日常的に空間放射線量を意識させられる環境にいるともいえる。

Fig. 5.

空間放射線量を測定するモニタリングポスト.

原発事故の汚染によるメンタルヘルスに関しては、チェルノブイリ原発事故後の研究資料として、うつ状態、PTSDを含む不安、医学的に説明されない身体症状が、被災者と対照群とを比較した場合に、被災者で有意に増えていることが報告されている6,7,8,9)。しかし、住民の反応の多くはサブクリニカルであるとされる10)。また、WHO11)は、チェルノブイリ事故がもたらしたもっとも大きな地域保健上の問題はメンタルヘルスに及ぼす影響である、と述べている。そのため、被ばくを心配する住民が、PTSDをはじめとする精神疾患に該当しないからと言って被ばくの不安は無視できるものではなく、メンタルヘルスに関する長期にわたるフォローと対策は必須である。

放射線被ばくに関する問題は、身体症状への影響懸念に留まらず、多岐にわたる。例えば、震災直後と比べると数は減ったものの今なお、放射線に対する誤認識や流言(例えば、うつる、遺伝する、運んでくる)は根強く残っている。また、原発関連の職員や家族に対する誹謗中傷といった二次的被害の報告も多い。

放射線被ばくに対する懸念の強さには個人差があるが、今回の原発事故においては、収束の目途が立っておらず、短期的なストレス、不安要素ではなく、長期にわたるストレス要因である。原発事故から2年以上が経過したにも関わらず、除染が進まず、避難生活を余儀なくされている住民は多数にのぼる。また、県の主要産業である農業や漁業に関しては今なお風評被害が強いことや空間線量の高さから、再開を断念せざるを得ない状況も少なくなく、転職を強いられる場合もある。さらに、仮に除染が完了した場合でも、2年もの間、未踏の地であった場所は、インフラ整備が不十分であるほか、震災の事後処理も完了していないことが多く、事故後、住民が離散していることを考えると、事故前の生活や街に戻れる見通しはたたず、課題は山積している。

まとめと課題

被災者・避難者の抱える健康問題に関しては、ハイリスク者を早期発見し、問題に対して早期支援を行うことが重要である。また、身体的な健康問題を抱えながらも医療機関への接続を拒否する方や飲酒量の増加を指摘されながらも生活習慣が変わらない方など、看護師や保健師のみによるアプローチでは対応が困難な場面もあり、行動変容を目的とした臨床心理学的視点、行動医学的視点でのアプローチが必要となる。加えて、活動水準の低下に関しては、抑うつをはじめとした心理的問題が背景にある場合も多く、そのような場合には心理社会的支援が求められる。そのため、ハイリスク者や対応困難者に対しては、医師、看護師、保健師、心理士など多職種がチームとなって連携したアプローチをすることが特に不可欠である。そして、被災者・避難者の健康増進を考える際には、個々人に対するアプローチに加えて、地域やコミュニティーに対するアプローチもまた非常に重要であり、いかに地域やコミュニティーを取り込んだアプローチができるかが長期におよぶ被災者・避難者の健康増進のカギとなる。

謝 辞

今回の大震災では、多大なるご支援をいただきました。ご協力くださいました関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

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