FISH GENETICS AND BREEDING SCIENCE
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Original
Survival, growth, and fertility of three -subspecies F2 hybrids among amago salmon, biwa salmon, and masu salmon
Tetsuji MASAOKATsubasa UCHINOAkiyuki OZAKIHiroyuki OKAMOTOAtsushi FUJIWARAKazuo ARAKI
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2023 Volume 52 Issue 1 Pages 21-33

Details
Abstract

In salmonids, hybrids derived from three -species or subspecies may be new breeding resources because hybrids between two salmonid species have been observed to reach maturity. However, the characteristics of three -species or -subspecies hybrid are unknown. Thus, we produced four families of three -subspecies F2 hybrids by artificially crossbreeding F1 hybrids (amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) × biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.)) and F1 hybrids (amago salmon × masu salmon (Oncorhynchus masou masou)). We bred the three -subspecies F2 hybrids in fresh water for two years and we investigated their survival, growth, and fertility. The survival rates at hatching and from 5 to 12 months after fertilization were from 84.1 to 95.1% and from 97.2 to 98.8%, respectively, for four families of the three -subspecies F2 hybrids. The body weights and body lengths 12 months after fertilization were from 214.8 to 248.2 g and from 23.4 to 24.1 cm, respectively, for four families of the three -subspecies F2 hybrids. The percentage of mature individuals 24 months after fertilization were from 97.6 to 100.0% for four families of the three -subspecies F2 hybrids. Furthermore, we produced three -subspecies F3 hybrids by crossing four families of the three -subspecies F2 hybrid female and male with more than about 1.5 kg or 1.0 kg body weight, respectively. These results indicate three -subspecies hybrids will be useful as new salmonid breeding resources.

Translated Abstract

アマゴとビワマスの F1 及びアマゴとサクラマスの F1 の雌と雄を交配して、理論上アマゴとビワマス及びサクラマスのゲノムの一部を有する3亜種間雑種 F2 を4家系作出し、生残性、成長、成熟を調査した。3亜種間雑種 F2 の孵化率や受精後5ヶ月から12ヶ月までの生残性はアマゴと同等であった。また、受精後12ヶ月の平均体重は214.8~248.2 g、平均体長は23.4~24.1 cm であった。受精後12ヶ月に早熟個体と体重約200 g 以下の個体、受精後約18ヶ月に体重約500 g 以下の個体を除去したところ、生残した個体の受精後約24ヶ月の平均体重は1,442.6~1,720.5 g、平均体長は41.9~43.2 cm で、体重 2 kg 以上の個体も見られた。97.7~100.0%の個体が受精後約24ヶ月で成熟し、3亜種間雑種 F3 を作出できた。以上から、3亜種間雑種 F2 の生残性や成長及び妊性に問題はなく、新しい国産養殖用サケ科魚類として利用できる可能性があると考えられた。

サケ科魚類の生食の人気が高まり、養殖タイセイヨウサケ(Salmo salar)、トラウトサーモンと呼ばれる海面養殖ニジマス(Oncorhynchus mykiss)が輸入されている。また、スペシャルサーモンとも呼ばれるご当地サーモンも国内の地域ブランドとして根付いている 1)。今後も、健康ブームや生産効率の高さ等から、生食用を含めサケ科魚類の消費は世界的に拡大し、養殖生産量も高まると見込まれている。このような背景から、国内のサケ科魚類養殖は、海外産のタイセイヨウサケや海面養殖ニジマスと差別化し、ブランド力を高めて国内外市場を拡大する可能性がある。しかし、ご当地サーモン等の多くは外来種のニジマスを利用しており、海外産養殖ニジマスとの差別化が難しい。このため、タイセイヨウサケやニジマスのような海外産養殖サケ科魚類と差別化できる新しい養殖用サケ科魚類が求められている。また、サケ科魚類の養殖形態が、淡水養殖や海面養殖、陸上養殖等と多様化しつつあることから、それぞれの養殖形態に適した養殖用サケ科魚類が必要になると考えられる。例えば淡水飼育で成長が良い、海水飼育で成長が良い、高水温に強い等の特性を有する養殖用サケ科魚類が必要になると予想される。

サケ科魚類では、雑種強勢を期待して様々な組み合わせで異種間又は亜種間雑種や異質3倍体が作出されてきた 2-4)。サケ科魚類の異種間雑種の多くは生存性が無い或いは低いといった雑種弱勢を示したが、カワマス(Salverinus fontinalis)雌×イワナ(Salverinus leucomaensis)雄の雑種 F1、ブラウントラウト(Salmo trutta)雌×カワマス雄の雑種 F1 等の一部の雑種は生残性や成長が良いという特性を示している5-9)また、交雑して得た受精卵の第2極体放出阻止や4倍体と2倍体の異種間交雑により作出した異質3倍体が養殖利用されている 10-13) 。このうち、在来のサケ科魚類であるアマゴ(降海型はサツキマスとする)(O. masou ishikawae)、ヤマメ(降海型はサクラマスとする)(O. masou masou)及びビワマス(O. masou subsp)は亜種関係にあると考えられており14-16)、これらの亜種間では人工授精により後代が得られることが確認されている 17,18)。また、アマゴは朱点を持ち約20℃の比較的高い水温でも生息できることや、ビワマスは琵琶湖固有で希少価値があり淡水でも大型になること、ヤマメは降海して大型のサクラマスになることが知られている 14-16) 。さらに、アマゴ、ビワマス及びヤマメ(サクラマス)は食味が良いとされている 14-16)。このため、これらを亜種間交雑することにより、3亜種の優良形質を兼ね備えた新しい国産養殖用サケ科魚類(亜種間雑種)が得られると期待される。しかし、アマゴ、ビワマス及びサクラマスの2亜種間の交雑による亜種間雑種(以降2亜種間雑種)は作出されているが 17,18)、これらの異なる2亜種間雑種の交雑による亜種間雑種(以降3亜種間雑種)の作出は報告されていない。

そこで、アマゴとビワマスの2亜種間雑種 F1 とアマゴとサクラマスの2亜種間雑種 F1 を交配し、アマゴとビワマス及びサクラマスの3亜種間雑種 F2 を作出した。この場合、3亜種間雑種 F2 は、アマゴ由来のゲノムを1/2,ビワマス由来のゲノムを1/4,サクラマス由来のゲノムを1/4の割合で有すると考えられる。本研究では、この3亜種間雑種 F2 の孵化率や受精後約12ヶ月までの生残性と成長、受精後約24ヶ月での大きさと成熟を調査した。

材料と方法

アマゴ、ビワマス及びサクラマス

本研究の材料に使用したアマゴ、ビワマス及びサクラマスの由来については、詳細不明であるが、アマゴは岐阜県、奈良県及び三重県の複数の産地のアマゴを複数世代にわたり交配し、増養殖研究所(当時)玉城庁舎で継代飼育した個体を用いた。ビワマスは琵琶湖産で、玉城庁舎で継代飼育した個体を使用した。サクラマスは北海道の尻別川由来で、中央水産研究所(当時)日光庁舎で継代飼育し、発眼卵を輸送して増養殖研究所(当時)玉城庁舎で飼育した個体を使用した。

2亜種間雑種 F1 の作出

本研究ではアマゴを A、ビワマスを B、サクラマスを C とし、アマゴ(A)雌×ビワマス(B)雄の交配で作出した2亜種間雑種 F1 を AB、アマゴ(A)雌×サクラマス(C)雄の交配で作出した2亜種間雑種 F1 を AC のように表す。2015年に作出したアマゴ(2015年世代)雌11個体(平均体重286.7 g、平均体長24.4 cm)と雄34個体(平均体重303.1 g、平均体長26.7 cm)、ビワマス(2015年世代)雌12個体(平均体重282.0 g、平均体長25.7 cm)と雄5個体(平均体重199.8 g、平均体長23.8 cm)、サクラマス(2014年世代)雄2個体(平均体重715.5 g、平均体長36.3 cm)を親魚に用いた。2017年10月25日及び11月1日に、アマゴ雌とビワマス雄の2亜種間雑種 F1(AB)、ビワマス雌とアマゴ雄の2亜種間雑種 F1(BA)、アマゴ雌とサクラマス雄の2亜種間雑種 F1(AC)を作出した(Fig. 1)。また、3亜種間雑種 F2 と生残、成長および成熟を比較するために必要なアマゴ(2019年世代)の親を確保するため、2015年に作出したアマゴ(2015年世代)雌30個体(平均体重389.0 g、平均体長26.6 cm)の卵と上記雄34個体を用いてアマゴ(2017年世代)を作出した。なお、親魚の死亡によりサクラマス雌を用いた交配は実施できなかった。

Fig. 1. Generation scheme for four families of three-subspecies F2 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.) abbreviated as B, and masu salmon (Oncorhynchus masou. masou) abbreviated as C.

3亜種間雑種 F2 の作出

本研究では、3亜種間雑種 F2 は2亜種間雑種 F1 の BA 雌と BC 雄との交配によって作出したものは BABC のように表した。2019年10月23日に各2亜種間雑種 F1 の大型で成熟した雌と雄から得た配偶子を用いて人工授精し、3亜種間雑種 F2 を4家系作出した。家系1では2亜種間雑種F1(BA)雌10個体(平均体重1,281.7 g、平均体長39.7 cm)と2亜種間雑種 F1(AC)雄10個体(平均体重1,115.0 g、平均体長40.7 cm)の配偶子を用いて人工授精し、3亜種間雑種 F2(BAAC)を作出した(Fig. 1)。家系2では2亜種間雑種 F1(AB)雌10個体(平均体重1,213.5 g、平均体長39.5 cm)と上記2亜種間雑種 F1(AC)雄10個体の配偶子を用いて人工授精し、3亜種間雑種 F2(ABAC)を作出した(Fig. 1)。家系3では2亜種間雑種 F1(AC)雌10個体(平均体重1,343.2 g、平均体長40.7 cm)と2亜種間雑種 F1(BA)雄10個体(平均体重980.9 g、平均体長38.0 cm)の配偶子を用いて人工授精し、3亜種間雑種 F2(ACBA)を作出した(Fig. 1)。家系4では上記2亜種間雑種 F1(AC)雌10個体と2亜種間雑種 F1(AB)雄8個体(平均体重829.5 g、平均体長35.3 cm)の配偶子を用いて人工授精し、3亜種間雑種 F2(ACAB)を作出した(Fig. 1)。アマゴ(2019年世代)は2019年10月24日にアマゴ(2017年世代)の大型個体を選抜し、雌31個体(平均体重932.4 g、平均体長35.8 cm)と雄31個体(平均体重814.9 g、平均体長35.6 cm)の配偶子を用いた人工授精により作出した。また、2019年10月17日と30日においても、それぞれ雌20個体と雄 3 個体、雌雄各14個体を用いた人工授精によりアマゴ(2019年世代)を作出した。

飼育方法(F1 及び F2

受精卵は屋内の孵化槽内に設置した網カゴ(16 cm×24.5 cm×10.5 cm または30 cm×24.5 cm×10.5 cm)に収容し、水温約14~16℃で培養した。浮上した稚魚期以降は、毎日手蒔きによる飽食給餌を行った。3亜種間雑種 F2 は孵化後約1ヵ月の稚魚を網カゴから屋内の200 cm 水槽に移した。アマゴ(2019年世代)については、孵化後約1ヵ月に大型の稚魚を約800個体選抜して網カゴから屋内の60 cm 水槽4個に移し、1水槽あたり約200個体として飼育を継続した。飼育期間中は週5~7日で自動給餌器と手蒔きによる飽食給餌を行った。孵化後約5ヵ月である翌年の3月末に、屋内の200 cm 水槽及び60 cm 水槽で飼育した3亜種間雑種 F2 及びアマゴ(2019年世代)を屋外のコンクリート飼育池(9.9 m×2.4 m×水深約1.0 m、約24 t)に移動した。3亜種間雑種 F2 は生残した個体全てを家系ごとに4個の上記屋外飼育池で飼育を開始し、アマゴ(2019年世代)は大型の約400個体を選抜・混合し、ほぼ同数の2群に分けて2個の上記屋外飼育池で飼育を開始した。飼育期間中は週4~5日で手蒔きによる飽食給餌を行った。なお、2020年5月~2021年4月における上記屋外飼育池の月別平均水温は14.0~19.3℃であった。

3亜種間雑種 F2 の成熟の確認と選抜

3亜種間雑種 F2 及びアマゴ(2019年世代)は受精してから約12ヶ月が経過した2020年10月に、体重と体長を測定するとともに、体色と吻部の形状から第二次性徴を目視で確認し、腹部を圧迫して排卵、排精を確認して成熟雌と雄を判断した。飼育施設の規模の制限から全ての個体を継続して飼育できないため、選抜により一部の個体を残し、それ以外は殺処分した。将来的な養殖利用も想定し、サツキマス(アマゴ)では受精後2年目の冬期 4ヶ月の海面飼育で体重が約5倍になること、海面飼育後の出荷サイズは 1 kg 以上であること、早熟個体は海水馴致が困難であること、を考慮して選抜することにした。そこで、体色が銀白色で性別不明の個体のうち、体重が約200 g 以上の個体を選抜して継続飼育した。さらに、受精後2年目の冬期の成長不良個体を除去するため、2021年4月に体重500 g 以上の個体を選抜した。受精してから約24ヶ月が経過した2021年10月21~28日に、各個体の体長と体重を測定した。また、体色と吻部の形状から第二次性徴を目視で確認するとともに、腹部を圧迫して排卵、排精を確認して成熟雌と雄を判断した。

3亜種間雑種 F3 の作出

3亜種間雑種 F3 が得られるか確認するため、2021年10月29日に3亜種間雑種 F2 を交配した(Fig. 2)。なお、3亜種間雑種 F3 のゲノム組成が家系間で等しくなり、遺伝的多様性も高くなると予想される組み合わせで3亜種間雑種 F2 を交配した。この3亜種間雑種 F3 は、理論上アマゴ雌由来のゲノムを3/8、アマゴ雄由来のゲノムを1/8、ビワマス雌由来のゲノムを1/8、ビワマス雄由来のゲノムを1/8、サクラマス雄由来のゲノムを1/4有する。3亜種間雑種 F3 は4家系作出した。3亜種間雑種 F3 の家系1は3亜種間雑種 F2 家系2(ABAC)雌10個体と3亜種間雑種 F2 家系4(ACAB)雌5個体、3亜種間雑種 F2 家系1(BAAC)雄 1 個体と3亜種間雑種 F2 家系3(ACBA)雄9個体の配偶子を用いて人工授精した受精卵と、3亜種間雑種 F2 家系 3(ACBA)雌6個体、3亜種間雑種 F2 家系 2(ABAC)雄2個体と3亜種間雑種 F2 家系4(ACAB)雄8個体の配偶子を用いて人工授精した受精卵を混合して作出した(Fig. 2a)。3亜種間雑種 F3 の家系2は3亜種間雑種 F2 家系2(ABAC)雌2個体と3亜種間雑種 F2 家系4(ACAB)雌 4 個体、亜種間雑種 F2 家系3(ACBA)雄2個体の配偶子を用いて人工授精した受精卵と、亜種間雑種 F2 家系3(ACBA)雌 2 個体、3亜種間雑種 F2 家系2(ABAC)雄 1 個体と3亜種間雑種 F2 家系4(ACAB)雄 1 個体の配偶子を用いて人工授精した受精卵を混合して作出した(Fig. 2b)。3亜種間雑種 F3 の家系3は3亜種間雑種 F2 家系1(BAAC)雌10個体、3亜種間雑種 F2 家系2(ABAC)雄2個体と3亜種間雑種 F2 家系4(ACAB)雄8個体の配偶子を用いた人工授精により作出した(Fig. 2c)。3亜種間雑種 F3 の家系4は3亜種間雑種 F2 家系1(BAAC)雌2個体、3亜種間雑種 F2 家系2(ABAC)雄 1 個体と3亜種間雑種 F2 家系4(ACAB)雄 1 個体の配偶子を用いた人工授精により作出した(Fig. 2d)。アマゴ(2021年世代)は、2021年10月28日に雌21個体と雄15個体の配偶子を用いた人工授精と、雌 4 個体と雄 4 個体の配偶子を用いた人工授精により作出した。また、2021年10月21日においても、雌10個体と雄 6 個体を用いた人工授精によりアマゴ(2021年世代)を作出した。各受精卵は屋内の孵化槽内に設置した網カゴに収容し、水温約14~16℃で培養した。

Fig. 2. Generation scheme for four families of three-subspecies F3 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.) abbreviated as B, and masu salmon (Oncorhynchus masou. masou) abbreviated as C. The numbers in parentheses are those of individuals used for crossbreeding.

結  果

3亜種間雑種 F2 の生残

3亜種間雑種 F2 の家系1~4の孵化率は、それぞれ95.1%、84.1%、85.3%、87.1%であった(Table 1)。また、アマゴ(2019年世代)の3交配区の孵化率は、それぞれ81.8%、86.1%、91.3%であった(Table 1)。一方、3亜種間雑種 F2 の家系1~4における屋外飼育池で飼育した受精後5ヶ月~12ヶ月の生残率は、それぞれ98.8%、97.3%、98.5%、97.2%であった(Table 2)。また、アマゴ(2019年世代)では98.2%であった(Table 2)。

Table 1. Survival rates of hatchings of three-subspecies F2 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.) abbreviated as B, and masu salmon (cherry salmon) (Oncorhynchus masou masou) abbreviated as C

Table 2. Survival rates from 5 to 12 months after fertilization and body weights, body lengths, and number of mature individuals 12 months after fertilization of three-subspecies F2 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.) abbreviated as B, and masu salmon (cherry salmon) (Oncorhynchus masou masou) abbreviated as C

3亜種間雑種 F2 の受精後12ヶ月における成長と成熟

受精後約12ヶ月の平均体重と平均体長を調査したところ、3亜種間雑種 F2 の家系1~4はそれぞれ214.8 g と23.9 cm、217.9 g と23.7 cm、222.9 g と23.4 cm、248.2 gと24.1 cm であった(Table 2)。また、アマゴ(2019年世代)の平均体重は286.0 g で平均体長は25.6 cm であった(Table 2)。第二次性徴や排卵、排精の確認から成熟した雌と雄を判断したところ、受精後12ヶ月で成熟した、いわゆる早熟雌は3亜種間雑種 F2 の家系1で2個体、アマゴ(2019年世代)で6個体見られた(Table 2)。一方、受精後12ヶ月で成熟した、いわゆる早熟雄は3亜種間雑種 F2 の家系1~4でそれぞれ132個体、118個体、105個体、132個体であった(Table 2)。また、アマゴ(2019年世代)も116個体の早熟雄が見られた(Table 2)。

3亜種間雑種 F2 の受精後12ヶ月及び18ヶ月における選抜

性別不明で体重が約200 g 以上の個体を選抜後、3亜種間雑種 F2 の家系1~4のそれぞれ70個体、77個体、116個体、131個体を、アマゴ(2019年世代)の134個体を引き続き飼育した。なお、選抜した個体の平均体重と平均体長は、3亜種間雑種 F2 の家系1~4において、それぞれ288.4 g と26.1 cm、290.7 g と26.7 cm、269.5 g と26.2 cm、283.7 g と26.4 cm であった(Table 3)。また、同様に選抜したアマゴ(2019年世代)の平均体重は290.6 g で平均体長は26.6 cm であった(Table 3)。

受精後約18ヶ月において体重500 g 以上の個体をさらに選抜したところ、3亜種間雑種 F2 の家系1~4のそれぞれ56個体、65個体、98個体、92個体、アマゴ(2019年世代)の123個体を引き続き飼育することになった(Table 3)。なお、3亜種間雑種 F2 の家系1~4における選抜個体の平均体重と平均体長は、それぞれ910.8 g と35.1 cm、858.0 g と34.5 cm、833.6 g と33.9 cm、776.3 g と32.9 cm であった(Table 3)。また、同様に選抜したアマゴ(2019年世代)の平均体重は908.6 g で平均体長は34.3 cm であった(Table 3)。

Table 3. Body weights and body lengths 12 months after fertilization of individuals of unknown sex on the basis of body weight over 200 g and 18 months after fertilization of individuals of unknown sex selected on the basis of body weight of over 500 g in three-subspecies F2 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.) abbreviated as B, and masu salmon (cherry salmon) (Oncorhynchus masou masou) abbreviated as C

3亜種間雑種 F2 の受精後24ヶ月における成長と成熟

受精後約24ヶ月で飼育を終了した。この時点における生残個体数は3亜種間雑種 F2 の家系1~4がそれぞれ49個体、60個体、86個体、85個体で、アマゴ(2019年世代)は97個体であった。また、3亜種間雑種 F2 の家系1~4における生残個体の平均体重と平均体長は、それぞれ1,720.5 g と43.2 cm、1,552.6 g と42.8 cm、1,518.9 g と42.5 cm、1,442.6 g と41.9 cm で、アマゴ(2019年世代)は1,627.2 g と42.3 cm であった(Table 4)。大型の個体も見られ、3亜種間雑種 F2 の家系1では体重 2 kg 以上の雌9個体(孵化個体の1.9%)、1.5 kg 以上 2 kg 未満の雌25個体と雄 1 個体(孵化個体の5.3%)が確認された。同様に3亜種間雑種 F2 の家系2では体重 2 kg 以上の雌7個体(孵化個体の1.6%)、1.5 kg 以上 2 kg 未満の雌26個体と雄2個体(孵化個体の6.5%)、3亜種間雑種 F2 の家系3では体重 2 kg 以上の雌2個体と雄8個体及び性別不明1個体(孵化個体の2.4%)、1.5 kg 以上 2 kg 未満の雌20個体と雄5個体及び性別不明1個体(孵化個体の5.6%)、3亜種間雑種 F2 の家系4では体重 2 kg 以上の雌 4 個体(孵化個体の0.9%)、1.5 kg 以上 2 kg 未満の雌25個体と雄 4 個体(孵化個体の6.5%)が確認された。また、アマゴ(2019年世代)では体重 2 kg 以上の雌7個体と 雄7個体(孵化個体の0.4%)、1.5 kg 以上 2 kg 未満の雌38個体と雄12個体(孵化個体の1.5%)が確認された。

第二次性徴や排卵、排精を確認したところ、ほとんどの個体が成熟しており(Fig. 3)、未成熟個体は3亜種間雑種 F2 の家系1が1個体と3亜種間雑種 F2 の家系3と4で各2個体のみであった(Table 4)。3亜種間雑種 F2 の家系1~4における成熟個体の割合は、それぞれ98.0%、100.0%、97.7%、97.6%で、アマゴ(2019年世代)は100.0%であった(Table 4)。なお、3亜種間雑種 F2 の家系1~4における雌と雄の個体数は、それぞれ47個体と1個体、56個体と4個体、64個体と20個体、73個体と10個体で、アマゴ(2019年世代)は74個体と23個体であった(Table 4)。

Table 4. Body weights, body lengths and number of mature individuals 24 months after fertilization of selected three-subspecies F2 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.) abbreviated as B, and masu salmon (cherry salmon) (Oncorhynchus masou masou) abbreviated as C

Fig. 3. Secondary sexual characteristics of males and females of four families of three-subspecies F2 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae), biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.), and masu salmon (Oncorhynchus masou. masou).

a: Female of Family 1 (Body Weight, 2,500 g, Body Length, 46.8 cm), b: Male of Family 1 (BW, 1,754 g, BL, 45.6 cm), c: Female of Family 2 (BW, 2,002 g, BL, 47.0 cm), d: Male of Family 2 (BW, 1,660 g, BL, 46.4 cm), e: Female of Family 3 (BW, 2,104 g, BL, 47.6 cm), f: Male of Family 3 (BW, 2,996 g, BL, 50.0 cm), g: Female of Family 4 (BW, 2,420 g, BL, 50.6 cm), h: Male of Family 4 (BW, 1,682 g, BL, 46.4 cm).

3亜種間雑種 F2 の交配と3亜種間雑種 F3 の初期生残

3亜種間雑種 F2 から3亜種間雑種 F3 を4家系作出した(Table 5)。3亜種間雑種 F3 の家系1と3は、遺伝的多様性を考慮して次世代を作出するため、大型の雌と雄を10個体以上用いて交配した。また、3亜種間雑種 F3 の家系2と4は、大型で鰭の形態が正常と判断され、朱点などの模様が明瞭な雌と雄を選抜して交配した。3亜種間雑種 F3 の家系1~4を作出する交配に用いた2亜種間雑種 F2 の雌の平均体重と平均体長は、それぞれ1,827.1 gと45.2 cm、2,222.3 g と47.5 cm、2,139.7 g と46.2 cm、2,345.0 g と45.9 cm で、雄の平均体重と平均体長は、それぞれ1,622.0 g と44.1 cm、2,151.0 g と46.7 cm、1,446.4 g と42.5 cm、1,838.0 g と44.5 cm であった。アマゴ(2021年世代)は、遺伝的多様性を考慮し、大型の雌21個体と雄15個体を用いて交配するとともに、大型の雌10個体と雄 6 個体を用いて交配し作出した(Table 5)。また、大型で鰭の形態が正常と判断され、朱点などの模様が明瞭な雌 4 個体と雄 4 個体を選抜して交配し、アマゴ(2021年世代)を作出した(Table 5)。アマゴ(2021年世代)を作出する上記3交配に用いた雌の平均体重と平均体長は、それぞれ1,729.6 g と43.2 cm、1,824.6 g と44.3 cm、2,243.3 g と47.6 cm で、雄の平均体重と平均体長は、それぞれ1,798.9 g と44.3 cm、2,095.7 g と46.2 cm、2,369.5 g と47.4 cm であった。3亜種間雑種 F3 の家系1~4の孵化率は、それぞれ66.8%、57.4%、51.9%、45.0%であった(Table 5)。また、アマゴ(2021年世代)の孵化率は、それぞれ57.4%、78.4%、88.2%であった(Table 5)。

Table 5. Survival rates of hatchings of three-subspecies F3 hybrids among amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae) abbreviated as A, biwa salmon (Oncorhynchus masou subsp.), and masu salmon (cherry salmon) (Oncorhynchus masou masou)

考  察

3亜種間雑種 F2 の生残性

3亜種間雑種 F2 の家系1~4の孵化率には大きな違いは認められず、家系間に差はほとんど無いと考えられた。また、アマゴ(2019年世代)の孵化率とも差が無いため、各2亜種間雑種 F1 の卵と精子の受精能や、3亜種間雑種 F2 の初期発生における生残性はアマゴと、それぞれ同様であったと考えられた。なお、孵化してから受精後5ヶ月までの屋内飼育については、飼育水槽の大きさ等の飼育環境が3亜種間雑種 F2 とアマゴ(2019年世代)間で異なることや、飼育水槽の制限からアマゴ(2019年世代)は大きさで選別して小型の個体を除去し飼育数を減らしたため、3亜種間雑種 F2 とアマゴ(2019年世代)の生残性を比較することはできなかった。

3亜種間雑種 F2 の屋外飼育池で飼育した受精後 5ヶ月~12ヶ月の生残性は、アマゴと差が無いと考えられた。アマゴ雌×サクラマス雄の2亜種間雑種 F1 の雌雄を交配して得た次世代(F2)は、孵化率はサクラマスや上記2亜種間雑種 F1 と大差なかったが、1年間飼育した結果ではサクラマスや上記2亜種間雑種 F1 よりも生残性が低かったという報告がある 8)。この理由として、2亜種間雑種 F1 同士を交配した次世代(F2)では、片方の親魚種の形質が分離してくるからではないかと考えられている 8)。これに対し、3亜種間雑種 F2 の家系1~4がアマゴと同様の生残性を示したのは、アマゴ×ビワマスの2亜種間雑種 F1 とアマゴ×サクラマスの2亜種間雑種 F1 を交配したことにより、各相同染色体の由来が2亜種となる確率が、理論上では3/4(アマゴとビワマスの組み合わせで1/4、アマゴとサクラマスの組み合わせで1/4、ビワマスとサクラマスの組み合わせで1/4)となり、同亜種となる確率が1/4(アマゴとアマゴの組み合わせで1/4)となったことから、ホモになる遺伝子座が少なく、片方の親魚亜種の形質が分離する確率が減ったことも理由として考えられた。

3亜種間雑種 F3 の生残性

3亜種間雑種 F3 では、理論上アマゴ雌由来のゲノムを3/8、アマゴ雄由来のゲノムを1/8、ビワマス雌由来のゲノムを1/8、ビワマス雄由来のゲノムを1/8、サクラマス雄由来のゲノムを1/4有する。この場合、各相同染色体の由来が2亜種となる確率が、理論上では5/8(アマゴとビワマスの組み合わせが1/4、アマゴとサクラマスの組み合わせが1/4、ビワマスとサクラマスの組み合わせが1/8)となり、同亜種となる確率が3/8(アマゴとアマゴの組み合わせが1/4、ビワマスとビワマスの組み合わせが1/16、サクラマスとサクラマスの組み合わせが1/16)となる。このため、3亜種間雑種 F3 は3亜種間雑種 F2 よりも各相同染色体の由来が同亜種となる確率が理論上1/8高くなる。3亜種間雑種 F3 の孵化率が、アマゴ(2021年世代)よりも低い傾向にあったのは、各相同染色体の由来が同亜種となる確率が3亜種間雑種 F2 よりも1/8高くなることも影響した可能性があると考えられた。しかし、詳細は不明であるため、3亜種間雑種 F2 のゲノム情報やこれとアマゴの戻し交配の結果等を得た上で改めて考察する必要がある。

3亜種間雑種 F2 の成長

3亜種間雑種 F2 の受精後約12ヶ月における成長は、家系4が他の家系よりも少し成長が良かった傾向にあると考えられた。3亜種間雑種 F2 とアマゴ(2019年世代)では、孵化してから受精後 5ヶ月までの飼育水槽の大きさ等の飼育環境が異なるため、成長を比較できない。しかし、アマゴ(2019年世代)は孵化してから受精後 5ヶ月までに大きさで選別して小型の個体を除去することにより、飼育数を約1/8に減らしたことを考慮すると、3亜種間雑種 F2 はアマゴ(2019年世代)よりも受精後約12ヶ月までの成長が良かった可能性がある。

3亜種間雑種 F2 の受精後約12ヶ月から受精後約18ヶ月の秋から翌年春までの成長では、家系4は他の家系よりも少し悪かった傾向にあった。しかし、受精後約12ヶ月からの飼育個体数が家系間で異なることから、飼育密度の影響も考えられた。また、3亜種間雑種 F2 はアマゴ(2019年世代)と同様の成長を示したと考えられた。

3亜種間雑種 F2 の受精後約18ヶ月から受精後24ヶ月の春から秋までの成長では、家系1が他の家系よりも成長が早い傾向があり、家系4が他の家系よりも成長が遅い傾向が見られた。しかし、3亜種間雑種 F2 の個体数が、家系間で異なることから、飼育密度の影響も考えられた。また、3亜種間雑種 F2 はアマゴ(2019年世代)と同様の成長を示したと考えられた。3亜種間雑種 F2 とアマゴ(2019年世代)ともに、受精後18ヶ月から24ヶ月の成長は平均体重で2倍を超えることはなかった。これは、夏至以降に死亡した個体の生殖腺が発達していたことから、成熟により生殖腺形成にエネルギーが利用されたことや、成熟との関連は不明であるが摂餌量の低下が見られたことから、受精後2年目の夏期の成長が悪かったためと推測された。

孵化仔魚のうち受精後24ヶ月で体重1.5 kg 以上になった個体の割合は、3亜種間雑種 F2 の家系間で差はほとんど無く、アマゴ(2019年世代)よりも割合が高い傾向にあると考えられた。3亜種間雑種 F2 を作出する交配に用いた2亜種間雑種 F1 では受精後24ヶ月で体重1.5 kg 以上であった親魚は3個体(アマゴ雌×サクラマス雄(AC)雌2個体(1,604 g、1,512 g)、ビワマス雌×アマゴ雄(BA)雌1個体(1,528 g))であった。一方、交配に用いたアマゴ(2017年世代)では受精後24ヶ月で体重1.5 kg 以上であった親魚は無く、最重量の雌で体重1,410 g であった。また、2亜種間雑種 F1 を作出した親魚である本3亜種のうち、アマゴ(2015年世代)とビワマスは受精後24ヶ月で体重0.5 kg 未満の個体を交配に使用しており、サクラマスは受精後36ヶ月で体重0.8 kg 未満の個体を交配に使用していた。アマゴ(2017年世代)を作出したアマゴ(2015年世代)の親魚は受精後24ヶ月で体重0.6 kg 未満の個体であった。なお、飼育条件は各世代でほぼ同様と考えられた。これらから、2亜種間雑種化さらに3亜種間雑種化したことや大型個体を親魚に用いたことにより、3亜種間雑種 F2 やアマゴ(2019年世代)では受精後24ヶ月の淡水飼育で体重1.5 kg 以上になる大型個体が出現した可能性があると考えられた。また、3亜種間雑種 F2 ではアマゴ(2019年世代)よりも受精後24ヶ月で体重1.5 kg 以上になる個体の割合が高い傾向にあったのは、3亜種間雑種 F2 の作出に用いた2亜種間雑種 F1(BA 及び AB)雌と(AC)雄が、アマゴ(2019年世代)の作出に用いたアマゴ(2017年世代)よりも大型であったことも影響した可能性がある。このため、本3亜種のより大型の個体を親魚に用いることで、2亜種間雑種 F1 や3亜種間雑種 F2 がより大型になるか、検討する必要がある。

3亜種間雑種 F2 の成熟

受精後24ヶ月における3亜種間雑種 F2 の成熟は、家系間の差はほとんど無く、アマゴ(2019年世代)の成熟と同様であったと考えられた。なお、3亜種間雑種 F2 とアマゴ(2019年世代)ともに雄の割合が雌よりも低いが、これは受精後12ヶ月に早熟雄を除去したためと推測された。

アマゴでは放流等を通じてサクラマスやビワマスとの交雑が確認されている 19-22)。このため、妊性を有する3亜種間雑種 F2 も自然水域でアマゴやビワマス及びサクラマスと交雑する可能性がある。さらに、アマゴはイワナとも属間交雑することが報告されている 10),23-25)ため、3亜種間雑種 F2 もイワナと属間交雑する可能性がある。自然水域における生態系への影響を考える上では、人為的に作出した3亜種間雑種 F2 とアマゴやイワナといった在来種との交雑後代について特性を調べることが重要である。そこで、3亜種間雑種 F2 と親魚である本3亜種との戻し交配やイワナ等の他のサケ科魚類との交雑を行い、後代の生存性や成熟を調べる必要がある。また、上述の通り3亜種間雑種 F3 が作出できたことから、これの成長や生残性及び妊性を調査し、3亜種間雑種 F4 以降の世代が得られるか検討するとともに、妊性がある場合は上記戻し交配やサケ科魚類との交雑により、後代が得られるか確認する必要がある。

このような人為的に作出した魚類の交雑を通じた生態系影響の軽減には、不妊化が有効であると考えられる。よって、3亜種間雑種 F2 においても不妊化に効果的な3倍体魚の作出方法の開発26-30)や、放射線照射を利用した不妊化手法の開発 31-34)等に関する研究も必要になると考えられる。交雑の有無を迅速に把握するには、ゲノム DNA を利用した種判別や亜種判別用の DNA マーカーが有効である20,35-41)しかし、3亜種間雑種 F2 はアマゴ由来のゲノムを1/2,ビワマス由来のゲノムを1/4,サクラマス由来のゲノムを1/4の割合で有し、個体間で各相同染色体の由来が異なると予想される。すなわち、同じ相同染色体でも、個体によってアマゴ由来の染色体とビワマス由来の染色体の組み合わせ、アマゴ由来の染色体とサクラマス由来の染色体の組み合わせ、ビワマス由来の染色体とサクラマス由来の染色体の組み合わせ、アマゴ由来の染色体とアマゴ由来の染色体の組み合わせの4通りのうちのどれかになる。さらに2亜種間雑種 F1 の減数分裂時に亜種間由来の染色体間で組換えが生じる可能性を考慮すると、特定の遺伝子の塩基配列を利用した種判別や亜種判別用の DNA マーカーでは、3亜種間雑種 F2 やこれ以降の世代を親魚種である上記3亜種や2亜種間雑種 F1 と判別するのは困難である。よって、多数の遺伝子座で上記3亜種を判別できる DNA マーカーや、アマゴ、サクラマス、ビワマスのゲノム情報を蓄積してこれとの塩基配列比較により2亜種間雑種 F1や3亜種間雑種 F2 以降の世代を上記3亜種から判別できる手法の開発が必要になると考えられる。

3亜種間雑種 F3 の成熟と成長予測

アマゴでは早熟雄やパーの雌を親魚に用いると次世代の早熟雄の出現率が上昇し、雄親魚や雌親魚にスモルトを用いると次世代のスモルトの出現率が上昇することが知られている42-44)。また、外観を選抜指標としてスモルト同士を交配することによって、雌雄ともスモルト化率の高い系統が作られている 42,45)。さらに、系群間や個体間で成熟と非成熟に分化する魚体の大きさが異なることも報告されている 42,46)。サクラマスにおいても、継代飼育により早熟雄の出現率が低くなり、スモルトの出現率が高くなっている飼育群があることや、早熟雄を親魚に用いると次世代の早熟雄の出現率が上昇すること、春季の成長率および体サイズがサクラマスの0+のスモルト化に影響を及ぼすことが知られている 47-49) 。3亜種間雑種 F3 は、受精後約12ヶ月では体色が銀白色で性別不明であったが、受精後約24ヶ月では成熟した3亜種間雑種 F2 の雌雄を交配して作出した。このため、3亜種間雑種 F3 は早熟個体の出現率が3亜種間雑種 F2 よりも低くなる可能性が考えられた。アマゴ(2021年世代)も3亜種間雑種 F2 と同様の成熟特性を示したアマゴ(2019年世代)の雌雄を交配して作出したため、早熟個体の出現率がアマゴ(2019年世代)よりも低くなる可能性がある。また、交配に用いた3亜種間雑種 F2 やアマゴ(2019年世代)は、受精後約12ヶ月で体重が約200 g 以上、受精後約18ヶ月で体重が約500 g 以上であった個体であるため、受精後約18ヶ月までの成長が良い。これらから、受精後2年目の冬期における海面飼育に適した3亜種間雑種 F3 やアマゴ(2021年世代)が得られる可能性もある。一方で、ビワマスのスモルトはアマゴのスモルトより海水適応能が低いとする報告がある 50)ため、3亜種間雑種 F2 やこれ以降の世代では海水適応能が弱いスモルトが一部出現する可能性がある。このため、受精後2年目の冬期に海面飼育する養殖に3亜種間雑種 F2 やこれ以降の世代を利用する場合は、あらかじめスモルトの海水適応能を調査する必要があると考えられる。淡水飼育においても、上記受精後約12ヶ月及び約18ヶ月の体サイズに基づく選抜により、3亜種間雑種 F3 やアマゴ(2021年世代)では受精後約24ヶ月で1.5 kg 以上になる個体が親世代と同様あるいはそれ以上の割合で出現する可能性がある。しかし、スモルト化率が高くなると予想されるため、大型のパー系統を作出したい場合は、アマゴで報告されている 44,46)ように3亜種間雑種 F2 やこれ以降の世代でも大型で雌のパー個体や大型の早熟雄を選別して交配に用いることが有効と考えられる。

他の交配組み合わせによる3亜種間雑種 F2 の作出

本研究では4家系の3亜種間雑種 F2 を作出したが、サクラマス雌を利用した3亜種間雑種 F2 も作出できると考えられる。また、サクラマスとビワマスの2亜種間雑種 F1 とサクラマスとアマゴの2亜種間雑種 F1 を交配して、サクラマス由来のゲノムを1/2,ビワマス由来のゲノムを1/4,アマゴ由来のゲノムを1/4の割合で有する3亜種間雑種 F2 や、ビワマスとアマゴの2亜種間雑種 F1 とビワマスとサクラマスの2亜種間雑種 F1 を交配して、ビワマス由来のゲノムを1/2,アマゴ由来のゲノムを1/4,サクラマス由来のゲノムを1/4の割合で有する3亜種間雑種 F2 も作出できると考えられる。本研究ではミトコンドリア DNA の由来がアマゴであるかビワマスであるかを含めて異なる交配の組み合わせで4家系の3亜種間雑種 F2 を作出したが、家系間で生残性や成長、妊性は同様であった。しかし、サケ科魚類の雑種は雌親魚種と雄親魚種の組み合わせが逆になると、雑種 F1 や異質3倍体の生残性や成長および妊性が変わることある2-8)ことから、本研究とは異なる交配の組み合わせで作出した3亜種間雑種 F2 は、上記4家系の3亜種間雑種 F2 とは異なる特性を示す可能性がある。このため、本研究で作出した3亜種間雑種 F2 とは異なる交配の組み合わせで3亜種間雑種 F2 を作出して特性を調査し、3亜種の優良形質を兼ね備えた新しい国産養殖用サケ科魚類(亜種間雑種)が得られるか確認することも必要である。

3亜種間雑種 F2 の育種素材としての可能性

本研究結果から、アマゴとビワマス及びサクラマスの3亜種間雑種 F2 は近交弱勢が見られず、生残性はアマゴと同等であり、受精してから24ヶ月の淡水飼育で体重 2 kg 以上の個体も得られたことから、新しい国産養殖用サケ科魚類として利用可能であると考えられた。また、3亜種間雑種 F3 が得られたことから、これ以降の世代で3亜種間雑種 F2 の特性を維持あるいは改良できれば、毎年交雑して3亜種間雑種 F2 を作出する必要が無いため、継続的に利用しやすいと考えられた。この場合、3亜種間雑種 F2 はアマゴとビワマス及びサクラマスの優良形質を兼ね備えた新しい国産養殖用サケ科魚類の作出に貢献する育種素材になる。さらに、3亜種間雑種 F2 は親魚に用いた上記3亜種の特性を受け継ぐことや遺伝的多様性が高いと予想されることから、これをもとに淡水養殖や海面養殖及び陸上養殖での生産にそれぞれ適した養殖集団が開発できる可能性がある。また、アマゴやサクラマス等と戻し交配することで、養殖サケ科魚類における複数の新しい日本ブランドや地域ブランドの確立にも活用できると期待された。一方で、妊性のある3亜種間雑種は、在来のサケ科魚類と交雑する恐れがあるため、不妊化や逃亡を阻止する飼育施設での飼育など、利用においては生態系への影響に注意する必要がある。

謝  辞

本研究の実施にあたり貴重な助言、便宜を図って頂いた国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所育種研究センター(当時)と同機構水産技術研究所育種部及び材料を提供頂いた同機構中央水産研究所日光庁舎(当時)の方々に深謝する。本研究は国立研究開発法人水産研究・教育機構の支援を受けた。

文  献
 
© The Japanese Society of Fish Genetics and Breeding Science
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