抄録
経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)の長期経過観察における留意点や予後について,自験例の成績を中心に概説する.TIPSにより門脈圧は40~50%低下し,静脈瘤出血に対する止血率は95%以上であった.合併症は肝性脳症を除くと10数%程度であるが,血管損傷を伴うものには致死的な場合もある.肝機能への影響は少ないが,高度な肝機能障害例では肝不全に移行する可能性がある.静脈瘤や腹水に対する効果はシャント機能に依存する.経過観察中,シャントの機能不全は40~70%と比較的高率に発生するが,経皮的血管形成術(PTA)で回復が可能で,超音波カラードップラ法(CDUS)などによる早期発見が重要である.長期予後は,最長6年以上の生存例もみられ,生存率は1年70%,3年60%,5年40%前後である.肝移植への移行例は本邦では少ないが,欧米では30%程度である.安全性の向上や適応の確立などの課題は残るが,本治療法は,難治性静脈瘤や難治性腹水の有効な治療手段の一つとして臨床的意義は高いと考えられる.