日本消化器内視鏡学会雑誌
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切除可能肝門部領域胆管癌に対する内視鏡的胆道ドレナージと経皮経肝的胆道ドレナージ術の多施設共同無作為化比較試験
河上 洋
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2018 年 60 巻 12 号 p. 2548

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【試験デザインおよび目的】本試験はオランダのhigh volume center 4施設で行った切除可能肝門部領域胆管癌(BpBDC)に対する内視鏡的胆道ドレナージ(EBD)と経皮経肝的胆道ドレナージ術(PTBD)の無作為化比較試験である(Netherlands National Trial Register, number NTR4243).両手技における重症偶発症の発生率を検討した.

【方法】選択基準は,1)18歳以上,2)広範肝切除の適応,3)予定残肝領域の胆管閉塞,4)総ビリルビン値>2.9mg/dLであり,EBD:PTBD=1:1で割付した.割付調整因子は,1)初回胆道ドレナージ法,2)胆管浸潤,3)施設とした.主要評価項目は重症偶発症(追加の侵襲的処置,入院を要する偶発症,死亡)の発生率.Intention-to-treat(ITT)解析で割付後から外科切除後までを解析した.

【結果】2013年9月~2016年4月までの期間中,スクリーニング後の54例を登録した(各群27例).中間解析により術前重症合併症の頻度はEBD群とPTBD群の両群間で有意差はないものの(67% vs 63%,P = 0.78,相対危険度0.94),術前致死率がPTBD群はEBD群より高く(11% vs 0%,P = 0.24),本試験は中止となった.重症偶発症のうち両群ともに胆管炎が最も高頻度(EBD群vs PTBD群=37% vs 59%,P = 0.1)であった.PTBD群の術前死亡となった3例の詳細は,胆管炎由来の敗血症→肝不全,消化管出血→循環血液量減少性ショック,治療抵抗性胆管炎→安楽死,であった.術後偶発症(90日以内)はEBD群 vs PTBD群で有意差はなかった(55% vs 65%,P = 0.49,相対危険度1.19).

《解説》

本試験はPTBD群で術前死亡例がみられ中止となった.EBD群は内視鏡的胆道ステンティング(EBS)を施行しているものと思われる.著者はTypeⅠエラーの可能性を指摘している.PTBD群の死因に致死的胆管炎がみられたこと,両群ともに抗菌剤の使用状況が未記載であること,EBSが行われていることなどより,その解釈には注意を要する.欧米ではBpBDCには術前ドレナージは不要とする意見が根強い.しかし,肝切除併施例が少ないこと,胆道ドレナージ法が一定していないこと,などより結果をそのまま受け入れることはできない.BpBDCは術後合併症や死亡率は依然として高く,死因として肝不全が最も多いこと,術前の胆管炎の存在は広範囲肝切除後の在院死亡と関連すること,などより本邦の胆道癌診療ガイドラインでは広範肝切除例に対する術前の内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)による残存予定側の片葉ドレナージが推奨されている.本試験の結果は本邦のBpBDC診療には影響を与えないと思われる.しかし,ENBDであっても致死的胆管炎が生じうるため,今一度われわれ内視鏡医は注意しなければならない.以下に注意点を挙げる.胆道ドレナージ施行前に胆道外科医と十分に相談すること,胆道解剖に熟知した内視鏡医が施行すること,造影による非ドレナージ領域への胆管炎発症に最大限の注意を払うこと,ERCP後膵炎に注意すること,内科・外科ともに胆道専門医が不在な場合は専門施設へ移送すること,である.現在,本試験同様にEBD vs PTBD群によるINTERCPT trial(NCT03172832)が行われている.主要評価項目は異なるが,その結果報告が待たれる.BpBDC診療で世界をリードする本邦ではPTBDを含めた前向き比較試験の立案は困難である.しかし,一方では本邦発の主要評価項目を吟味したEBD(ENBD vs EBS or Inside EBS)の前向き比較試験の機が熟した,と言って良いのかもしれない.

文 献
  • 1.   Coelen  RJS,  Roos  E,  Wiggers  JK et al. Endoscopic versus percutaneous biliary drainage in patients with resectable perihilar cholangiocarcinoma:a multicentre, randomised controlled trial. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2018 Aug 16. pii:S2468-1253(18)30234-6. doi:10.1016/S2468-1253(18)30234-6.
 
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