抄録
内視鏡的に陥凹型早期胃癌と診断した8症例8病巣に,外科手術前に内視鏡的Nd:YAGレーザー光を照射し,切除標本の病理組織学的検索を試みた.病巣のほぼ全体にレーザー照射し得たものは4病巣で,これらはすべて内視鏡的にm癌と診断したものである.これらの切除胃の病理組織学的検索では,直径1cm以下の微小IIc型癌と考えた1例は癌の根治をみた.他の3例ではレーザー潰瘍の1部辺縁に僅かにmに留まる癌の遺残がみられ,陥凹型早期胃癌の正確な病巣範囲把握の困難性を示唆したが,これらはレーザー追加照射にて根治は可能と考えた.またレーザー部分照射をした4症例4病巣は,内視鏡的にsmと考えたもの3例,病巣範囲の直径が3cm以上とみたm癌の1例である.sm癌と診断した3病巣の切除胃の病理学的検索では,レーザー潰瘍下のsmに厳然として癌の遺残がみられた.即ちsm深部にまで癌が浸潤しているものに対する局所根治を狙ってのNd:YAGレーザー治療には限界があると考えられた.一方,浸潤範囲の広いm癌の摘出胃の病理学的検索ではレーザー潰瘍下に癌はみられなかったが,追加照射をしても局所根治をし得るとの確信は持てなかった.なお,これら8症例すべてに他臓器への転移もリンパ節転移も認めなかった.以上より,内視鏡的Nd:YAGレーザー照射を用いて局所根治を得る可能性のある陥凹型早期胃癌は,例外もあるであろうが,深達度がせいぜいsm上部までのもので,病巣の長径が3cm以下のものと考えた.なお,レーザー照射後の合併症として1例に吐下血をみているが重篤なものではなかった.また1例にレーザー照射の影響と思われる固有筋層の断裂をみたことより,胃壁の1点に対する過剰なレーザー照射は避け,レーザープローブ先端出力は50W以下で,0.5~1.0秒間の間歇照射とすべきと考えた.