抄録
症例は26歳男性.幼時肺結核の叔父と同居.既往歴は虫垂切除,痔瘻根治手術.上肺野に空洞を伴う肺結核患者で,下痢を伴い,喀痰中結核菌はガフキー8号であった.1979年5月入院し,抗結核剤投与2週間目頃より心窩部痛,食後嘔吐を訴え,上部消化管X線検査により十二指腸下行部に強い輪状狭窄を認めた.内視鏡的に狭窄部に潰瘍を認め,その口側は発赤した陥凹面が輪状にとり巻き,陥凹面内に乳頭開口部を認めた.本症例はX線的に,黒丸IV型に相当する小腸結核の特徴をそなえており,回盲部より横行結腸にも結核性病変を認めた.抗結核剤使用にて下痢はすみやかに改善し,諸検査所見の好転をみた. 近年十二指腸結核の報告は少ない.今回抗結核剤の進歩と結核対策の浸透した1955年を境として,前後を文献上から比較した.1955年以後では高齢化がみられ,占居部位では乳頭肛門側か水平部に多くみられた.