日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
胃十二指腸潰瘍を契機に診断されたCrohn病の2例
祢津 寧子 大原 秀一大原 祐樹斎藤 紘樹清水 貴文半田 朋子齋藤 晃弘白木 学小島 康弘岩間 憲行
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キーワード: Crohn, 胃潰瘍, 十二指腸潰瘍
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2018 年 60 巻 12 号 p. 2505-2511

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要旨

症例1は38歳女性.心窩部痛で近医を受診し,Proton Pump Inhibitor(以下PPI)内服後も症状改善せず,1カ月後上部消化管内視鏡(以下EGD)を施行.胃内多発潰瘍認め,生検はgroup1であった.PPI増量で寛解したが,Helicobacter pylori(以下H. pylori)抗体陰性と非典型的なため,当院紹介となった.当院EGDで穹隆部から胃体部に小顆粒状粘膜を伴う瘢痕を認め,生検で肉芽腫が検出された.結核やサルコイドーシスなど否定の後,下部消化管内視鏡(以下TCS)施行.上行結腸に多発アフタ認め,生検での非乾酪性肉芽腫からCrohn病(以下CD)と確定診断した.症例2は30歳男性.十二指腸潰瘍でH. pylori除菌療法施行後だが,今回心窩部痛有り,近医EGDで十二指腸潰瘍認め,H. pylori血清抗体陰性で当院紹介.球部下壁に潰瘍,前庭部・十二指腸下行脚にびらんを認めた.痔瘻の既往からCDも念頭にTCS施行し,びらん,アフタ認め,生検で肉芽腫が検出され,CDと確定診断した.H. pylori陰性胃十二指腸潰瘍についてはCDの可能性も念頭に問診,諸検査を施行する事が重要である.

Ⅰ 緒  言

炎症性腸疾患の1つであるCrohn病(以下CD)は口腔から肛門まで全消化管のあらゆる部位に病変ができるとされている.しかし一方で,上部消化管内視鏡検査を契機として診断されるものは比較的稀である.

今回,われわれはH. pylori陰性の難治性胃十二指腸潰瘍からCDの診断に至った2例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

【症例1】

患者:38歳,女性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:21歳 ブドウ膜炎.

現病歴:当院紹介の2カ月前に心窩部痛出現し,近医でランソプラゾール15mg/日を4週間処方されるも症状改善せず,当院初診の1カ月前に今回の紹介元病院で上部消化管内視鏡(以下EGD)が施行され,胃体中部後壁に白苔を伴う潰瘍病変,穹窿部から体部の大彎中心に多発潰瘍瘢痕を認めた.ランソプラゾールを15mg/日から30mg/日へ増量され,2週間後のEGDでは潰瘍縮小し,症状も消失した.初回生検ではGroup1の結果であったが,非ステロイド性抗炎症薬(以下NSAIDs)内服歴はなく,H. pylori IgG抗体陰性と通常の消化性潰瘍としては非典型的なため,当院紹介となった.

検査所見:WBC 6,300/mm3,RBC 422×104/mm3,Hb 12.3g/dL,Plt 25.7×104/mm3,CRP 0.04mg/dL,TP 7.0g/dL,Alb 4.4g/dL,T-cho 171mg/dL.

当院初診時EGD所見:内視鏡的には胃粘膜萎縮は認めず,胃穹窿部から体下部大彎に軽度の襞集中を伴う多発白色瘢痕を認め,顆粒状粘膜隆起を伴う瘢痕もみられた.胃体中下部後壁の,前医で活動性潰瘍を認めた部位には,襞集中を伴う比較的広い瘢痕を認めた.瘢痕内に大小の発赤顆粒状粘膜隆起を認め,瘢痕周囲には小顆粒状粘膜隆起と白苔を伴う小びらんの散在もみられた.前庭部から十二指腸球部,下行脚には特に異常所見は認めなかった(Figure 1-a,b).

Figure 1 

症例1 上部消化管内視鏡所見.

a:胃穹窿部に多発する小顆粒状粘膜を伴う瘢痕を認めた.

b:胃体中部後壁に比較的広い潰瘍瘢痕を認め,瘢痕内に顆粒状粘膜隆起と瘢痕周囲に白苔を伴う小びらんの散在もみられた.

c:病理組織所見.体中部後壁の瘢痕に非乾酪性肉芽腫を認めた(矢印).

病理組織学的所見:体中部後壁の瘢痕部から計7個の生検を行い,5個に微小な非乾酪性肉芽腫または非乾酪性肉芽腫を疑う所見を認めた.(Figure 1-c)この時点で,胃における肉芽腫性疾患として,梅毒,結核,サルコイドーシス,CD等が鑑別疾患として考えられた.梅毒に関しては.TP抗体定性(-),RPR定性(-),結核に関しては,ツベルクリン反応(-),クオンティフェロン検査(-)で,生検のZiehl-Neelsen染色でも陰性であった.サルコイドーシスについては,21歳時にブドウ膜炎の既往があるため可能性を考えたが,眼病変は認めず,胸部レントゲン検査,CT検査でも,肺門・縦隔リンパ節腫大や肺野病変を認めなかった.また,採血上も血清ACE 18.5U/I,Ca 9.0mg/dlと上昇を認めなかった.

これまで下痢等の症状は無く,EGDでも竹の節状所見やnotch状所見などは認めなかったが,CDの鑑別目的に下部消化管内視鏡(以下TCS)を施行した.

下部消化管内視鏡:回腸末端から上行結腸にかけて多発びらんを認め,発赤隆起の散発を認めた.

回腸末端の発赤びらんから生検施行し,1点から肉芽腫を強く疑う所見を認めたが,確定診断には至らなかった.盲腸の小びらん伴う発赤隆起からの生検では杯細胞の減少と好酸球を交えた小円形細胞の浸潤を認めた.その後の小腸造影検査では,縦走潰瘍などの明らかな所見を認めなかった.

その後,ラフチジン10mg/日を現在に至るまで継続投与されているが,自覚症状・潰瘍とも再発は見られなかったものの,当院初診3カ月後から肛門痛や下痢などの症状が見られたため,CDを強く疑い,5-アミノサリチル酸製剤(以下5-ASA製剤)を開始したところ,症状は改善した.2年後に施行した下部消化管内視鏡では,バウヒン弁上に発赤びらんを認め,盲腸から上行結腸には多発するアフタを認めた.バウヒン弁上のびらんと盲腸のアフタからの生検でラングハンス型巨細胞からなる肉芽腫を認め,CDと確定診断した(Figure 2).

Figure 2 

症例1 病理組織所見.

Bauhin弁上のびらんからはLanghans型巨細胞主体の肉芽腫が認められた.

【症例2】

患者:30歳,男性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:25歳 十二指腸潰瘍,H. pylori除菌.

現病歴:5年前に十二指腸潰瘍で近医にて治療し,H. pylori除菌療法を施行した.今回,2カ月前から心窩部痛持続し,近医を受診した.EGD施行したところ十二指腸球部下壁に潰瘍の再発を認めた.NSAIDs内服はなく,ランソプラゾール30mg/日投与で一時症状は消失するも,1カ月後に症状再発し,H. pylori IgG抗体陰性のため,当院紹介となった.

検査所見:WBC 5,400/mm3,RBC 550×104/mm3,Hb 15.9g/dL,Plt 24.2×104/mm3,赤沈1時間値5mm,CRP 0.73mg/dL,TP 7.4g/dL,Alb 4.2g/dL,T-cho 137mg/dL,Fe 51μg/dL,ツ反(-).

上部消化管内視鏡:当院EGDで十二指腸球部下壁に白苔に覆われた不整形潰瘍を認め,幽門部と十二指腸下行脚に白苔を伴うびらんを認めた(Figure 3-a~c).

Figure 3 

症例2 上部消化管内視鏡所見.

a:胃幽門前部に多発びらんを認めた.

b:十二指腸球部下壁に潰瘍を認めた.

c:十二指腸下行脚にびらんを認めた.

d:噴門部から体上部の小彎に竹の節様所見を認めた.

この時点では炎症性腸疾患を積極的に疑う症状も無かったため,生検は未施行であったが,後の画像見直しの結果,噴門部から体上部にかけて小彎側に軽度の竹の節様所見も指摘可能であった(Figure 3-d).EGD終了後の問診において,痔瘻で切開を受けた既往があったため,炎症性腸疾患の可能性も考え,TCSを施行した.

下部消化管内視鏡:回腸末端にびらん,バウヒン弁に潰瘍,S状結腸にアフタを認めた.各々から生検し,回腸末端のびらん,S状結腸のアフタからの生検で,粘膜固有層に非乾酪性肉芽腫が検出され,CDと確定診断した(Figure 4)

Figure 4 

症例2 病理組織所見.

S状結腸のアフタからの生検で,粘膜固有層に非乾酪性肉芽腫を認めた.

初回検査の後,心窩部痛の症状は改善傾向であり,1年後のEGD所見で十二指腸球部潰瘍は改善傾向であった.しかしながら,初診時より痔瘻による肛門からの排膿と,1日1行の水様性下痢は持続したため,アダリムマブを導入し,その後症状は寛解傾向となった.症状寛解後の下部消化管内視鏡検査については本人の同意を得られず,施行できなかった.

Ⅲ 考  察

CDの上部消化管病変は,1937年にGottliebら 1が報告し,口腔から肛門までの全消化管のあらゆる部位に病変ができるとされている.本邦では1980年代以降,上部消化管病変に関する画像診断,その経過についての多くの報告がなされ,その頻度は決して低くないことが明らかとなった.胃において特徴的とされる病変は,胃噴門部小彎の竹の節状外観,前庭部中心のびらん,H. pylori陰性の胃潰瘍などがあり,十二指腸では,びらん・アフタ様病変,潰瘍,びらん,notch状外観,数珠状隆起など多彩な病変が,主に球部〜第2部に見られるとされる 2.渡らによると,胃におけるびらん・潰瘍性病変は35.9%(78例中28例)に見られており 3,古賀らの報告では胃潰瘍は7%に認められたとされている 4.Matsumuraらは,CD患者の胃十二指腸病変形成にH. pylori感染の関与は少ないが,胃潰瘍に関しては,H. pylori感染はその増悪因子と成り得ることを報告している 5

CD患者において上部消化管病変の頻度が低くはないとされる一方で,EGDを契機として診断されるCDは比較的稀である.H. pylori感染がなく,低用量アスピリンを含めたNSAIDs内服歴のない胃十二指腸潰瘍患者のうち,CDと診断される症例がどのくらいいるのかについて,PubMed,医学中央雑誌で1991年から2017年までの期間,「非H. pylori,非NSAIDs,胃十二指腸潰瘍,Crohn病あるいはnon H. pylori, non NSAIDs,gastroduodenal ulcer,Crohn’s disease」をキーワードに検索した限りでは,記述されている文献は見当たらなかった.

1985年から2016年の期間内で医学中央雑誌において「Crohn,契機」として検索し,診断の契機となった病変について集計した.全181例の症例報告の中で,胃十二指腸潰瘍が診断契機となった報告は,自験例含め,6例であった.H. pylori感染の有無,NSAIDs使用の有無についてはほとんど記載がなく,1例(頼岡ら 12)のみH. pylori陽性のために除菌療法を施行していた(Table 1).

Table 1 

胃十二指腸潰瘍を契機に診断されたCrohn病の本邦報告例(自験例を含む).

消化性潰瘍の二大原因はH. pylori感染とNSAIDsである 6.Kannoらによると,胃十二指腸潰瘍がどちらの原因にも当てはまらない場合,悪性潰瘍の除外はもちろん必要であるが,その他ガストリノーマやウイルス感染(サイトメガロウイルスなど),Crohn病,Helicobacter heilmanniiや胃梅毒などの感染,好酸球性胃腸症,頭部外傷(Cushing潰瘍)や全身熱傷(Curling潰瘍)などの身体的ストレス,災害時精神的ストレスなどが挙げられる 7.日本における特発性潰瘍の割合は12%とされ,近年H. pylori感染率の減少などにより,増加傾向とされる.この特発性潰瘍は再発率が高く,糖尿病や高血圧,脂質異常症などの併存疾患がリスクファクターとされている 7

今回の2例はいずれもH. pylori陰性でNSAIDs内服歴はなかった.その点が非典型的であったため,再度問診を施行し,詳細な検査を追加することによって,CDの確定診断に至ることができた.2例とも難治性であり,リスクファクターとなるような既往歴はないものの,H. pylori陰性でNSAIDs内服歴はなかった.このことから,H. pylori陰性でNSAIDs内服歴のない患者における胃十二指腸潰瘍では,下痢などの下部消化管症状がみられない場合も,CDを念頭においた問診・検査も重要と考えられた.

CDの胃十二指腸病変については,CDの活動性とは関連しないとする報告が多い 3),8),9.今回も症例1については胃病変が改善傾向を示した後も,下痢などの症状が見られ,5-ASA製剤投与によって症状寛解が見られたが,2年後のTCSでは多発アフタを認めた.その間,多発胃潰瘍は瘢痕化し,増悪を認めなかった.症例2については初回検査の後,心窩部痛の症状は改善し,1年後の上部消化管内視鏡所見では十二指腸球部潰瘍も改善傾向であった.一方で,初診時より痔瘻による肛門からの排膿と1日1行の水様性下痢は持続し,アダリムマブ導入後に寛解傾向となった.本症例においても,胃十二指腸病変と下部消化管症状はそれぞれ独立した経過を辿っていると考えられた.

Ⅳ 結  語

胃十二指腸潰瘍が契機となって診断されたCDの2例を報告した.非H. pylori,非NSAIDsの胃十二指腸潰瘍については下痢などの下部消化管症状がみられない場合も,炎症性腸疾患を念頭に置く必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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