2025 Volume 8 Issue 1 Pages 27-32
【目的】当院で施行した経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)のComplicationについて後方視的に検討すること。【対象と方法】2021年10月から2024年7月までの期間で、当科でPEGを施行した102症例を対象に、1)患者背景、2)Complication、3)Complicationへの対応、4)術後30日以内死亡例のリスク因子について検証した。【結果】1) 男性49例、女性53例で平均年齢は81.0歳(46-97歳)であった。適応疾患は廃用症候群44例、脳血管障害37例、進行性神経筋疾患10例、悪性腫瘍4例、認知症4例、蘇生後脳症2例、頚髄損傷1例であり、廃用症候群と脳血管障害が多かった。抗血小板剤・抗凝固薬投与は46例(45.1%)であった。血清Alb値の平均は2.8g/dL(1.2-4.3 g/dL)であった。2) Complicationは15例(14.7%)であった。出血が10例で最も多く、その中の2例は誤嚥性肺炎,アナフィラキシーショックの併発も認めた。他、術後30日以内の死亡3例(2.9%)、敗血症1例、自己抜去1例であった。3) 出血に対しては刺入部の結紮、内視鏡的止血、輸血で対応し全例で止血が得られた。敗血症に対しては抗生剤治療を、自己抜去に対してはカテーテル挿入による瘻孔確保ができなかったために後日再造設を行った。4) 3例に共通したリスク因子は「高齢、低Alb血症、予後推定栄養指数(Prognostic Nutritional Index;PNI)37未満」であった。【結語】抗血栓療法や低栄養状態はPEGにおけるリスクとなり、致死的合併症を生じる可能性がある。造設医師はPEGのComplicationについて十分に理解し、安全性を追求する責務がある。
第27回道南医学会医学研究奨励賞(医師部門)
2021年10月から2024年7月までの期間で、当科で経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を施行した102症例を対象として後方視的に検証した。Complicationは15例(14.7%)で出血が10例と最も多く、その中の2例は誤嚥性肺炎、アナフィラキシーショックの併発も認めた。他、術後30日以内の死亡3例(2.9%)、敗血症1例、自己抜去1例であった。出血に対しては刺入部の結紮、内視鏡的止血、輸血で対応し全例で止血が得られた。敗血症に対しては抗生剤治療を、自己抜去に対しては後日再造設を行った。死亡した3例に共通したリスク因子は「高齢、低Alb血症、予後推定栄養指数(Prognostic Nutritional Index;PNI)37未満」であった。抗血栓療法や低栄養状態はPEGにおけるリスクとなり、致死的合併症を生じる可能性がある。造設医師はPEGのComplicationについて十分に理解し、安全性を追求する責務がある。
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)はGaudererとPonskyにより報告された内視鏡手術である1)。造設手技はカテーテルの挿入方向の違いによりPull/Push法(upward:胃内から体外に向かう)、Introducer法(down ward:体外から胃内に向かう)の2つに分類される2)。Pull/Push法とIntroducer法の違いはカテーテルが口腔咽頭を経由しないためにIntroducer法で清潔操作が可能である点である2)。Introducer法はさらにPEG・在宅医療研究会学術用語委員会においてバルーン型カテーテルで造設されるIntroducer原法とバンパー型カテーテルで造設されるIntroducer変法に分類された3)。口腔咽頭や食道に狭窄や腫瘍がある場合には出血や腫瘍のimplantationを避けるために、Introducer法での留置が第一選択となる4,5)。
PEGは高齢化や在宅医療の推進に伴って急速に普及している。技術的には簡便であるが、全身状態が低下し,低栄養状態にある高齢者に行うことが多いためにComplicationを経験する。当院では2021年10月から消化器内視鏡医がIntroducer変法により施行している。
使用製品:EndoViveTM Seldinger PEG Kit
1. 苦痛を軽減するために意識下鎮静で行う。
2. 経口内視鏡を挿入し胃内腔側から指圧迫サイン、腹壁側から透過光サインが確認できる部位を同定し穿刺部位を選択する(二酸化炭素送気)。
3. 局所麻酔剤を局注後、胃壁固定具(鮒田式胃壁固定具Ⅱ)を用いて3-4か所胃壁固定を行う。
4. 穿刺部位にT字切開を入れる。
5. カニューラ針を切開部から胃内まで穿刺し、ガイドワイヤを通す。
6. ガイドワイヤに沿わせてダイレーターで拡張し、造設ボタン(シャフト径20Fr)を挿入する。
7. ガーゼ・スペーサで圧迫止血を行う。
8. カテーテルに減圧チューブを接続し、翌日まで開放する。
当院で施行したPEGのComplicationについて後方視的に検討すること。
2021年10月から2024年7月までの期間で、当科でPEGを施行した102症例を対象に、1)患者背景、2)Complication、3)Complicationへの対応、4)術後30日以内死亡例のリスク因子について検証した。なおComplicationはPEG・在宅医療研究会(HEQ)学術・用語委員会の定義に6)準じた(表1)。
主訴:胃瘻造設目的
現病歴:左視床出血で他院入院中であった。栄養目的の胃瘻造設依頼で紹介入院した。
既往歴:心原性塞栓症,症候性てんかん
抗血栓薬:エドキサバン
PEG:3か所の胃壁固定を行い、バンパー・ボタン型(20Fr3.0cm)を挿入した。胃壁固定時に生じた胃粘膜下血腫からの漏出性出血に対してクリップ止血を施行した(図1)。
経過
2日目:胃瘻刺入部から出血し圧迫と結紮で止血
5日目:吐血し上部消化管内視鏡検査を施行した。胃瘻刺入部からの漏出性出血に対して吸収性局所止血剤(ピュアスタットⓇ)を塗布したが漏出性出血が持続したためにクリップで止血した(図2)。
17日目:再出血なく転院した。
1)PEGの適応
PEGの適応は1) 嚥下摂食障害、2) 繰り返す誤嚥性肺炎、3) 炎症性腸疾患、4) 減圧治療、5) その他の特殊治療とされている(表5)7)。またPEGは低侵襲の手術であるが、患者の全身状態が不良である場合は相対的に高侵襲の手術になるために、極度の低栄養(Alb ≦ 2.5g/dL)や貧血(Hb ≦ 8.0g/dL)、重篤な感染症を有している場合にはそれらの治療を優先させるべきと記載されている7)。当院の対象症例は平均年齢81.0歳の低栄養(Alb平均値:2.8g/dL)患者であり、廃用症候群、脳血管障害、進行性神経筋疾患等の栄養投与経路目的、頭頚部領域癌の手術あるいは放射線治療前からの栄養介入目的であった。
2)Complication
造設時のComplicationとして出血、他臓器穿刺、肺炎、腹膜炎、麻痺性イレウス、気腹、瘻孔感染等が報告されている5)。 Complicationの発生率について嶋尾は5.9-37.2%で重症偶発症は1%前後8)、上野らはmajor complicationは約4%で、minor complicationは4-16%である9)と報告している。
PEGは観血的な処置であるために、ある程度の出血や粘膜下血腫は必発である10)。Introducer変法はPull/Push法と比較し瘻孔拡張が必要であること、胃壁固定術を行うために穿刺回数が増加することから出血リスクが高いと報告されている10),11),12)。また抗血栓薬服用者においてPEGは出血高危険度であり13)、比較試験において抗血栓服用者の出血リスクは有意に高いことが報告されている14)。
当院のComplicationは14.7%(major:6.9%、minor:7.8%)であり既報と同様であった。抗血栓薬投与例が約半数を占めていることから、出血例はすべて抗血栓薬服用者であった(1例はヘパリン置換)。
3)Complicationへの対応(出血)
Complicationとその対処法については論文報告されており5),7),10)、出血については圧迫で止血困難な場合には内視鏡的止血術、結紮、外科的処置を行う。内視鏡的止血術については局注法、機械的止血法、熱凝固法、薬剤散布法がある15)。当院から胃瘻造設後出血に対するピュアスタットⓇを用いた止血を初めて報告した(表3:症例2)16)。我々はピュアスタットⓇは他の止血法と組み合わせても有効であることを報告しており17),18)、1例はクリップとの併用で止血し得た(症例提示)。
4)早期死亡とリスク因子
近年のSystematic reviewで術後30日以内の死亡率は2.4-23.5%であり、リスク因子はAlb、CRP、DM、認知症であると報告されている19)。またOtaらの多施設研究でBMI、Alb、癌の合併がリスク因子でありカットオフ値はBMI 17.6、Alb 3.2と報告された20)。またPNI(<37)は早期死亡の予測因子であることが報告された21)。本検討の3例に共通したリスク因子は「高齢、低Alb血症、PNI37未満」であった。また依頼医師と造設医師が異なっており、2例は他科からで1例は他医療機関からの依頼であった。したがって造設医師は患者の全身状態と検査所見からリスクを把握し、胃瘻適応の判断も含めて検討する必要がある。
抗血栓療法や低栄養状態はPEGにおけるリスクとなり、致死的合併症を生じる可能性がある。造設医師はPEGのComplicationについて十分に理解し、安全性を追求する責務がある。
本論文内容に関連する著者の利益相反なし
表1 Complicationの定義 6)
表2 患者背景*
表3 Complication15例のまとめ
表4 術後30日以内死亡例のリスク因子
表5 PEGの適応 7)
図1 症例提示:胃粘膜下血腫
図2 症例提示:後出血