抄録
内視鏡直視下に胃粘膜の血流とpotential difference(以下PD)を部位,腺領域,胃底腺―幽門腺腺境界(以下腺境界)および萎縮性胃炎の存在に注目して測定した.腺領域,腺境界および萎縮性胃炎は内視鏡的Congo-red法により判定した. 部位による検討では,胃体部小彎は前庭部小彎よりも粘膜血流,PDともに高値であった. 腺領域別に,胃底腺領域と幽門腺領域の粘膜血流とPDを比較すると,胃底腺領域において幽門腺領域よりも粘膜血流とPDは高値であった. 萎縮性胃炎による粘膜血流とPDの変化を検討する目的で,萎縮性胃炎が認められず胃体下部が胃底腺領域であった症例と,萎縮性胃炎によって"幽門腺"領域となった症例とで粘膜血流とPDを比較検討した.胃底腺領域症例の粘膜血流は76.1±4.9ml/min./100g(mean±S.E.),PDは-25.8±1.6mV(mean±S.E.)に対して,幽門腺領域の症例ではそれぞれ50.8±4.3ml/min./100g,-12.4±1.3mVと,両者ともに有意に(P<0.01)低下していた. 以上より,粘膜血流およびPDの検討にあたっては,腺領域あるいは萎縮性胃炎の有無について考慮する必要があると考える. さらに,同一症例において,胃底腺領域,幽門腺領域および腺境界の3点の粘膜血流とPDを測定した.粘膜血流は胃底腺領域>幽門腺領域>腺境界の順で,腺境界で最低を示した.一方,PDは胃底腺領域>幽門腺領域≒腺境界であった.腺境界では粘膜血流が低下しており,腺境界に胃潰瘍が好発することからみても興味ある所見であり,腺境界に関する検討は今後とも試みられなければならない重要課題と考える.