抄録
神奈川県小田原市国府津海岸に漂着した甲長 470 mm の未成熟の雌のアオウミガメの消化管から、植物片と共に人工物が発見された。アオウミガメが誤飲する人工物の色や大きさなどの傾向を調べるため、消化管から得られた人工物を分類し計測を行った。その結果、透明・半透明の軟質プラスチックが大部分を占める一方、有色の軟質プラスチックの割合は低かった。そのほか、人工繊維が 2 点発見されたが、硬質のプラスチックは含まれていなかった。軟質プラスチックの最大長は約 210 mmであり、それ以下の小さい破片が多く含まれていた。直腸から見つかった帯状の白色の軟質プラスチックは、元の形状を保持していたことから、アオウミガメが 200 mm 程度の大きさを体内に取り込み、排泄が可能であることを示唆していた。このアオウミガメの腹部は脂肪層が発達していたことから栄養状態が極端に悪い状態ではなく、人工物の誤飲が栄養状態の低下をもたらし、直接的な死因となった可能性は低い。しかし、頭部にフジツボの付着痕と見られる穴が 19 箇所認められ、そのうち 1 つは頭骨を貫通していた。アオウミガメに付着するフジツボの中でもサラフジツボは骨を侵蝕する。また、病気の個体に大量に付着するため、健康状態の悪化を示す指標としても知られている。今回研究対象となったアオウミガメについて、人工物の誤飲と健康状態の悪化の関係は明らかではないが、フジツボの痕跡は、このアオウミガメの健康状態が悪化していたことを示唆し、頭骨の貫通を許すまでに体が弱り最終的に死に結びついた可能性がある。今後も神奈川県に漂着するウミガメの消化管内容物や、固着性生物による外傷など包括的に注視していく必要がある。