2018 年 7 巻 4 号 p. 171-175
本研究の目的は,運動習慣のある高齢者における転倒経験の有無と身体・認知・精神機能との関連について明らかにすることである。地域で開催された体力測定会に参加し,運動を習慣的に行っている60歳以上の高齢者158名を対象に,過去1年間における転倒経験の有無別に身体・認知・精神機能を二元配置分散分析で比較した。その結果,下肢筋力の指標とした30秒椅子立ち上がりテストは1年前よりも有意に向上し,その他の握力,長座体前屈距離,歩行能力,認知機能テスト,うつ尺度には年度の主効果は認められなかった。ただし,転倒群は非転倒群に比べて有意にうつ傾向にあり,その他の項目には有意な群の主効果は認められなかった。またカイ二乗検定の結果,1年前に転倒を経験した高齢者は転倒しやすいことが示された。さらに,転倒経験と精神機能を組み合わせてカテゴリー化した結果,転倒発生率は高リスク群が63%,低リスク群が10%であった。これらの結果から,高齢者が運動習慣を有することは転倒の有無に関わらず身体・認知・精神機能の維持に影響し,転倒は過去の転倒経験と精神機能の低下によって予測できる可能性が示された。