経済地理学年報
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特集論文
在外日本人のサービス消費
―バンコクにおける事例―
鍬塚 賢太郎
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2017 年 63 巻 1 号 p. 43-59

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抄録

    本稿では,国外に一時的に滞在する在外居住者を取り上げて,彼/彼女らのサービスの消費機会について検討を加える.「社会的交換」としての性格を強く持つサービスの特性は,そこに一時的に居住する日本人を対象とすることで,明確に捉えることができるからである.
    ホスト社会との関係から生まれる「認知的距離」の遠近と,サービスの「貯蔵も輸送もできない」という本来的な特性とが相俟って,ホスト社会では想定されないニッチなサービスへのニーズが在外居住者に生まれる.その規模が量的に拡大することで,ニーズの存在が顕在化する.これに対応して,ニーズを満たそうとする事業者が新たに登場する.
    かくして,もともとホスト社会には存在しない新たな「市場」が現地に生み出され,在外居住者にとっての「環境の保護膜」が形成される.こうした状況こそが,在外居住者の求める本国流のサービスの消費機会をホスト社会の中に確保することを可能とする.しかも,サービスの本来的な特性が,当該サービスの利用者と提供者それぞれの立地選択に大きな影響を及ぼす.つまり,両者の独特な関係に対して時間地理学の言う「制約」が働くために,在外居住者の空間的な「まとまり」が,ホスト社会の中に生み出されるのである.
    本稿では以上のような図式を,世界最大の在外日本人の居住地となったタイの首都バンコクにおいて,明確に見いだすことができることを示した.

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© 2017 経済地理学会
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